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親父との残りの時間を、息子としてどう過ごすか考えた。でも、普通に見舞いに行って、仕事とか結婚の準備のこととか、話をすることくらいしか思いつかなかった。親父もいろんなことを話してくれた。今ではあまり憶えていないが、ひとつだけ忘れられない言葉がある。
「人生は思ったとおりになりよるで」しみじみと親父がこう言った。そのときは意味がよくわからなかったが、なぜか心に残った。 日に日に親父の体が痩せていくのがわかった。週末にしか帰らない俺は、その変化が手に取るようにわかった。放射線治療や抗がん剤、床ずれも辛そうだった。足をマッサージしてやると気持ちいいと言っていた。 いつもどおり親父を見舞い、東京へ帰ろうと親父に別れを告げ、病室を後にした。おかんも俺を見送るためにエレベーターホールまで一緒に来ていた。その日俺はずっとそわそわしていた。親父に伝えたいことがある。なんとなくそう思った。おかんには「車の鍵を病室に忘れたから、ちょっと待っててくれ」と言って、病室に向かった。病室に入って目を閉じてる親父の顔を見た。自分の思いを口にしようとしたときに、検診のために看護婦さんが入ってきた。タイミングを逃してしまった俺は、そのまま何も言わずに病室を後にした。 車で東京へ向かう道中も、そわそわはなくならなかった。ユーターンして病院に戻ろうかどうか迷ったが、そうはせずにおかんに電話をかけた。俺が親父に伝えたかったことを伝言した。「親父の息子に生まれてきて良かった」と伝えておいてくれと。 それから数日後に親父は他界した。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005.01.13 07:49:49
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