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山崎元のホンネの投資教室

2007年11月16日
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 目下話題のサブプライム問題も考えてみるとバブルの一種だ。多数のサブプライム・ローンを証券化して組み込んだ商品(CDOやABCP)を、安定した高いリターンがあると見なして本来の価値以上の価格が形成されていたからだ。そして、一般に、バブルが育つためには、三つの条件が必要だと筆者は考えている。


■条件の1.金融の緩和

 一つ目は「金融の緩和」だ。あるいは「信用の容易な拡大」ということでもいい。80年代後半の日本の株価・地価バブルの場合、87年のブラックマンデー以降の日銀の低金利政策が重要な役割を果たしたことがよく指摘される。確かに、低金利でお金を借りやすい状態は多くの人々が株式や不動産などの購入に向かいやすい前提条件の一つだ。また、もう少し細かく見ると、たとえば不動産を担保にした借金でまた不動産を買うといったことがどの程度可能か、先物・オプション・信用取引・各種の店頭デリバティブのようなレバレッジを高める手段がどの程度利用しやすいかが重要だ。

 レバレッジが働いた投資ポジションができている状態は、投資主体がリスク・テイクの上で無理をしていることが多い。レバレッジが拡大する過程では、例えば株価は堅調に上昇しているように見えることが多いが、その間、市場には、「我慢の利かないポジション」が積み上がっているということだ。


■条件の2.リスクの誤認

 二つ目の条件は「リスクの誤認」だ。あえて順番をつけると、これが一番重要だと思う。本当はあるはずのリスクが、見えなくなったり、過小評価されやすくなったりする仕掛けが、本格的なバブルが発生するためにはぜひとも必要だ。

 80年代後半の日本の地価バブルは世界のバブルの歴史の中でも大規模な第一級のバブルだったと思われるが、ここでは「土地神話」と呼ばれた、土地の値段は絶対に下がらないという人々の希望的信念が重要な役割を果たした。

 80年代の末期には、たとえば、ファンドマネジャーを仕事にしているような人を相手にする場合でも、不動産から得られる収益(家賃収入など)から計算される不動産価値と、不動産価格があまりに離れた状況では、不動産価格が維持できないということを説明するのに骨が折れた。今で言う「収益還元法」を、理屈は分かるとしても、土地に適用することを納得してくれなかったのだ。「日本では土地は特別な存在であり、値下がりしないのだ」とか「土地はファイナンスの土台になっているから、地価が下がると日本は大変なことになるので、そんな事は起こらない」などと反論されたことを覚えている。後の推移を見ると、日本は確かに「大変なこと」になったが、大変だからといってそれが避けられたわけではない。推論に願望が混じるのは、バブルにはまる投資家に共通する特徴でもある。

 株式の場合はどうだったか。ここでは、当時市場で主要な地位を占めていた機関投資家の間で「握り」によるリスク誤認が起こっていた。「握り」とは、利回り保証(当時の法律でも違法なのだが)を意味する業界用語だ。証券会社の場合は、後に特定顧客への損失補填が問題になった「営業特金」と呼ばれる、特定金銭信託を使った株式運用で、「握り」があった。信託銀行は通称「ファントラ」と呼ばれた、ファンドトラストという仕組みを使った運用受託が盛んだった。例えば、信託銀行Aが法人顧客Xに対して、長期プライムレートプラス0.1%といった利回りを握って(=保証して)ファンドトラストの運用を持ちかける。この場合、その運用資金は長期プライムレートでA行がX社に融資してくれるという「バックファイナンス付きファントラ」と呼ばれるようなパッケージもあった。顧客Xは、損をしないと信託銀行が保証してくれるのだから、完全にではないまでも相当に安心して、こうした運用を積み上げた。1988年に、こうした運用に積極的だったある大手商社の資本市場部を訪ねた際に、筆者が、信託銀行の利回り保証が完全に履行できるかどうかリスクを考えるべきだと述べたところ、運用担当者に「基本的に我々はファントラはリスク・フリーだと思っている。我々は、信託銀行にとって重要顧客だから、信託銀行が我々との約束を履行しないことは考えられない」と一蹴された。もちろん、その後のバブル崩壊で、信託銀行も「無い袖は振れない」状態になって、この商社も大損をした。

