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詩誌AVENUE【アヴェニュー】~大通りを歩こう~

詩誌AVENUE【アヴェニュー】~大通りを歩こう~

オリジナル意訳3

 ステファヌ・マラルメ

  Stéphane Mallarmé,


   1842年3月18日~1898年9月9日。19世紀フランスの象徴派の系譜に入る、アルチュール
  ・ランボーと並ぶ代表的詩人。代表作に『半獣神の午後』『パージュ』『詩集』『骰子一擲』
  評論集『ディヴァガシオン』など。



    不安
     ANGOISSE


 私はあなたの肉体の背後にまで展がっているのに今夜、

  まだ仮面を冠って舞う・・原始時代の名残りだ。獣だ――

 理論と離れて実在せる罪は天道に随い『文字』を彫りつけ――究め・・
  、、、、、、、、、、、
  心付かざることなれども、善くなろうという・・願い――消え去らなかった。

 その自縛あるいは桎梏のゆえに、・・あなたの髪は白けきり、冷え、

  酒の酔ひもさめ、この隠れたる太陽、奈落の底にしずむかと思えば

 天にゆりあげられ、ああ口づけと言うには――

  神の風吹きたりき・・女の皮膚の感触を感じ分けるほど繊細に。

                         ベッド
 だが私は後悔する・・悪夢だ――眠れない寝台であなたは黒い影・・・

  その時、光あれ!と願うのだがめぐみが濡らした墓の上は罪の靄・・

 未知の面紗、悔恨のカーテンの後ろに[何があるのだろう・・・]

  祈りに満ちた問い――冬から春へと変りはじめる生暖い二月の夜(に、)

 耳のほとりにむらがりて、雷声!・・雪!おお!また雪・・・
  
  その後に待ち受けているのは、あなたの黒い嘘、黒い血――

 そしてもう夙うに亡びたという肉体について無智なあなた。
  、、、、、、、、、、、
  動物的本能は実に甚しい・・私はそれでも――あなたを感じている。

  
 もし私が自国の貴族であったら・・死人の靴も時計も、始末させる!

  あなたにはお似合いだ――黒暗々たる波濤を与えよ!・・海から荒れ狂う風は、

 鳴れよ!・・おお!あなたの気高さ・・不毛だと知らずに、嫉みを招く、服!
      ゆる  
  着くるを允さず・・知らず、――時は流れる、・・背にははやく荊棘・・・

 あなたは石――[小石が山のように積みあげてある、生活の片隅、私の隣に、]
  、、、
  となり――その寝台で生息している間、私は犯罪の牙を立て!情欲を起こし!

 あなたの子宮に触れようとし、いつもいい機嫌で糸をつむぎながら、

  されど人の世の海に万波――歯がないために起こらない、あなたの表情・・

 もう痛みとてない、石。・・君は見せびらかしたいのか、若々しく汗をかいた、

  硝子戸の此方に惑星、傷つくこともない、幻よ――


 懊悩し、落胆し、薄っぺらいこの感情から私は逃げる・・・

  遥かな憧れに向って走ろうとする激しい衝動も・・この闇を纏うだろう、

 蒼白くて、まだ未完成の私の・・・そしてわたし自身の――

  帰ろうとする、蒼ざめたもの・・二十のうちの一つしか話さない報いざるの罪!

 よくあなたが出入りする場所で――舞台半ばに倒れたか・・サイコロよ!

  暗闇の奥の方!・・いまもまだ、恐る恐ると見る私自身の姿・・・!

 いつぞや私の遮蔽幕となり、私の生存となる・・この身体は膜、誰にも触らせまい!

  として、黒ずみ、やがて苔が生え、それは時が私自身を破ったろう!

 そして横になろう・・一人で眠ろう――まだ、死ぬことを恐れながら、

  何故涙よ出ない!・・ああ苦悩よ、君は君に気が付いていない妻のように――。


    ヘロディアスの情景

     Hérodiade Scène


  
                    情景

                側近 nーヘロディアス h


                    N


  ここにはヘロディアス様が住んでいる。私・・?

   ――私は王女の寝姿を見守っている。

   もしあなたが、煖炉のそばに坐っていることを、信じているのなら・・

  私の唇に“噤み”がある――彼等の頭の中で絶えず鶫と呼ばれているもの。

  時代はすなわちソロモンの智慧・・


                    H


                                帰って!

