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詩誌AVENUE【アヴェニュー】~大通りを歩こう~

詩誌AVENUE【アヴェニュー】~大通りを歩こう~

wa!ひろさん写真詩詩文控え1 by 塚元寛一

【1 ふしぎ】



わたしの顔です
わたしの素顔です
痛い目に遭ったという
不景気なツラですが
治外法権! 全思想は!
下剤!というわけ
わけなのでございます・・。
さて、チャ・ン・ネル
  テレ・パシー
 ピイ・イン  ポオ・オオン
  パアアアア・ン
―――朝はオクトパシー
ふしぎなパスポートです



【2】



風景はいつも正しい
時間が逃げない限りは、あなたの感情



【3】



らくだ「わしって大きいかな?」



    らくだ かっぽかっぽ歩く
     水筒が、水平ー斜めー傾き



【4】



サラブレット


シカ「わたしの角は何処にある?」

               わたしのツノが好き
               ツノ!
                カンツォーネ
                武者震い覚える響き

                ツノ・・・、かたつむり
               の性感帯

                 ツノ出せ!槍出せ
                鹿を出せ



【5】



       LOOSE
ROSE
S
                  H
                     E
                     E
                     T



あなたの匂いが残ったら、あなたの花弁がちぎれていて
花で埋もれたら、種子がひとつあるかもと



【6】



THE FINAL AIM
THE FINAL AIM
THE FINAL AIM

ほ 
ど 届        ぼ  空  た
に く  祈     く   は  え
      り     ら      が
            の      た
                   い



【7】



ガラガラ


                     む
娼婦                    く       心
「ねえ私を30万で買わない?」       ん      に
                     だ      し
ヤクザ                        棕     み
「あいつの場所わかったら            櫚
教えてくれよ」                    の  レポーター
                    葉   「彼女は本当に日本人なんですか?」
                    の
                    如   画家
                    く   「俺はまだ絵を描きたい」



【8】



詩人は言う
詩人は言う

  海辺に蝶があつまるという
  蝶は蛇口の水を飲みにやってくる
  どこからともなく響いてくる
  大声音・・・、太鼓の音


                 詩人は言う
                詩人は言う


      喇叭の釘
でなければ病める禿鷹

    干からびて裂けた利口な土地
    いくら見つめても小切手の上の頑丈な壁



【9 持論】



るんるくるんるん
(ほら るんるくるんるん

サンタクロースの酔っ払い
ン・・ん?
あ、路上で寝ちゃダメってか。
まいったなあ。

ところでお嬢ちゃん、
何か欲しいものないか?

・・・あのきらびやかな服
お嬢ちゃん、結婚するの
そう・・・そうかい!
はいはい、
ごそっ、ごそごそっ。
一枚でいいかい
二枚でいいかい?



【10 やりすぎ】



いやだから誰がどれくらいやったかなんて、みんな興味ないわけなんだ。
何年この仕事やってるんだ。お前がどれくらい頑張ったかで、みんな評価するなら、
俺は今頃、社長だ。弛んでるんじゃないか、ぴちーん、ぱちーん
うひーっ、―――言われたことだけやってても駄目だからさ
・・・いや、嫌なら嫌でいいんだよ、―――べつにね、と眼鏡をくいくい、
わざとはずして、ぷはーあうっと、曇らせ、眼鏡ふきで拭くものすげー横柄なたいど
君の代わりなんていくらでもいるんだからさ。
―――愛や夢で腹が膨れるか! おらおら黙ってぺこぺこ頭を下げてりゃ
いいんだよ。一日一杯のコーヒーでいいか、毎日蕎麦か、ええーっこら
どうなんだ、と胸倉をつかむ、すねを蹴る、さいしゅう的には髪をつかんで獅子舞をする
結果がすべてだからさ、・・・わかる? 仕事って言うのはさ、
自分で見つけるもんなんだよ、おら、もういっていいぞ! って、オイ
その前におれになんか言うことあるんじゃないか
ご指導ご鞭撻ありがとうございますだろ、おら! とボディブロー
おれはよお、おまえと自給が違うんだ? えーこら、わかってんのか、オイ



