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テーマ:おすすめ映画(4073)
カテゴリ:アニメ
宮西達也の絵本のティラノサウルスシリーズで最も有名な「おまえうまそうだな」をベースに映画化。数十ページの絵本をどうやって90分以上の映画にするのかと思ったら、シリーズの他作品も混ぜ込んで、ティラノサウルスのハートを主人公として再構成している。「おまえうまそうだな」原作は、中盤であっさり消化。ウマソウと一旦別れてからのほうが長い。 ある日恐竜の卵が川に流れているのを見つけたマイアサウルスのメスが、自分の卵と一緒に育てると、生まれてきたのはティラノサウルスの子供だった。彼はハートと名づけられ、草食恐竜として育つが、ある日兄弟を食べようとしたティラノサウルスに襲い掛かり、相手の尻尾を食いちぎったとたん、肉食恐竜としての獣性が目覚めてしまう。ハートはマイアサウルスの群れを離れ、一人で暮らすことにする。そこへ、アンキロサウルスの子供が現れ「お前、うまそうだな」とつぶやいたところ、子供が自分の名前を“ウマソウ”呼ばれたと勘違いし、ハートを父親として慕いはじめる。ハートはウマソウを自分の息子として育てるが、ウマソウを食べようとしたティラノサウルスたちを叩きのめしたことで、彼らの長の怒りを買ってしまう。その頃、火山が突如噴火。母親がいるマイアサウルスの群れを助けるため、ハートは溶岩で燃えさかる山に飛び込むが…というストーリー。 結論から言うと、ここ最近で最もテーマの深い冒険活劇アニメである。「動物は他の生物を食べなければ(犠牲にしなければ)生きてゆけない」という生の宿命と、「親の子に対する愛情」を徹底的に、正面切って堂々と描いているのだ。 ハートはウマソウを守るが、自分が生きてゆくために他の恐竜を狩って食べる。ハートは肉食恐竜である自分自身を否定はしていないが、他の生命を食べて生きていることを常に自覚している。肉食恐竜はハートも含め、獲物を襲うときは情け容赦ない凶暴さをあらわにし、全身全霊で狩る。それは彼らが生きるための行為だからだ。「生の宿命」を、決してきれいごとで描かない作風には深い感銘を覚える。 また、母親の愛情をいっぱいに受けて育ったハートは、なぜ母親が肉食恐竜と知っていて自分を育ててくれたのかと考えている。その答を見つけるために、今度は肉食恐竜の自分が「ウマソウ」という草食恐竜を育てるのだが、しだいに父性が目覚め、本当の親子のようになる。弱い草食であるウマソウがひとりでも生きてゆけるように、ハートは愛情を持ってウマソウを鍛える。ウマソウはハートの愛情をしっかりと受け止めて精神的に成長し、同時にハートも成長してゆく。ハートとウマソウの関係は、理想の親子関係だ。そして子育てとは、子供を「自分の力で生きてゆける大人」に育て、社会に送り出すということに他ならない。子を持つ親として自戒させられる。 こういった深いテーマが、あくまで自然に描かれ、説教臭さが無いのが凄い。最近のジブリアニメですら抹香臭いことを考えると、本作は非常にレベルが高い。 その一方、エンターテインメントとしても申し分ない。オープニングから息をつくひまのない怒涛の展開で観る者をグイグイ引き込む。肉食恐竜たちのスピーディでバイオレントなバトルアクション、火山噴火のスペクタクル、そして最大の見せ場でもある、ハートと父親のガチンコ対決へとなだれ込む。もう拍手喝采と感動の嵐。フルコース3人前食ったくらいの大満足感である。一本の映画としての完成度は文句なし。溶岩が襲う山からハートが母親と兄弟たちを連れて逃げるシーンは、『世界崩壊の序曲』の5万倍は盛り上がる。 劇場は振るわなかったようで非常に残念。宣伝が絵本のヒットをフックにしすぎて、肝心の映画自体の内容が伝わっていなかったような気がする。DVDも発売されているので、子を持つ親の方には、はぜひ観て欲しい。 劇場にて鑑賞 監督 藤森雅也 山口勝平(ハート)/加藤清史郎(ウマソウ)/別所哲也(バクー)/原田知世/矢田稔/小室正幸/桐本琢也 おまえうまそうだな [DVD] amazon お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2024/11/06 06:00:10 PM
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