  ――容易に究明せられ得ない後光。黄金色で奔れた髪も、いまは真っ白!

 鋭く私を刺し貫いた身体は孤独に落ちる靄・・湯に浸かる時も・・・

 この恐怖! ・・・光に抱擁されている肉紅色のごと不吉な髪――

 胎内の白浪立った後も漸次に。美しさが死でないならば!

 この女性は、私に口づけ!・・

                   燈りをともす、言葉を訴える・・

                    もろもろの困難の解けない闇のあいだで。
 、、、、、、、、、
 たとえそれが死でも――引力。横に折れた神秘の谷底。

  朝を導くことさえ忘れられる、太陽のない、こんな朝

 強 姦の影絵。その悲しいA CHRISTMAS CAROL.

  瀕死の人々に告げよ、彼等に・・神の存したまうこと、“食事”を――

  物体、形体、延長、運動・・心易い光をそれらの人達にきらきら浴びせる、
 
  美しさ、そして暖かさ、

 知っているわ、あなたは――おお!冬の私を見た看護婦さん・・

 鉄と石の監獄で・・滑稽でありすぎた獅子!

 淡黄褐色の数世紀、・・諸賢がまさにこのことを言明した!
 、、、、、、、、、、、
 墓の中へ入るというのに・・苦しみの一致した共働的な“安全な道”

  アンヴィバレンスを探して・・歩いてきた――わたしは歩いて来た・・・

 でも前の王の・・叡智すら誤謬!庇護はなく・・・砂漠の薫りだ、

 それでもあなたはわたしの恐怖を見たいと言う――!

 いっそ私は亡命者になりたい、・・夢見ることを止めて雲散霧消したい、

  あわてて追ってはいけないものだったのだ、きっと――

 ああ噴水のように雨が――涙が・・私という植物に“蜂”を用意する。

 恋をしている間、私はその“鉢”に可憐に咲き誇った百合。

 観察され、・・鑑賞だね!と種子でも探すように、

  口の中から、だらっとした――唾液・・唾液は嚥下・・

 黙って夢見ることを通過というなら、下りるよりほかなく――

 獅子よ・・私のきらびやかな衣服にさえ、そのような怠惰が擴がる。

  押しとどめられぬ・・その牙!その眼!

 でも見て欲しい・・海を鎮めてみせた、わたしのこの清浄な足・・・

  モーセも羨むほどの、静けさ・・

 そう!この静謐な死へと向かう肉体のタンパク質の危機を隠す表情、

 あなたが手が触れるのを待つのと同じ、この達観・・

  脅やかすものへと一致する髪こそ――。

 微睡みに沈みながら、・・ああ鬣をなびかせサヴァンナを歩く獅子よ!

  二三歩、おそるおそる後退りしながら、種子となる。

 あなたがもう会わない!と宣言する前のその時のtake・・

  時よ戻せ!・・戻すがいい、これ以上の言葉を費すまい、・・

 無関心な美よりも、まだ恐ろしくて優しい情景よ――

  “私自身”と勇気を持って言える、その鏡に塗り付けた香料よ――


                    N


  そうでなければ、ヘロディアス様は沒藥を・・雑多な愚劣な男の群に!

   ・・瓶の中の蟻たちに。キプロスの王女ミュラが流す涙を。

   老獪な欺瞞者は知らない、・・恋が母となることなど・・・

  人の声は喜ぶ・・薔薇も老いた、膚がくすむように、

   腹も黒かった!と――あわれで愚かな、・・と思いながら、
  
  美徳を試すため、ヘロディアス様は言った――「下さい」と・・

   あなた自身の子供――あなたの想いを授けて下さい!と・・

   そして出掛けていった・・子供が、鐘の音を聴きながら、

  たとえ――それが岐れでも。


                    H

  
       これらの想いを諦めたらどうなるというんでしょう――!

  ・・・表情の硬さは認めたくない、潤沢も・・あなたには、

 そう、私は嫌いなのだ、同情するあなた方が・・!