 また、「特金」(特定金銭信託)に関しては、ブラックマンデーの後に保有株の評価に関する低価法を停止して、値下がりした保有株式を原価で評価して損失を先送りできるようにしたことが、特金の運用リスクを小さなものと誤認させることに加担して、結果としてバブルの規模を大きくすることにつながった。宮澤喜一大蔵大臣の決定だったが、その場しのぎの愚策だった。

 今回のサブプライム関連商品の場合はどうなのか。この場合、証券化商品の複雑さと、商売が欲しい格付け会社がこれを甘く格付けしたことが、投資家のリスク誤認を用意した。元になっているサブプライム・ローン自体が、3~4年目に返済額が急増して、その時に住宅価格が上昇して借り換えができなければ大変だ、というリスク先送り型の契約だ。ローンの借り手も負担を甘く見がちなのに加えて、当初はデフォルトが起こりにくいからサブプライム証券化商品自体でも問題が表面化せずに、利回りが欲しいヘッジファンドをはじめとする投資家が積極的に購入した。債券投資の一般的感覚からして、たとえばAAAの格付けがついた債券について安全性を疑うことはほとんどないのだが、サブプライム関連の商品にあってはAAAでも後から大幅に格下げされるケースが出るなど、格付けを簡単に信用してはいけない事が分かる事例になった。

 仮にサブプライム問題を「事件」と考えて、誰か一人を逮捕していいとしたら、筆者なら、格付け会社の社長を逮捕したい。


■条件の3.儲ける小悪党の存在

 バブルが成長するための三番目の条件は、「リスク誤認を利用して儲ける小悪党の存在」だ。将来はまずいかもしれないと理性で思いながらも、自分にとっては当面の儲けが重要だとして半ば確信犯的に儲けに走る小悪党がいることで、バブルの成長が加速される。ここで「小悪党」という表現にしたのは、多くの場合違法ではない範囲の活動だが、厳しく考えると倫理的には拙いこと儲けのために行うからだ。

 たとえば80年代の日本株のバブルも、自分が所属する銀行や証券会社がリスクを取るのだからこれを利用して実績を挙げようと考えた法人営業マン達の存在がなければ、「握り」付きの特定金銭信託やファンドトラストは、あれほど急速かつ大規模に拡がらなかっただろう。もっとも、当時の日本の企業では、こうした小悪党達は社内出世の順番を稼いだだけで、後のバブル崩壊で会社が傾く時に痛い目に遭っている。

 しかし、今回のサブプライム商品の場合は逃げ切った小悪党が多数いることと、彼らが得た収入が「小悪党」と呼ぶには少々大きすぎることに特徴がある。「さすが、アメリカ」と言うべきか。たとえば成功報酬でボーナスを貰うヘッジファンドのファンドマネジャーは当初の好成績に対して高額のボーナスを貰ってしまえばそれを返還することはない。またサブプライムの証券化商品を組成した証券会社の担当者や、サブプライム・ローンで儲けた金融機関の担当者あるいはこれで業績を嵩上げした時期にボーナス(ストックオプションや退職金の形で貰うことが多い)を確定した金融機関の経営者なども、サブプライム・ビジネスを積極的に推進することで、個人的利益を確保した人達だ。


■バブルを避けるためには

 バブル成長のための三要素は、たとえば数年に一度起こるIPOバブルのような、小振りなバブルについて判断する上でも有用な視点になる。ライブドアショック以前の新興市場にはバブル的な様相があったが、この時、ゼロ金利政策で金融は緩和状態にあったし、IPO時に公募価格割れは起こらないという「IPOのミニ神話」があったし、企業をどんどん公開して手数料を稼ごうという証券会社の行動が過熱していた。その後の低迷が厳しいのも当然だった。

 バブルにはまらないためには、厳密には「妥当な価格」を徹底的に意識するしかない。株式でも、不動産でも、収益還元法的な考え方で説明できないレベルの高価格は結局のところ高い。とはいえ、こうした考え方を採るにしても、たとえば想定する成長率で適正価格は大幅に異なり、判断に自信を持つことができない場合がある。そうした場合には、どこかに大きなレバレッジがないか、リスクの誤認がないか、妙に儲けている小悪党がいないか、といったことを補助的に考えてみることが役に立つことが多い。






最終更新日  2007年11月16日 16時26分50秒
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