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不思議の泉

不思議の泉

短歌詩 (新)徒然なる一日 iz&塚本寛一





山の小径、

歩いていると、まだ起き立てのカンバスがちいさな欠伸する

この手。つゆ、あさのつゆ。

眠りの残り香を押し出して。

瞬く間に、口ずさむ舌が濡れる。



  朝ぼらけ手折れぬほどの小ささで

  こそばゆく笑む白き花群れ



野苺の花はいじらしく坐り、見あげている。

朝のソラ。水色のアルトを吹流し、色の音階をなぞる。

そのうち太陽をひっぱりあげる四角いフレームに山の稜線が白む。

ふと想う、古人のスケッチ。

万葉秀歌。

雅にやうやう明けゆく山際は玉響なうつろひに霞み、

ローレライの古詩は夕陽のフラッシュが鮮烈に叩き

山際をキラメキで覆うている。

おお!・・――

現代の詩は自然の色彩をもち得ているか、勝ち得ているtか、

という問いすらも。こだま。人の思念のおよばない山の朝に、

溶かし込むパレット。



  山みちに空は降り立つ晴れやかに

  閉じたるウタも合歓葉も覚めて



そよ風は、

二階のあたしのこの部屋の窓を気に入っていて‥

ひるがえるたびにひかりが

ゆ・れ‥る――ちゅーりっぷ柄のカーテン

襞にこそっと隠れては擦り抜け‥ゆ・れる‥ゆれる。

躊躇いがちな、ほつれ毛に触れられ、ふっと執筆の手を休め。

キラリと、視える――ひかる、なみ、の、るてん。

若葉の海に躍っている。コナラ・クルミ・ヤマモミジ。

広葉樹のトンネルをくぐりぬけると針葉樹のまっすぐな太い幹。

と・ま・・る

さっきまで働き者だった啄木鳥。望遠する。

無音が存在を喚起する。

可笑しい――・・



  小昼するアカゲラほどの口自慢

  桧舞台に木霊の憩い



とどまらない静止画のような、

この風景にもぐりこみ寝転んで目を瞑る。

ウサギの心。

あたしの背丈はどんどん小さくなって草より少し高いもの

――草いきれに分解され・・浸透する。

不来方の風の色に染められてゆく啄木の歌碑。

いつか見たせいだろうか



  切り株が青き雲間に添い寝する

  破れ日傘に夢の端を貼り



やがて日時計代わりの樹木の影が伸びはじめ、

解除される独りだけのストップモーション。

午後のはっきりした輪郭時間、

やおら目いっぱいムキになり筆を進める。

可笑しい――・・



  仰望す空がころんで茜雲

  ぐーの音喰らい筆を匙加減



フトコロ具合―――

つまりは。

人間はグルメな生物種で、食餌はDNAの生機構で。

という生物学的葛藤。

つまりは。

ピッツァを注文しようかしら、シンプルな和食を作ろうかしら。

という生活臭的選択。

今夜はともあれ、白米の有り難味。

…でも、こういうの…。

難解な現代詩的思考で、ガチガチの肩凝り。

…いきてる味わかんなくなりそう…。



  銀シャリに一汁一菜みぞれ和え

  干物一匹どうぞボナペティ!



暗がりの底―――

ままよ、と。

昼の煩事ウマシカは跳ね除ける。

人生は悲劇か。

喜劇か。

シェークスピアは何と語るだろう。

‘心のない言葉は天にも届かない’。

ハムレットだ。

例えば、あたしの台詞。


「傲慢の剣の黄色く濁った目玉、

何と醜きこと。

振りかざすことを自制しない、

底のない卑しさよ。

ああ!見よ。

あの、いぎたなく穢れた魂を。

悪しき言霊の行列を。

やがては女神の天秤に刎ねられ、

詩の涸れた井戸に縋り、

ただ虚しく枯れ果てるのだ。」


すべては夢の汀…。



  星定規古代のロマン線彫りし

  しずやかなる夜空の神話。









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