  物怖じをしてしまう、深い沼のように、ただ私は・・あなた、

  この“あなた”というのを感じたい。・・感じたい――花ざかりなる、

  その広い原っぱの真ん中を。でも、そうでなければ・・・
 、、、、、、、
 でなければ酩酊・・混乱する頭は沼の靄、他人に語ることはかなわず、

 わたしはそれを“髪”にしてもらいたい、・・

  花が消えたのではない、未来永々の果しなき楽しみに比ぶれば、

 人間の痛みは理を離れてなお・・、薫りは消えない・・・。

 しかしこの黄金の髪は、永遠に純潔を守る!

  神の為し得ることまた為すべきことを知って――
 、、、、、、、、、
 彼等の容赦ない叱責! 雷光の中で浮かびあがる蒼白な顔・・

 それが無菌の金属である!と誰が言うでしょう・・残酷な時の流れが、
                しる
 あなたを映し出す、歴史を著した壁の宝石たち・・

 飾りましょう・・花瓶を、私の孤独な幼年時代からの武器!

  情念が間違って神に属せしめられることに懸りながら・・!


                    N


  でも消えます!その年齢が!・・女王それはいつか・・・

   あなたを守る楯となる――

  私の心に住むことを願ってやまない古い本のように、

   黒ずんでもいいのです――そう、色褪せるという方法も・・


                    H
 

 十分だわ!・・鏡を持ってきてちょうだい!迅く!

                        ――ああ鏡!

 お前が映し出す結露・・退屈な冷えた水。

  それも・・霜を降りた格好だとお前は言うのか?

 多くの時・・そうだ。そうだとお前も思うだろう、何時間も、

  残念に思う――嘲笑する機会を発見してしまう。

 (先入観の拘泥、)ある私の記憶を夢のように探すことで、

  こういう想いは募る。永久凍土に、・・いまだ氷解できぬ蟠りに、

 深い穴へと落ちる。氷の下に葉がある・・発見する!

 それを私は、――遠い昔に見た・・あなたや、私自身のように見た。
  へだたり
  間隔も――星のまたたきに甘く、傷つくか、倒れるかのその淵で、

 湧きあがる恐怖・・夕方、あなたの声が荒ぎ、・・アラギ?・・・

 私は一糸まとわぬ姿でもって!・・


 看護婦さん、ねえ、わたしはきれい?

 
                    N



               ヘロディアス様、お気を確かに!

  でも、三つ編み、・・星はどうし――


                    H


               あなたの玩具と銀紙のかがやく星々。

 その人は本源の方で私の血を冷やす・・縛る、そして、抑制するはずだ、

  弁明を通読する労力をとられない以前に、

 このジェスチャー、中指で有名な冒涜のポーズ!・・ ああ!私を関連づける、

  神の協力が拒まれ・・、無に帰せしめ、(不信心なこと請け合いに、)
                         ひれ
 確かな悪魔が不吉な動揺で・・あなたに領巾を与える、

 ――このキスは、新しい香水を提供する――そして、私はそれを言うだろうか?

  ・・・単にもろもろの器官の或る一定の布置として。

  いや、それは心にあたたかく自然に触れてゆくところ・・

 私の心臓! このさらに神聖を汚す手!
 、、、、
 あなたが、たしかに、私にさわりたくて、一日雪を見る。

  地面に薄く雪がある、――ああ示しつくしたる理論の如く・・

 そは塔に棲むラプンツェル、不幸な髪千丈で、

 ああ、恐怖によるヘロディアスが聳え!


                    N


  空がヘロディアス様なら、なんて奇怪な時間だろう――

  でも蝙蝠のようにぶらつくかも、・・陰影における激怒だけを力として、

  まだ――出し惜しむ、早熟で、恐怖の感情を持っている、黄昏時。

  だが、不死の人!・・多くは魅力的な別のものを意欲し、別のものを感覚し、

  ああヘロディアス様の子供、そして、美恐ろしくまた可愛い、

  それ!ヘロディアス様自身のクローン・・!


                    H

 
   しかし、あなたは私に触れられないだろう?


                    N



                      ・・ ヘロディアス様、私が好きでしょ?

  あなたの秘密を有している運命である私が――。


                    H


 ああ!・・黙れ!黙れ!


                    N
 

             時々そこに来ますか?


                    H



                        純粋な星は、

  ――聞いてはいけない!