【11】



マンドラゴラ、平行植物、ブルーローズ
そして、人面瘡・・。



【12】



私の四季は公園の歴史を刻む。時計、滑り台、自転車・・。
未知の回路は開かれ、「私」という分身が砕け散る。
汝に、光あれ



【13】



衣装はうつらない、その弱点が花をいじめている。
花が好きな人なら、よく知っているだろう。
つかんだひかりが、つかめないというのはあやまりだ
てのひらをあければ消えてしまうのだ、空っぽだったと、

  それはクウコクの跫音だったと、
  オリだった、と・・・。

風見の矢のように北にふるえ、艶のない鉄骨のように
冷やりとし、頭のさきから足の裏まで、

  ギラギラと、ギラギラと歯を剥き出し
  むんむんとしたいきれ、

一日の幸福がこの花の中にとどまっている。
「――おかえりなさい。」
室内の光線を吸い込み、一日、二日、三日まだ
、まだ、・・・望みは捨てられない

  バスの歌がきこえてくる、遠い空にきえてゆきたい
  主人にじっと寒い身をすくめて・・。



【14】



痙き攣った一瞬 裂けた
絶対無の彼方へ
銃弾が

北極圏でも南国へでも弾道はゆく、
蝙蝠のアーチへ
もつれていた夜の蔓を切るため
いざや! 目にもの見せて

  ・・・もしも、ねむたい 時に、
 魚が、鉛筆 が、あるいはかんばんが
 蛙が、車が あなたの屋根へ、
 落ちてきたら

におうて来た証だ
大いなる問いのなかに
あなたが沈むデモーニッシュな情念
硝子という、つかめないけれど立体的な
、、、その姿 は

  ・・・いしきのうえに、ゆきを 降らせる、
 しづかで青い 真珠 に、なるだろう

    ―――なると思う、夕暮れ、
   朝の始まり、いやわたしは
   ぷっくりとした帆立のような蠢動しない静物画的な肉
   あの、銀色の月のようにしづもりが好きだ
   笑え、弾め、超自然的な不思議!

 

【15】



蒼白い顔でわたしは空を描写する。
カーテンというディスプレイはほのぐらい翡翠の色に変わった。
「描写の多くは飛躍ですよ。」と思いながら。
硝子を何枚もかさねたような化粧、被膜のなかで、小一時間、暗紫色のプールを見つめた。
風は雲を動かしていたが、それは殆んど、香水がはいっている、透き通った壜のように、
ただ透明な液、・・・たとえば、釣りざおを水面に垂らして、その真下に糸がおちていく、
そしてそこに魚の眼がある、と思うようなものでした。
・・・色盲の子宮、と浮かんだ。
新しい土地を探す、と嘗ては熱い心で希ったものだ。
遠方の尾根と広大な青空に到着する。
ああ、なんていう襟巻きだろう。
空を見ていると、鮮やかなモスグリンの空想に浸った。というより、耽った。
蝋で固められた人形のようなくどさで、近眼の人がよくそうするように、
わたしはすうっと猫のように眼を細くした。
―――長い睫毛が、波紋のように金いろに染まっていく。
「・・・木漏れ日だ。」
あの源泉にしずかに茂った苔。
沙漠をみのりゆたかな緑の肥沃な土地にしたいとねがわせる、
そのみずみずしい、幼虫の思念。そこへ、張り裂けそうに膨らんだ魚が溶け入っていく。
それは、精なる液であったのだろうか。フロイトのあの拡大枠の情念に偏った本能への、
異常な、しかし特別の敬意だったのであろうか。
・・・風が剃刀を持っている、瀝青のむらなく塗られた世界に、
炎のあおいゆらめきが寂しくただよい、理科の実験で、蛙を解剖して、
ああ、はじめてみる、
紫いろの、インク。映画でよく見る、血のりじゃない、
―――と、深く息を吸って吐きだす
おびただしい血の迸り。



【16 相撲力士】



この写真は、もっとスマートな鏡張りのオブジェだったのですが。
この写真は、それでなくてもハチ切れそうなイモムシでヤジロベエなぼくを暗示するのですが。
この写真は、三十度のお辞儀へ向かうのか、つっかえそうに息した男という題名をつけるのか。
この写真は、夕方頃のもので、この前後にわれわれは喫茶店へと行ったのですが。
この写真は、細長い封筒には入らない瞬間絶妙におとなしく人質を解放しろ、というのですね。
この写真は、車と人物がうつっていて歩行者道路、それもゆるい勾配の坂でしたね。
この写真は、爪先を蹴るように、中央分離帯も、マンションと思しき景色もうつしませんね。
この写真は、半回転させて元に戻るので、とりあえず、ワンと吠えて下さいね。



