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山崎元のホンネの投資教室

2011年01月07日
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行動経済学で研究されている興味深いテーマの一つに、「オーバーコンフィデンス」(over-confidence)という現象がある。オーバーコンフィデンスとは、一言で言うと「自信過剰」のことだ。人間とは、自信過剰気味の生き物なのだ。

オーバーコンフィデンスは資産運用及び運用ビジネスに深い関係がある。投資家が自己チェックをする上でも、オーバーコンフィデンスを理解しておくことが有効だ。

自分の判断は投資を改善する?

オーバーコンフィデンスとは人間の非合理的なバイアス(偏り)として報告されている現象で、人間が、実際にそうである以上に自分の判断・関与などに自信を持つ傾向があることを指す。

たとえば、ある調査によると、自動車を運転する人のざっと8割は、自分が「全ドライバーの平均以上に運転が上手い」と思っているという。客観的に は、平均よりも上手い人は、せいぜい全体の半分程度だろうから、ドライバーの多くが、自分の運転に関してオーバーコンフィデンスにとらわれている。

資産運用に関わる問題で有名なのは、カリフォルニア大のテレンス・オディーン教授が行った、ある証券会社の数万件の口座を対象にした、男女の運用パフォーマンス比較の調査だ。

運用パフォーマンスはどの程度株式のリスクを取るかといった、リスクの大きさ、内容によって大きく異なるのは当然だから、この点を調整した上でだ が、この調査によると、各口座の実際の運用パフォーマンスは、平均的に見て、女性の方が男性よりも年率1%前後良かったのだという(運用にあって1%は、 小さくない差だ!)。

オディーン教授はこの原因を調べてみたのだが、平均的に見て、男性投資家の方が女性投資家よりも売買が頻繁であることがその原因らしいということが 分かった。売買のコスト(手数料等)を考えると、ちょうど1%程度の差がつくくらい男性投資家の方が売買が多かったのだ。「平均的に見て」男性投資家は、 女性投資家よりも多くの売買をしていたが、彼らの売買は運用パフォーマンスの向上に何ら貢献せず、ただ手数料だけが余計にかかった、というのが観察された 現象だ。

問題は、なぜ男性投資家の方が売買が多かったのかということだ。この点に関して、オディーン教授は、認知心理学の知見から、一般に男性の方がオーバーコンフィデンスが強いので、自分の売買が運用を改善すると誤って信じて売買を行うことが多かったのだろうと推断している。

一般に、オーバーコンフィデンスは女性よりも男性が強く、一般人よりも専門家の方が強い傾向があることが報告されている。

「いいアクティブ・ファンド」を選ぶことができるか?

証券会社のホームページで(しかも、社員でありながら)こう指摘するのはさすがに筆者でも気が引けるが、しかし、正直こそがベストポリシーだろうか ら言ってしまおう。投資家のオーバーコンフィデンスによる、運用パフォーマンスの改善につながらない売買も、証券会社にとってはありがたい手数料収入の源 だ。

金融業におけるオーバーコンフィデンスの役割は証券会社の売買手数料のみにとどまらない。運用ビジネスも顧客のオーバーコンフィデンスによって成り立っている。

本シリーズでは何度も取り上げている事実だが、アクティブファンドの平均的な運用成績はインデックスファンドを下回り、且つ投資家は事前に相対的に優れたアクティブファンドを見つけることはできない、という運用業界にとっては不都合な事実が二つある。

にもかかわらず、アクティブファンドを買う投資家がいるのは、彼らが、「自分は相対的に優れたアクティブファンドを(事前に)選ぶことができる」、 「私の選んだアドバイザー(あるいはセールスマン)は、相対的に優れたファンドを(事前に)選ぶ能力がある」と考えているからだろう。

つまり、運用業界も顧客のオーバーコンフィデンスを手数料に換金するビジネスで稼いでいることになる。

ちなみに、運用のビジネスモデルは、実際には価値があるかどうか定かでないサービス(アクティブ運用)について顧客に「信じて」もらうことから経済価値が生まれるという意味で、「宗教」に非常に近いということがいえる。

オーバーコンフィデンスがなくなるとどうなるか?

オーバーコンフィデンスは強力なバイアスで、正直なところ、人間がオーバーコンフィデンスを持たなくなるなどとは考えられないが(←私のこの見解も オーバーコンフィデンスに基づいているかも知れない!)、オーバーコンフィデンスのない人間ばかりの世界というものを考えると、あまり「いいイメージ」が 湧いてこない。

株式投資家は自分の投資判断に自信を失うので、彼らにできることは分散投資を徹底して余計なリスク(投資理論で言うところの「非システマティックリスク」を下げることだけになる。分散投資は有効だ。

多くの投資家が手間とコストを考えるとインデックスファンドの購入に傾くだろう。インデックスファンドのマーケットが拡大し、ファンド間の競争が激 化するだろうから、インデックスファンドの手数料は下がるに違いない(これはいいことだ!)。しかし、アクティブファンドに対する需要が激減するので、 ファンドマネジャーの多くは失業しそうだ(宗教の信者も激減する)。

もちろん、個別株式の売買回転率も激減しそうだ。

しかし、他の誰もが自信を失い投資判断をしていないのだとすれば、そこで成立する株価を信じて、その株価で投資するというのも、いささか奇妙な感じではある。

ただし、株価が正しかろうが、正しくなかろうが(理論の用語では「市場が効率であっても、なくても」)、インデックスファンドが有利であることについて、本質的な変化はない。

投資以外の生活でも変化がありそうだ。

たとえば、起業して一旗揚げようなどという行動は、起業の成功確率を冷静に判断するとなかなか生まれにくくなるかも知れない。

あるいは、「自分は、せいぜい平均並みの男(女)なので、目指す相手が自分に好意を持つ可能性は大きくない」と多くの男女が思うようになると、恋愛行動は今以上に受動的ないわゆる「草食系」のものが支配的になりそうだ。

オーバーコンフィデンスは、人間の生きる元気や積極性に深く関わっているのではないか。そう考えると、人間にとってある程度のオーバーコンフィデンスは必要なもので、むしろ奨励されるべきものなのかも知れない。

筆者が思うに、一般人は、人生一般に対しては自分にオーバーコンフィデンスを許し、むしろこれを積極的に活用する方策を考える一方で、お金の問題に 関してはオーバーコンフィデンスを警戒して、合理的な結論にドライに従うのがいいだろう。アドバイスとしては、これが良心的で「正しい」のではないだろう か。

一方、投資を趣味または仕事にしている人には、自分のオーバーコンフィデンスの可能性を客観的に見つめて、上手に飼い慣らすことが求められる。







最終更新日  2011年01月14日 18時35分33秒


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