                    N



               どのように他から無へと名は受継がれるのか・・

  恐怖!より執念深く思えば行きつくとでも言うのかしら。

  そして宝物であるあまりに神の物乞い・・ヘロディアス様、

  あなたの恵みを待っているのです!そしてそのために、俘虜なのです!

  不安の内に、あなたは素晴らしい蛹になる。唸り声、翅音――

  ああ、あなたの無駄なあまりに贅肉をそがれた蝶ですか?


                    H


                    ・・・私のために。



                    N


  唯一のものへと向かって生育する悲しい花が他の感情と結びつく・・
  、、
  弱視――女の感情のデリカシーの際限に、水と、その影があります。

  人はそれを見て・・思弁的な、そしてもっぱら自然的な光の真理と思うかと――。


                    H

  
 お前の皮肉のような――

  しかしお前の同情を時には嬉しく思う・・


                    N


  しかし、ヘロディアス様――説明します。素朴な子供は・・

  いつの日か、この勝ち誇った軽蔑を減少させているものです・・。


                    H


 しかし、誰が私に触れる?・・いまや、獅子を買うことは出来ても、

  尊敬されない。飼うこと、飼いならすことはできない――

 そしてまた、私が刻まれた――女性らしく!と・・

 でも私は楽園の失われた目そのものを看取する。

 それは私がお前の手によってミルクを飲まされた覚えがあるように!
 
  ・・・いまも何にもまさる、あの休息と平安!


                    N
 

  彼の運命の哀れな犠牲者は、提供です!



                    H


 そうか・・提供か、私のために、

  私のために私は花の咲く砂漠となったのか!

  どんなに私に光った太陽を暗く見せる砂漠だろう――、

  放棄せよ!義務を!・・おお花が咲くことすらも!

 お前が知っている、埋葬・・紫水晶の庭園、

  木を焚ものにするため生まれた火よ!

  ――取扱われた他の種々の問題を土が・・あるいは私自身の水が。
 、、、
 学んだ・・永遠に深淵がある!目がくらむ!・・そこは心の中――

  穴よ、穴にして・・穴となる、人間を有する、精神の破綻よ――。

 密閉された空間で、古い光は維持されるか? それとも無視されえようか、

  ・・金は見つかったか?古代の叡智は――。

 地球というこの地層・・その靄の中で睡眠をとり、第一に我々を想おうか・・?

 おお!まじりけのない石のような眼――純粋な宝石のかがやき!

 地上にいる民ならメロディアスな竪琴の明快さを借りて、ああお前・・

  小鳥のように自由に囀るがいい!林檎を落とすがいい!――

 私のこの若い髪にもっと永遠のかがやきを与えてほしいのだ、
 きん
 金!金よ、致命的に・・もっとも人の心に巣くう髪の色よ――

  その素晴らしさの象徴的な三角塔のような女性!・・

 悪性する世紀に生まれたあなた――女性は

 邪悪なる栖へ・・不可解な完全な実有の観念へとゆく・・

  神託も意地の悪いことよ!――と、嘆くことあれば・・

 誰が人間を語る!これなど・・聖杯に酔えるものまさしく!

  奪い合いに隠し合い!――見つけたものは、

 私の丈の長いドレスから激しい喜びと味が湧き出よう!・・内気な、

 その刺激の裸体はといえば、この白い素裸なものの内から!

  ああ!夏のなまぬるい空ならば、予言できるほどに!――

 ああ・・、本当の自分自身を――ありのまま見せてみたい!

 星の瞬きのうちに私は震えている――慎み深い私のために、

 私は死ぬだろう!死ぬだろう!


         ・・でも私は処女であることの恐怖を愛そうかと思う!

          或る統一を成すほど密接に結合する必要を・・

 私の心のように私の髪が織りなしているプリズムのような瞬間を・・

  恐怖の間で生きる!とそう言えるのなら――

 夜の私のベッドに撤退した、爬虫類に破られることがなかったゆえに・・

  役に立たない肉も!・・神聖な氷となれば淡い光を宿すだろう――

 あなたの青白さ!・・冷えた明滅というほかない瞬きの隅でちらつく、

 もう一度あなたになって――死ぬ・・火傷の痕さえも残さずに・・

 角ぐむ隆起する氷と亀裂と容赦のない雪でまだ眠れない夜!
 

