2006年01月07日

第十六回 株式投資の入門書を2冊推薦します (1)

2005年10月7日


■投資本の楽しみと評価の仕方

 最近、ちょっとした事情があって、投資関連の本をたくさん読んでいる。相場環境がよいせいもあって、株式投資の本が多数出ているが、これは、何はともあれ喜ばしい。
 投資本の読書には、楽しみが二つあると思っている。先ずは、その投資本の語る方法論の世界に感情移入して「これは儲かるにちがいない」、「これはよいことに気がついた」という気分とその延長線上にある一種の「全能感」を味わう段階だ。運用は簡単ではないけれども、この方法を知っていれば、かなり上手くやれそうだ、という軽い興奮を感じる本は面白い。
 古典でいえば、ピーター・リンチの「株で勝つ」(三原淳雄/土屋安衛訳、ダイヤモンド社)のような本は、アマチュアでも身の回りにあるビジネス(たとえばファストフード屋)を評価していいと思えばその株を買うことで、プロのファンドマネジャーを十分に出し抜くことができるというような例がリアルに出てきて、希望が湧いてくる。もっとも、これを真に受けすぎて、近所の食べ物屋ばかり集めた、一見しただけで胸焼けのするようなポートフォリオを作ってしまう人もいるらしい。これではよい分散投資にならないから、興奮しすぎないことが大切だ。なお、ピーター・リンチのこの本は、実は、初版の原書が面白い。巻末に、彼が運用していたファンド(有名なフィデリティー・マゼラン・ファンド)の保有明細が載っていて、たとえば長期低落期のIBMの株式をたっぷり持っていたことなどが分かり、「ああ、ピーター・リンチも人の子であり、普通のファンドマネジャーなんだ」ということが分かる人には分かるようになっている。
 投資本の読書の、第二の楽しみは、著者が述べる方法論の欠点を探すことだ。どんなによくできた投資戦略でも、それを実行すると考えたときの状態をリアルに思い浮かべることができると、何らかの欠点がある。実際にその戦略が有効であるという根拠が取るに足らないものであったり(著者が数年で資金を何倍かにしたという程度の話)、ポートフォリオの作り方が合理的でなかったり、といったすぐに分かる程度のものもあれば、これも古典的な名著バートン・マルキールの「ウォール街のランダムウォーカー」(井出正介訳、日本経済新聞社)のようになかなか隙が見つからない本もある。しかし、米国株式市場の歴史と投資理論(ちょっと古いけど)のエッセンスを巧みに説いた名著にも、著者の半ば同業者である運用業界に甘いという難点があって、なぜプロ仲間の評判のいいジョン・ネフのようなファンドマネジャーのファンドならよいのか、的確な根拠が説明できていない。
 さて、投資本には二つの楽しみがある、ということを述べたが、肝心なことは、これら二つは、具体的な投資の方法がはっきりとイメージできるように書かれていないと全く楽しめないということだ。
 「やさしい」とか「はじめての」と銘打った一見読みやすそうな本が具体的にどう銘柄を評価して、どんな状況でなら投資するのか、いくら読んでもイメージできないように書かれていることもある。また、「○年間で×億円・・・」のような極めてキャッチーで具体的な書名の本は数多いが、その過程が曖昧なものが殆どだし、ポートフォリオの作り方まで具体的に分かるように書いたものはめったにない。
 さて、それでは、最近出た本の中から、まずまず楽しめて、投資の具体的な参考になるのではないかという本を二冊ご紹介してみたい。何れも、銘柄の評価方法が具体的に書かれているファンダメンタルズ投資系の本だ。
 なお、筆者は、「テクニカル分析」や「株主優待」といった一部の(といってもかなり多数の)投資家には人気のあるテーマを全く評価しない(むしろ、好ましくないと思っている)ので、この種の内容にご興味のある方は、別の本を読んでいただきたい(たぶん初心者向けのマネー誌にブックガイドが載っているでしょう)。


■推薦図書1 「現役大学教授がこっそり教える 株式投資『必勝ゼミ』」
 榊原正幸(著) PHP出版社 (2005年4月刊)


