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ガマの油売りの口上

ガマの油売りの口上の一例。様々なパターンがあるようです。

サァーサァーお立会い(たちあい)、御用(ごよう)とお急ぎで無い方はゆっくりと聞いておいで、見ておいで。
遠目山越し笠(とおめやまごしかさ)のうち、聞かざる時は物の出方善悪黒白(でかたぜんあくあいろ)がとんと判らない。
山寺の鐘がゴーンゴーンと鳴るといえども、法師(ほうし)来たって 鐘に撞木(しゅもく)を与えなければ、鐘が鳴るのか、撞木が鳴るのか、とんとその音色(ねいろ)が判らない。
さてお立会い、手前ここに取り出したる陣中膏(じんちゅうこう)は、これ「がまの油」、
がまと言ったってそこにもいる・ここにもいると言う物とは物が違う。
  「ハハァーン、がまかい、がまなら俺んとこの縁の下や流し下(もと)にゾロゾロいるよ」と言うお方があるかもしれないが、
あれはがまとは言わない、ただのヒキガエル・イボガエル。
何の薬石効能(やくせきこうのう)はないよお立会い。
さて お立会い、手前のはこれ「四六(しろく)のがま」。
四六五六(ごろく)はどこで見分ける。
前足の指が四本(しほん)で、後ろ足の指が六本(ろっぽん)
これを名付けて ヒキ面相(めんそう)は「四六のがま」だ。
さぁーてお立会い、このがま何処に住むかと言うと、ご当地より はるか北、北は常陸の国(ひたちのくに)に筑波の郡(こおり)、
古事記、万葉の古(いにしえ)より関東の名山(めいざん)として詠われて(うたわれて)おりまする筑波山の麓(ふもと)、
おんばこという露草・薬草を喰らって育ちます。
さてお立会い、このがまからこの油を取るには、山中(さんちゅう)深く分け入って捕らえ来ましたるこのがまをば、
四面(しめん)鏡張りの箱の中にがまを放り込む。サァー がんま先生、己(おのれ)のみにくい姿が四方の鏡に映るからたまらない。
ははぁー 俺は何とみにくい奴なんだろうと、己のみにくい姿を見て、びっくり仰天、巨体より油汗をばタラーリ・タラリと流す。
これを下の金網・鉄板に漉き取りまして、柳の小枝をもって 三七は二十一日の間、トローリトローリと煮たきしめ、赤い辰砂(しんしゃ)にヤシ油、テレメンテーナ、マンテイカ、
かかる油をばぐっと混ぜ合わせてこしらえたのが、お立会い、これ陣中膏はがまの油だ。
さてお立会い、このがまの油の効能はと言うと、疾、がんがさ、よう梅毒、ひび、あかぎれ、しもやけの妙薬、
まだある、前にまいれば陰金田虫(いんきんたむし)、後ろにまいれば脱肛(でじ)、痔核(いぼじ)、痔出血(はしりじ)、鶏冠痔(けいかんじ)の他、
切り傷一切まだある。大の男が七転八倒、畳の上を ゴロン・ゴロンと転がって苦しむのがお立会い、これこの虫歯の痛み、だが、
手前のこのがまの油をば、ぐっと丸めて歯の空ろ(うつろ)に詰めて、静かに口をむすんでいる時には、熱いよだれが、タラリ・タラリと出ると共に、歯の痛みはピタリと止まる。
お立会い。まだまだあるよ。刃物の切れ味をも止める。
さてお立会い、手前ここに取りい出したるは、我が家に昔から伝わる家宝・正宗が暇にあかして鍛えたと言う代物である。
実によく切れる。エイッ 抜けば玉散る氷の刃。
ここに、ちょうど一枚の紙があるから、切ってお目に掛けよう。
一枚の紙が二枚、二枚の紙が四枚、四枚の紙が八枚、八枚が十と六枚、十六枚が三十と二枚、三十二枚が六十四枚、六十四枚が一束(いっそく)と二十八枚。
ほれこの通り 細かくよく切れた。ふっと散らせば、比良(ひら)の慕雪(ぼせつ)か嵐山には落花の吹雪とござい お立会い。
さてお立会い、これ程よく切れる天下の名刀でも、一度(ひとたび)このがまの油をば付ける時、たちまち切れ味が止まる。
差し裏・差し表に付けまする。サァーどうだ、叩いて切れない、押しても引いても 切れやーしない。
さてお立会い、お立会いの中に、「お前のそのがまの油というやつは、切れる物を、ただ鈍ら(なまくら)にするだけだろう」
と言うお方があるかも知れないが、手前、大道商人はしているが、金看板は天下御免のがまの油売り、そんなインチキはやり申さぬ。
このように、きれいに拭き取る時には、元の切れ味になる。 ハイ この通りだ。さわっただけでも、赤い血が、タラリ・タラリと出る。
それでは、二の腕を切ってご覧に入れる。エイッ・・・・・。
さぁーてお立会い、お立会いの中に、それ程効き目あらたかなこのがまの油 いったい一貝いくらだろうと言うお方があるかも知れないが、
本日は、はるばるご当地まで出張っての大安売り、男は度胸、女は愛嬌、山で鳴くのはホーホケキョ、清水の舞台から〔筑波山の天辺から〕まっ逆さまに飛び降りたと思って一貝が二百文と言うところ、半額の百文ではどうだ。
さあーどうだ、このようにがまの油の効能が分かったら、遠慮は無用だ。
分かったら、どしどし買ってきな、買ってきな。


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