 そして、あなたの孤独な姉妹、・・ああ、私の永遠の姉妹よ、

 私の夢は、あなたの方へ上がります。――その方がきっといい!・・すでにそれは、

 多くの偽なるもの。・・彼を不思議に思った心臓の珍しい明快さのオルゴールは、

 私だけれど、・・、私の単調な思案に空費する、私自身を信じています。

 そして、すべては、私の周りにおける、私の偶像崇拝で生きてきたのだと――

  生きますと誓った瞬間・・私のもろもろの意見のこの全般的顛覆。

 さあおいで、就寝する静けさ!・・あなたでしょ、反射する鏡――

 ダイヤモンドのようにはっきりしたフォルムを見せてほしいのよ、

  観察という名のヘロディアス、あなたは一体誰?

  まだ、 珍しい澄んだ心を誰か・・、考えている――。

 ああ最後まで魅力が尽きないと、ええ!・・私も感じていたい、

  私は一人・・・意見のいずれのうちになり何か疑いの理由を見出すだろう。


                    N


  マダム、あなたは死ぬつもりですか?


                    H


                      いいえ、貧しい老婦人・・祖母!

 静かに遠ざけてしまうけれど、あなたの心を離れてはいけない、

  もっとも、堅いこの心臓の音は、死期が近そうだけれど――

 しかしもし、あなたが望むなら窓を閉じるのもよいでしょう・・

  青い、青い空。現実にあるものに象っているはずの――絵。

 ああ深窓にセラフィムが微笑みかけているようですよ。

 でも憎むこともある、紺碧の波!・・変わることのない美しい空の色よ!

                             波の・・

 ・・波。ほらどうだ、美しい波、そこには、あなたもわたしも知らない国。

 不吉な空の表情のどこあたりで、雨が降るのだろう・・虹が架かるのだろう。

 夜に、あの氷の葉で火傷するヴィーナス!・・

  いや、いまは燃えているのかも知れない、骨となるまで溶かし尽くし、

 しかし私はそこを去る――窓を、髪を・・鏡を・・・

                          ふたたび甦る子供っぽさ!

 ――火をつけてと油は、松明のその現象を塗り始める!
 
 金色の時間、無駄な少し外国の涙、つかの間の泣き声・・

 そして・・・・・・・・・。


                    N


  今すぐ。


                    H


          さようなら。

            あなたは横になっている・・展翅板のような、裸の花、

 私の唇の!新しいものを案出する星座・・

          私は、未知に――待ち焦がれている・・

 それが推理小説という迷路で・・あなたの悲鳴でも無視する――

  あなた自身に最高のすすり泣きとあざを投げいれてほしい

  ――たいまつのように、火山の中へ・・

 夢見ることの中に失われた子供時代の感覚が息づく。

 それでも最後に私の心が冷え・・宝石とわたし自身が分離するだろう。






 ブランコシミック 

  Antun Branko Šimić


  1898~1925。クロアチアの詩人、エッセイスト、評論家、翻訳者。おそらく本邦初の翻訳に
 なりますが、今後クロアチア語を勉強する人がいましたら、是非一度、KAMOME教授もしくは 
 詩誌AVENUEまでご連絡ください。文化は生きる糧です。もし僕に協力できることがあれば、是
 非前向きに一度話を聞かせて下さい。また詩はやはり創作です、多謝。



    ああ、ここで再び...
     Ah, evo opet...