【17】



これは、とある時のぼくだ。
もちろん、こんなにシリアスじゃあない。



【18】



スカート的考察
/ストーカー的なのを察する考え


スカートが見えた、頭がかぶりそうなくらいパンティーが見えた
Sの字からUを見つけるくらい明瞭に歓喜に酔いしれた
くねくねくねらせる巻いている太いシマがあって恐ろしく光っていた
細胞分裂する音のない一瞬をくぐれば矢よりも早く飛び込みたいシモネタ
でも真っ白な平野に見えた、風の中で渦を巻いている洗濯機みたいに見えた、
蛇口が見えた、蛇と口がとおざかる闇


 × × ×


もし照明器具があらゆるものにミシンの痕をつけると定義するとしたら、
長い廊下は一端から一端へと向かう連続運動だろう・・。
もしそこへ壁を向いたり、立ち止まったりする人がいるとしたら、
アツという間に、ブラックジャック先生の完成だ!


 × × ×


スカートに汗の匂いが織り込まれている、ポケットには奇妙な飴玉がある、
そして風はうんとムレて、腐りながら放つ、甘い既製品くささをただよわせ、
それらのスケッチ帳は亀裂をつなげる糊のにほひから。



【19】



響き 
演奏された楽器
 燃えるものがあったということだ
 燃えるものがあった・・

のこりは何処か
遠く響く
 やさしい波の音よ
 香水よ、肌のかおりよ!

曲―それが愛撫する
電話か? 電話が・・・  



【20】



ぼくは・・・人生を歌ってる
遡ってゆく――遡って
遠い音楽ってやつは
どうして

夢を見る

メリーゴウラウンド

優しく 優しく



【21】



ありうべき死の場所
スボッと毛孔までちぢこまり
足の裏まで刺しそうな剣山状の・・

ああ蟻地獄にはまった
靴が深海へと落ちた

ぞっきりとした焔の色なぞが
胸につきあげてまいりますれば
不気味な様相を呈しているで
御座い



【22】



パンダは葬式へ行かなかった
型として無血で静物であったから
多くの犬がそうであるように首輪があり
それがたまたま彼にはあった
公園に陽がとっぷりと暮れりゃァ
がらんとして淋しい
・・・いえ、淋しいと思っていたと
思うのですよ、わたしは

  ● さようなら、パン太さん ●

 追悼歌 ×月×日某公園にて

ホノカー ホノカー ぽのぽのぱー
パトカー パトカー ぱんだぱだー



【23】



 芸術は洞窟へと射し込んでいく光のように、いくらでも誕生する。何度でも――甦る。そうして、僕は渺茫とした広い野へと出た。おりしも、それがエリオットの荒野のようにも思えた。いや、僕は世間ばなれとして、つかまえどころのない彼より、ホィットマンという反響。
 「そら! もの暖かい乳など流せ―――」ミルクはとぼけて、膜となる。視界を遮蔽するまでの、古い穴のように閉ざす。
 壁画は耳の厚くて夥しい横行だ。・・・輾転としております、不毛ながら、誘引力など・・。冥々の衣を翻せば、予告される危機、準備される・・。
 そうだ、彼はペンを投げ捨てるつもりだ。
――沈黙のなか、思いあがった才能などで革命するつもりだ。
 現存する言葉は、恥を知れ! [でも対立するので/あちらの事情もわかってやろう]
 しかし腕はうなる、シェリーのような英気あふれた肉は
――どこへ行くのかとゴーギャンのように・・・!
 僕等は坂の上を目指しているのか、とどまっているのか、それともメタモルフォーゼしてビー玉にでもなり、「転げるべきでしょうか・・?」と問うてい
る。それは夜の神秘のはたらきを搾ってインクへと変えた、祈祷・・・咒文。
 それはわれわれから、あらかじめうしなわれているもの、彼方で発せられたものの正体を想像させた。それは落石や、硬い草、あるいはサフラン色
の葉書などです。・・・他者が保護しているというもの、僕がそれを知ることによって起こる、これが自己破壊へと導く、最後の瞬間なのです。

