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イタリアいなかまち暮らし

イタリアいなかまち暮らし

石レンガの家

 街中で安い家といえば旧市街にある。旧市街と言うのは、イタリアのどの都市にもあり、イタリア語でcentro storico(歴史的中心)というエリアである。文化の香り漂う素敵な呼び方だが、要は昔ながらの下町である。ここで遺跡のような石レンガの家に住むのが最も安い。
 こういう家は小さな町にもある。だいたいイタリアの町や村というのは昔外敵を恐れたせいで小高い丘の上にあったり、険しい岩に張り付いていたりする。車も通れなかったりして坂を下ったり上がったりで大変である。そしてそんな家々が、平和な時代となった今では不便なため見向きもされずお値打ち価格となっている。
 こういう家は壁が頑丈な石でしかも厚みが1メートルぐらいあるために改築しにくい。取り壊すのも相当費用がかかる。それで使いにくい部屋構成だったり都市ガスが通ってなかったり換気扇がなかったりする。

 昔の外敵のせいでまた窓も小さい。薄暗い。石は吸水性がないので湿気が溜まる。イタリアの家の内壁はたいがい塗装なのだが、これがすぐにカビる。古い家だけとは限らない。カビない塗料と銘打ったものも売られているが、遅かれ早かれカビるらしい。カビと言うのは日本の感覚で考えると夏のものと言うイメージだが、実は冬のほうがよくカビる。
 イタリアは冬に湿気が多いし、家の中は窓を閉めっぱなしにしてしかも暖房で暖かいのでカビには格好の条件なのだ。これはもうしかたがない。特に日当たりの悪い石の家に住むと冬真っ盛りは結露で窓は一日中びちょびちょに濡れっぱなしだし、壁すら濡れているのだ。外気で壁がキンキンに冷やされるからだ。

ウチは一冬で窓の周りはカビで真っ黒。借家に除湿機も付いているのだが、やはり生える。他に対策もないのであきらめて生えさせている。以前住んでた家はもっとひどくて、ベッドルームの壁一面真っ黒で、キッチンの戸棚が壁に接しているばかりに冷やされて中までびちゃびちゃかびかびだった。

 しかしイタリアの家では1~3年に一回、内壁の塗装を塗りなおす。貸家でも住人が変わるごとに塗りなおすようだ。カビもひび割れもすっかり隠れて生まれ変わる。この点便利なのは、壁に釘を挿そうがドリルでネジ穴を開けようが、結局塗装で隠れるので文句を言われないこと。しかし神経質そうな大家の場合や、礼儀正しい印象を与えたい場合は一言断ってから穴を開けよう。さすがに石の家は何でもよく支えてくれて、収納家具が少ない家でも棚をたくさん作っていろいろ置ける。

 ところで石造りは夏は打って変わって快適である。地中海気候の地域では夏は乾燥して外の日差しは非常に強いのだが、一歩家の中に入るとひんやりと石の感覚が伝わってくる。一番涼しく過ごす方法はシャッターを閉めて、暖められた外の空気と強烈な日差しをシャットアウトすることである。その代わり初夏や秋は、外は快適なのに家の中では底冷えして着込まなければならないという妙なことになる。
 ただし屋根裏部屋や、窓のすぐそばに他の家の屋根がある場合は、オーブンのように暑くなるので要注意。イタリアでは日本の喫茶店のように暑さ避難所的に利用できる場所が少なく、図書館もクーラーなしなので逃げ場がない。

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