 ああ、又ぞろ、 ‐ 私たちの住む町へ 来た ・・

 私たちがもっとも愛する ‐ 乾燥した音と濡れた音 ・・・

 手に ・・ この考え - 復た、散らかっていくけれど 

 不健康な明るい陽射しが ・・ 強く彷徨っていて ・・・

 いとしい ・・ のだろうか ‐ 復た、厭わしいのか
 きぜわ
 性急しいが 早く この地域に、水や、作物を。


 私の家は ・・・ 広い道路に面して - いて 

 と そう ‐ 唱えかけ ・・ くっ付けて ・・・

 長い間、古い桑の木が ‐ ささやき ・・

 怒ったトルコの馬の音に - 耳を傾け

 耳、のまわりも ・・ くび筋も ・・・

 黄昏の剣の音、荷車の進む音、弾丸 ・・


 私が来た ‐ と私の游離する魂を鎮める ・・

 彼女は秋の日に泣いていた ‐ よ、困らせるばかりで ・・

 二つ並んで ・・ ほぼ同じ方向 ‐ 向いて、いるのに ・・

 その時に、すべては歌う - 風、雨 - ああ病気 ・・・


 私の懐の潤っていた夜を ‐ 夢見て、いたのだろう・・

 ね ‐  風が、あたって ・・ 寒いから ・・・

 けれど、今? ・・・私の限られた視界にはこの美しい秋

 景色 は ‐ ね ・・ どう、して“反転” ・・

 私はこれがすべて ‐ね、夢のように ・・ 思われ ・・・


    患者
     Bolesnica


 しめやかな秋の午後は、病院の、壁に、マリイを描画。

 客室、果物、枝、薄い影・・。

 すべ、ては、時間。漏斗状に落ちてゆく夢である私たち。

 傷んでいる・・古い寝台。肉体。白衣。患者。


 赤燈、反射、たかが嘘と、しても――

 いずこかの庭、彼女、死、接近-接吻、愛撫、直面。

 黄色が、かった・・うす、ぼんやりした色の面。

 やがて、消灯、思考、停止・・正気か、と言っ、ても。


 すべては、黄色、黄色・・朽ち葉、蔓、上の部屋、照明。

 私は、枝が、窓を、割ら、ない、かと――嘘・・

 記憶は魔法瓶、このイエロオイエロ・・

 きっと最後に見る――二つのマリイゴオルド。眼・・


 わりと、頻繁に・・部屋、特定部外者、禁止。

 でも編み物、をする、お前・・薄い、秋の、金色――

 粉とおからの沈黙・・薄い面紗、覆う、その日・・・

 患者およ、び、すべ、てマリイの夜の証明。


    夕方の雲と緑の湖についての歌
     Večernja pjesma o oblacima i zelenim jezerima


 トウモロコシは、穏やか・・笛。

 空は、まだ――始まらない・・・

 白い・・漆喰の、壁。

 彼らが、する、――静か。

 
 雲は、飛ぶ――

 高く、迅速かつ・・大胆な、鳥。

 飛べば、落ち――落下・・

 山の、白い塔・・ながれ・・眺め。


 まだ飛行する、雲・・茶色、すぐ、

 神の棹さす、青――

 私は、黒で・・ヒュームの、原理、

 漠然とした、森・・フレーゲ。

 
 雲が、嘘――と言う、暫くの間、

 時を・・停めて――

 蝙蝠は、逃げる。

 臆病な、ノイズ・・完全だ、ああ、霧だ、

 沈む、夜――静かに遅く、遅い・・

 グリーン・・レイク・・の、靄――


    
     Vjetrovi


 渇いた黒の、風が吠える夜の在り処

 爆発する、私の壊れやすい魂。

 渇いた黒の、風が吠える夜の在り処


 時刻は、黄色が餓えるさみしげな灯り

 陳べる希望、肯定する活動の女性。

 時刻は、黄色が餓えるさみしげな灯り


 此の程、どのようなウゥマンが私の夢を見る

 目という無情の動物、彼女の夢の中

 目下、どのような女性が私の夢を


 呆れかえった夜の通気、黒い樹皮の貫通する陥穽

 遅れあそばせ、黙らっしゃい・・と 夜の乱心者

 呆れるほど深海、深海に堆積するメエトル法


 昨夜も、私はイエロオサブマリン、私に希望・・

 すべてのものから奪う


 今夜も、私はイエロオサブマリン、何処へでも・・

 女性への、または神への


    
     Pjesma


 もし私が過去へ戻るとしたら、

 醜い告白・・

 だから私は

 永遠を胸の奥に秘めた場所――



 各階段で、私、私・・

 私は怖いし、非常に恐ろしい、

 でも私は彼の背景にうち展がった森の中で、

 私は自分自身の足跡。



 ――実行実行。



 私はある一家にいる自分を思い描く、

 すべてのものは、静かに茶色く濁った主張で、

 残念ながら!・・彼らは私の才能を憎悪し、

 でもきっとこれ以上なく私を離さない――

 それでも私は聞く・・臨場感ある物言いで何処へ!と・・



 唯一触れられるものといえば、白い枕・・
    いいなづけ
 (私は許嫁のように、それらを抱擁)

 と非常によく似たケースのことを愛していて

 彼らは一晩中私のこと、私のこと――

 きっと私は生きながらにして死んでいる詩人だから・・



 私の白い枕、白、枕・・

 私は死んで歌う、生きているのが稀薄、

 私の夢、そして私の周囲・・dead――


    
     Grad

 わかば
 嫩葉にして朽葉の都

 人生は道理の処方箋

 謳うは葬りさるところの永遠

 浮かれ騒ぎと取り越し苦労の雲雀

 それも咳、咳、石

 永遠にうつむき続ける一形態



 されど人生の街!