 でも、僕は光明が好きです、滑ってゆく無意味さのボウリングのレーン。
 ある時、――それは少女の声でした。爾後われわれの喪失を代弁するものでした。僕はそこに、意味を担うような、うつろいやすさ、たとえば、
水が貯水されている、時刻という姉妹がいる、あるいは死という峡谷があるという風に、僕はただあてどもなく、言葉をつくったのでした。
 だから、ストライクの文字が好きです、それはストライプ、文字の影です――たとえそれ自身が忘却のたしかめうる外見の延長であろうとも。
 一切の追憶を撥ね退けても、翼があります。
蝋の翼・・・そのポーズ、ブロンズ像のごときよ!
 「僕等はビー玉を机の中にいれておいたのだろうか。あの、透明な鉱石を。・・・」
 わかりません、確かなことは惑星から引き離された、
一部としての眼球として認識するだけのことです。
 それは能力を謎にまで引き上げ、虚しさを包含し、―――ゆらめくとこしえの光、ダンテのえがく天上世界のごとく、ゆめまぼろしに・・。
 しかしこの曖昧な状態は続く。[あらかじめ、それはあったのですか?]
 みな、それがあるということで知覚する。予知する。あるいは待機という錯覚をうむ。それは束縛のない自由さで現前に顕現している。しかしその
経験の主体は何だったのか・・・? 
母親が片目を瞑っている。[聞き手に許可を求めたりする場面として]
 ――でもそれが鎖された世界では、滔滔と流れている。・・・威風堂々としている。殺戮と創造のさなかにある、緊張として・・。
 図面を使うのにコンピューター、マクロとミクロ、・・・そのエネルギーはその球体の中にある。車輪の中に――光景の彼方がある。
 時にその球体はシャボン玉になりました・・・! 時に、突兀とした円天井のような月を・・。兜蟲の眼を、そう・・・、馥郁たる土耳古石のようにグリーンに・・。<なに?>と言えば<だれ?>と言ったかも知れないわけですけれども―――。

 限りない距離の中では、開かれた一形態にすぎません。字を書くのに字を隠しているような、そこにある従属関係、あるいは深刻な沈黙、対話、
かつてはそれが真実だと思えたもの、ミケランジェロや、ダヴィンチ、――音楽、あるいは文学それらからも、伝達のドラマツルギーがあり、神話が脈々
と受け継がれ、他方の岸辺にあった切れ目からの光、切迫する連続性、歴史、ふたたびの沈黙を経て肉体は分離し、魂は輝いた!
 それらは要請があって実行されたのです。ああそれは思い描くような、絵の餅のような、記憶も思想もない《不在からの脱出》です。
 そこには散文の断片もなく、いわば対話もなく、技巧を弄することもなく、いまだに、ただ、その出来事が起こったという単純な裂け目があるだけ
です。そう、・・・ビー玉は患部、たとえば、無関心へと落ち込んでゆく主人に嫌気をさし、歌声を、目からの合図を、酔い痴れた末の神がかった訪い
のように、ただ割れました。・・・傍目からは、地震などの到来によって、こまかく、割れたという一致。されど、合唱です。それはビー玉の確信といえる
ものです。そこに、小川の形の眼でみえる最小単位しずくを傍に寄せれば、ああ・・・! 炸裂する破片よ、一個の暴力的なあふれよ、無疵であること
をやめた魂よ・・・! そこに場所を見出す、見えぬ光であれ、たとえちっぽけな雷光であれ、ロングショットはズームされる。そこにおいて、すべての言語
は接続するという“イマジネーション”が保留される。場所へとログインする。これが文化の彬々たる、あるいは沸々たるもの・・・。
 一個の意志である! はるかなほど執念い問いである。――ここに雪が降る。



【24】



僕等の目にしこりがある。磁気を感ずる。
 雪がある――冪々たる雲を貫いた神の声・・。
 聞いたか、異説紛々? どれ、少しまいったか?
 鎖骨を鳴らしながら、僕は回転花火のように、時間に破れた帆をつけた。
 それらが夢遊病者のように瞳の中で歩き回る・・。

 僕等の眼は、すこし、基督や孔子――預言者や、哲学者が好きだ。
 ものごとがむやみに長引くせいで、心が劣化し、結晶また化粧、・・・
 いつのまにか生きることに挫けてしまった!
 弱いせいじゃない―――通路を焙れ!

