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イタリアいなかまち暮らし

イタリアいなかまち暮らし

食の保守性

食の保守性

イタリア人というのは外国料理を受け付けない国民であるというのは、有名である。

そもそも日本の食卓というのは例外的に多彩で、伝統的な純和食だけでなく、日本風にアレンジされたとはいえ、いろんな国の料理が並ぶ。今日は洋食、明日は中華、昨日はカレーと、これだけ毎日、違う料理が家庭で食べられている国も少ないだろう。実は私は純和食にあまり情熱がないだけでなく、子供のときからちょっと違った料理が大好きだったので、日本にいる限りでは周りの人のエスニック料理(辛いもの)嫌いも目に付いて、日本には食が保守的な人が多いなと思っていた。しかしタイを旅行しているとき、多くの西洋人旅行者(若いバックパッカーも含む)が現地食を避けて西洋料理屋で食事をしているのをみて、西洋人も結構保守的な人が多いんだなと考えを改めた。

そもそも日本人がこれだけいろいろなものを食べ始めたのは明治政府が西洋文化の取入れを推進した時と、戦後政府が国民の栄養補給のためカロリーの高い肉や乳製品を食べる習慣を推進した時の2度の転機があり、2度ともお上からの圧力で、従順な日本人の性質を現しているし、それ以前は純和食しか食べない習慣を伝統的に守ってきたわけである。外国から入ってきたピーマンやトマトやニンジンなどは匂いが嫌われてなかなか普及しなかったそうで、子供の好き嫌いみたいである。
それを考慮してもやはり現代日本人は、このごく最近始まった多様な食生活につちかわれたのが原因なのか、他の国と比べて全体的に何でも食べるし、わりと気軽に新しい料理にも挑戦できる民族といえると思うのだがどうだろうか。

そしてイタリア人は世界的に見ても食の保守的な民族である。もちろん年代や地域での違いは大きくあるのだが、都市部の若い年代のイタリア人は、他の国の都市部の同じ年代の人々と比べると、極端に外国料理、創作料理に対して消極的である。日本で言うとおばあちゃんぐらいの消極性だ。
たとえばイタリアでは週に一度放映されている旅行番組がある。毎週三時間、あちこち世界中の観光地を紹介する(とはいっても私にはほとんどビーチリゾートばかりに思うが)ものだ。
さて日本で旅行番組というとレポーターが町や市場を歩いて珍しい食べ物を見つけて「あんなものが売ってますよ~!ちょっと食べてみましょう!」(と、気持ち悪いものでも仕事のためだから無理やり食べる)とか、「ここの名物は、××です。ちょっとこの行列のある店で食べてみましょう~!」とか言う光景が多いように思えるのだが、こっちの番組は根本的にちがう。屋台や市場の食品はぱっぱっと映して「ここではいろいろなものを売っています」とナレーションが入って終わりか、虫とか変な動物が売られていたらなぜかそういう場合だけアップで映しだす。
アジアのどこの国の紹介だったか忘れたけど、私にしてみればよだれが出そうな点心をたくさん映し出しておいて、ナレーションが「いろいろなものが売っていますが、私たちは見るだけにしましょう」と入ってガクッとなったこともある。

また、地方間の食の交流もない。先に書いたように南イタリア人はクリームやバターの入った北の料理を食べないし、基本的に、違う地方の郷土料理は食べない。例えばサルデーニャ島の郷土料理であるボッタルガ(からすみ)は他の地方の人で挑戦してみようという人は少ない。日本のように観光地に行けば必ず地方の郷土料理を味わったり、名物食をお土産に持って帰るという習慣が広く行われているわけではない。

彼らは基本的に素朴な田舎料理が好きである。料理のシンプルさと量が彼らにとってのクオリティとなる。イタリアのカリスマシェフ?ヴィッサーニ氏がトーク番組で言っていた。「イタリア人は工夫を凝らし手の込んだ料理と、大きな塊の普通のロースト肉が同じ値段ならば、ロースト肉を選ぶ」私も1年レストランで働いて、そのことは身にしみてわかる。実に実にその通りなのだ。(我々のレストランのメニュー参考)

とはいえ子供のときから実に範囲の狭い、決まった食べ物だけを食べさせられて育っているので、新しい食べ物に挑戦するということができない。彼らは食に保守的だということを認識しているにもかかわらずそれを脱却できない。なので外国人が彼らに新しい食べ物を勧めるときはよほど慎重でなければならないのだ。それが食べられなくても彼ら自身の責任ではなく育った環境の違いなのだし、気の毒だとも言える。

それにイタリア料理はご存知のように世界中で愛されているほどおいしい。しかも健康にいいと有名なオリーブ油を多用するだけでなく、肉、魚介、乳製品、野菜(特に種類が多い)、穀物、豆といったように、食べる食品もバランスがよい。日本のように伝統食を脱却しなければ必要な栄養が十分補給できなかったということがない。これらの事情があるので食が保守的であってもなんら問題はないのだ。最近はカロリーのとりすぎが問題にはなっているが、これはイタリアだけでなく日本を含む先進国全体にいえることだろう。

また、イタリア人の名誉のために言うが、食習慣と宗教的習慣以外に関してはけして保守的な国民ではない。今度の選挙結果でもわかるように政権は左右交代に選んでいる。日本より個人・個性が尊重され、所属する組織、会社や国への忠誠心ははるかに低い(それらの信頼がないというウワサも)。

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