 きっと私の生活は、都会生活の最小単位!



 さて見もの、この市街の暗い時間の上に落下する!

 逝去の嵐か、目の粗し!

 死んだものの見方、完全な後ろ向き

 と、暗く、ほらまたケセラセラの子供

 犯罪者のいる、この夜をお通り!

 怯えるのかい

 ああまだ私の目は逃れてない!・・

 荒れ狂うノクターンの嵐

 ああ、ノックダウン寸前・・

 耳は殺人者である市街の背後を聞く

 それは足音

 私と一緒に

 永遠に

 この私の思考にさるすべり

 黒と死に盈ちた失墜






 ハンス・アドルフ・ブローソン 

  Hans Adolph Brorson


  694年~1764年。デンマークの詩人にして司教。デンマークの三大讃美歌作家。作品は、
 復活を意図した敬虔な宗教感覚をベースに表現したもので、オリジナル意訳中もっとも大胆な 
 切れ味となっている。また、既に讃美歌ですらない。



    うつくしい薔薇が見つかった!
     Den yndigste rose er funden



 うつくしい薔薇が見つかった! 醜を美にする 旺盛な復讐心を・・

 その日も 夜が明けたけれど 哀悼をあらわす 硬いうるし塗りの棘
 
 わたし達の主が 共に在るとしても 薄く伸ばされ 金箔のよう

 それでも罪深いわたしは目を瞠った 感じた いつでも触れられるように!・・

 
 わたし達が功績を表彰しても 根本は無知だ 主は耐えておられるのだから
                ふんせい
 さながら聖者像は 美しき噴井ある果物! すみれ色の露がこぼれるのに似て

 夜の世界の盛んな当惑のよう! 荒涼の世界の献身と結実など忘れ――

 主はいまも離れながらに 我々 ひとりひとりと 向かい合っているのに・・

            めぐみ
 いつの間にか 神の恩寵のように 薔薇は別の姿をして芽ぶいた

 胚の中で主が 混沌界の種子となり 永遠なるつかの間の姿を光芒に浮かべた

 捩じて浄められた薔薇は 嫉妬に狂っていたが この薔薇は非常に甘い薫りを放ち

 わたし達の先祖が 忌避し続けていた作業を通して これこそ薔薇の真の姿!


 暗い心を呼び求める全世界は いまこそ欣喜雀躍し 何事かを想わなければ!

 讃美歌の多くのように叫んでも その裏に悲哀 憎悪 時には恐怖・・

 多くはまだ ぼおっとしている感覚で 単に慎むという意だが――汝の涙よ・・

 見開けば 汚れて行くかのように思われた世界は 薔薇・・囀ったり 舞いあがったり!

 、、、、、、、、、
 硬化している紅花は この内側に知恵を蔵し 名状し難い思惟の翼となる
 
 棘を染料とすることで 生活と寄りそうことで このすこし硬い印象に!

 幾千の応答が生まれるだろう ――振り動かすカンテラの火の尾

 わたしが壊れていると そんな冷たい言葉を放つ時も・・


 ああ! きっと彼らは薔薇 機知に富む雄弁で この愁いを晴らしてみせる
       
 わたし達の主が教えてくれる矜持を 胸に秘め そのひとつの翳りが

 いまや そう演説をしてくれる わたし達の主そのものの輝きとなって・・
  
 薔薇の谷で紅花は育つ かわるがわる色んな人に 愛の在り方を教えるため


 私の答えようとしない主! でもあなたは いつも大切なことを教えてくれる

 私の宝石はそれ以来 紅花となり いいえ あたらしい薔薇の姿となりました

 あなたに恥をかかせる有毒な欲望も いま蒼ざめから救う あなたの教えで

 十字架のもう一つの姿として 絶妙な甘味を与えられ 稀な麗しさで・・


 世界は 腕環であり帯飾り 私にとって 常にそれが薔薇の魅了なのです

 いばらの涙に投げてしまう日も 薔薇は 蛇さえも焼く硫酸となり――

 いいえ・・・ この心臓の音だけで 気絶して逃げ出す結束となった!

