小人の閑居してゐる神無月
不都合な事実は忘れ生身魂野分たつ昔全山争議の地逃げ隠れせぬことも老い蚊遣豚神留守や昼からワインを酌む私イエスキリスト曠野に斃る曼珠沙華長き夜の悪の愉しみわれ知らず父よその錆びた訛と古褞袍強面で客を寄せない焼藷屋落蝉やわれに無縁な金相場晩夏かな都会はやさし精神科甚平翁演説癖は直らないぼろ市や不良老人ぞろぞろとしぐるるや瓦礫の山に眠る国秋刀魚焼く日本の叙情さりげなし空蝉や中年通ふ心療科厠には厠の思弁ちちろ鳴くどてら着てもこもこしたる文化人新涼や息吹き返すわが海馬誰よりも政治勘あり生身魂暇さうな郵便ポスト秋日燦薔薇散るやひとに自愛と虚言癖黍嵐ピカソに青の時代あり