 正直に言って、本の外観はかなり胡散臭い。帯のコピーには「25歳でフェラーリを手に入れた8年間無敗の現役会計学教授が、『一生生活に困らない』資産を得る方法を教える」とある。素人が何年間無敗であるとか、年率何パーセントで運用した、というような話は、別段珍しくもないし、方法の裏付けになるものではないのだが、編集者側はこのようなうたい文句を入れたがるのは困ったものだ。仕事で読む必要がなければ、筆者は見過ごしていた本かも知れないのだが、読んでみると、なかなか具体的で読みでがあった。
 読み出してみると、細かい点だが、「昨今流行の『デイトレ』には手を出すな」、「株式投資信託はオススメできない」などと筆者が大いに賛成する意見が述べられていて、これはよい本なのかも知れないと思った。また、“金持ち父さん”シリーズについて、「・・・、その肝心の『ファイナンシャル教育』の具体的な中身については、シリーズ全巻を通して、明確な示唆をしていません」とチクリと痛いところを突いているところなども、的確だ。
 だが、もちろん、本書のよさは、投資する銘柄の条件が具体的に書いてあるところにある。基本的には「財務的に優良会社は潰れないので、株価が下がったときに買えば、ほぼ必ず儲けられる」という思想の投資手法が書かれているとお見受けした。
 この種の本については、どの程度まで中身を書くとネタバラシになるのか加減が難しいが、(1)どのような銘柄を買うか、(2)いつ買うか、(3)買った銘柄をどんな基準で売るか、という手順に分けて、条件を箇条書きで明確に述べていて、それぞれの条件の採用理由が書かれている。
 簡単にいうと、BPS(一株株主資本)が一定以上で自己資本比率が一定以上の東証一部上場株を財務超優良株としており(本にはBPS、自己資本比率共に基準となる数字が具体的に書いてある)、これらに該当する銘柄が、PBR0.5倍以下(この決め方と修正の方法も書いてある)で13週移動平均の変化がプラスになったら買おう、というのが基本的な投資戦略だ。さらに、買った後の処置としては、ナンピン買いの基準となるPBRが定められており、また利食いその他の売りの条件として、最低で25%利益を確保するとか、高値から何パーセント下げたら売るとか、最高何パーセント上昇したら売るとか、最長でどれくらい保有するか、というような条件が具体的に書かれている。
 紹介文としては、数字を全て具体的には書けないのが辛いところだが、書籍の代金はたったの1500円(税別)だから(株式投資に使う金額から見ると小さい!)、興味を持たれた読者は、是非、本を買って読んで欲しい。
 榊原氏が紹介した方法を批判的に読むとすると、(1)BPSの単純な大きさは「優良」の指標としてやや不正確ではないか、(2)13週移動平均を使う根拠は何か(たぶん投資期間を短くして効率を挙げたいのだろうが、これが有効だという根拠は何か)、(3)著者が定義した超優良会社のPBRで見た株価の相対的な(東証一部の平均に対する)過去の下限を買うべきPBRの根拠としているがデータは十分か、(4)今後は超優良でも倒産する会社だってあるのではないか、(5)自分の買値をベースとした売値の基準は工夫不足ではないか、(6)単独の銘柄に投資するようだが分散投資した方がいいのではないか、といった疑問点が少なくとも複数出てくる。しかし、このように具体的に疑問点を持つことができるように、明快に書かれているということ自体が貴重なのであって、疑問点の存在は決して投資本の価値を貶めるものではない(疑問や批判を持つ価値さえ無い本が多いのだから!)。
 榊原氏は、本書の方法をバフェットの方法と比べて論じているが、十分なオリジナリティーがあるし、方法としてはバフェットに比肩しうると言っていいと筆者は思う。
 なお、著者は会計学者なので、一点専門的なツッコミを入れておこう。「株価=BPS+ΣEPSの割引現在価値」と説明しており、これは初学者向けに概念を示すのに分かりやすいが、本来は「株価=BPS+Σ剰余利益の割引現在価値」(剰余利益とは株主資本に対する要求利益を上回る利益のこと)と説明する必要があると思う。そうしないと、たとえばずっと黒字なのに、PBR1倍割れの株価の企業などが説明できない。「株主資本に対する要求利益」という概念は、昨今の株式絡みの社会現象を理解する上でも非常に重要だ。  






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最終更新日  2006年02月10日 01時51分32秒
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