 ああイエスよ 覚えやつれた私が 讃美の声を失うことはないでしょう






 鄭芝溶・大弓修


   1902年6月20日~1950年9月25日。韓国の詩人。なお、いわずもがなだけど、創作です。  
  ただ、それでも何かしらの意味を、伝えるために存在しているから、ここにオリジナル
  意訳の一つの完成を見てもいいか、と思う。誤訳ではなく、日本人感覚訳としての。



    ひまわりの種



 ひまわりの種を植えよう。

 途方もなく生長して軒よりも高くなるように

 路地の雪がすずめを隠すように

 ひまわりの種を植えよう。

 ああ、お姉さんがぎゅっぎゅっと手で固め、

 囲碁をするような前足というか脛にあてる感じで固め。

 鍬という手法もあるけど、・・風情がない、曰く――

 すずめの尾を微塵切りにしてしまうから。

  ――と もの騒がしゅうござっしょうけど。

 目を閉じる間に、一夜おく。うち渡す暮烟、

  朝――月の光はまだ寝ていたけれど、

 そして私も起きて・・友達と遊んでいたけれど、 

 太陽の光が口づけ、いま裸の髪だったと思うな、

 三日経ってもこりゃこりゃ・・

 頭を嫌する。むこんちの娘みたい――

 じっと覗いているとお下髪みたい!上げたら・・

 おお、マサキの葉に隠れた

 新国籍法と改正軍法みたい!


    落日


 うちの兄が行ったところ

 中国の排水による海洋汚染

 また第二次大戦以降の、海上軍事境界線
          ソヘ
 お日様が負けた西海渡って

 ずっと言ってた、

 どうしたんだあの空の色

 どうしたんだあの海の色・・

 血の色は怖いな!

 大騒ぎになったか。

 この正体はわかったか!って・・


    


 朝鮮国を頭として

 この頭に加え、ベルトが見え、

 この韓国に住んでいる人・・

 この腰に加え、ラインを帯び

 ああ中国に住んでいる人!

 その足首に加え、ベルトライン――






フェデリコ・ガルシーア・ロルカ

 Federico del Sagrado Corazón de Jesús García Lorca


  1898年6月5日~1936年8月19日。スペインの詩人、劇作家。ロルカは画家サルバドール・ダ
 リや映画監督ルイス・ブニュエル、評論家セバスティア・ガッシュなど様々な親交があった。ダ
 リには詩集を捧げており、彼の妹とも親しかった。その一方で、作品の内容から彼は同性愛者
 であったと言われている。代表作は『ジプシー歌集』



   アンダルシアンより『騎手の歌』
    Andaluzas“Canción de jinete”


 物語りめいた黒い月、

山賊の、

彼らは、ひたすら略奪に明け暮れて・・

 
  アンダルシアンの血統を追尋させた黒い馬

 どこに、死んだ騎手を連れていく?


   ・・・馬腹にある堅い拍車

その余勢で静止した盗賊

空虚だ! いまや手綱を失った。


 成功や前進を妨げる重荷。

力は力と抗う、ナイフで滴る血の薫り。


 ああ ブラックムーン・・

刃を砥ぎながら現れる、黝い勿体ぶった顔つき

コルドバ北のシエラモレナ山脈――

   、、、、、、、、、、、、、、
  情念の模範を示す玩具の黒い馬

 どこに、死んだ騎手を連れていく?


 馬の背から腕が伸びる夜

ああ薄白く浮かんでいる横腹が蹴りあげられ

夜が落ちてくる。

 
 こんなことはあるものか、でも釘の固定は外れ、

力は力と抗う、ナイフで滴る血の薫り。


 そしてまた黒い月、

死を恐れる呻き! そして、嘶き

翼のように翻えしたか炎よ。


  ああ 黒い馬・・

 どこに、死んだ騎手を連れていく?













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