 愛の周期が遠のいて、恋の花火などあげるいとまもなくなり・・
 いつのまにか性が祝祭している。
 そして頁にはいつのまにか、シャツのボタンや、午下がりのぼけた感じがただよい、
 だらだらとSTORYはつづく。

 ねえ、螺旋みたいな階段にも重力はあるの・・・?
 と、苦悩したがりのタンパク質が、詩人病にかかっている。
 ・・・不毛な詠唱だ、森の中で睡りこけてる少女みたいな気惰い泡立ちだ。
 でも、――ピアノ教師はすこし得意げに難解な詩を書く。

 わからない物質の網目がランプのように明るくなる荷物は、
 頌えよ! 語れよ・・・! 
 なんて重たい脳味噌にもまして、重たい妊娠をしてるの、
 ヘブライ語で神殿といってみな、頭の悪そうな詩人よ!
 
 彼女や彼は羞らいのあまりに、さよなら、と言う・・・
 いいんだよ、続けたまえ、その辞典系列取扱説明書の一群すてきだ!
 頭がカラッポでなかったら書けないその詩、
 死んだ時に鴉でつつかれそうで素敵だよ。
 
 ああなんて素敵なの、高学歴めく幸福な亀裂の罠、
 ・・・心の不毛、まるで――円周率のように無限に続く現代性の心臓よ。
 どうして毛が生えていないの、
 ああ、どうして芋みたいに幾つも生えてないの・・・?

 ごめんなさい、僕は笑いました・・・
 あなたは純粋な想像をひとつもしていないのに、
 あたかも、処女懐胎のように、はかりしれぬ空虚な顔をしているから、
 百万の馬鹿をからかいたくなるのですよ、お嬢さん・・・。
 


【25】



――ちょっとまあおはいり 
傘をささない人へ
  空からふわふわした大理石の母乳が
  泣き声と共に降って来る

   ・・・・・・溶け込めたらいいな

誰がつま弾くのか
あるいても  あるいても  遠ざかる背中
 /幸福な一瞬 おびただしい手にこすれる
    夜の瞼毛のように
   よせてはかえす波打ち弦楽多重奏

 アナウンスの声が大きくなり、
  僕の声音はどんどんやわらかくなり、

 あるいても あるいても 冷えた絵
 ――言おうか、夜空から心を愛している、と!・・
    まぶしい朝陽が愛を求めずにはいられないほどに

   /おまえのつぶてが花弁にかわるころ
  星の光のように降れば

 あるいても あるいても この道の暖気と寒気
  ・・・声が硬くなり、声変わりの時期のような
     けだるい鉛いろの声

 /靄の帯に細い刃の鋏が入れられ
 ちぎれていった排気、人の背丈よりも凶暴な
  しなえた腕は新たな輝きをもとめて
    なだらかに伸びるがまま
   左右へ、酩酊へ

 あるいても あるいても 不思議な“何か“……
  見つめ合う瞳 忘れたがっている思い出は そう・・・。

    /蜂の巣のようにひしめきあっている窓は そう
  まだ見ぬ答えが夜のようにリフレインする
  
 はやく明日へ! 君に出会えてかすかに
  唇がひらき始め「独りだと思えたとしても・・」

   ――人はつながっている 消えた道をも
  つなぐほど 強く ただ自ら遠くはぐれて!



【26】



悲しみよ、とどまれ!
されど、しとどと流れよわが涙!
「来たれ」と歌えば森の中の小路。
深い海の底にストローベリーの葉、
スペインの踊りが欲しい。
ああ願わくば 砕ける波 夏の穏やかな波・・
わたしを癒してくださるなら
古い聖堂のニンフの踊り・・・!
浄らなりや、瑠璃の床!

  趣味の調和あるいは新しい装いで、
  渦状銀河。-あおぞらのふかいところに森・海・山・川・街
  ・・・私の魂よ、ふたたび安らうがよい、憩うがよい、
   あしたの光。森に林に 響きながら 輝けり・・。
しなやかに伸びる、曠野に、真夜中のふしぎな国があります。
月はかがやき、聖霊は私たちの弱さを助けて下さいます。
男女の影がひとつになる花壇で、水路が網の目のように織りなされ、
      まるで正午の井戸のような不思議なまなざしで・・。
    あなたに寄り頼みます、―恐れることなど何もない!
    ブドウの種でも吐き出すように、ずらりと揃う、影の円みたち。
    涙とともに種を蒔く苦汁にも、・・明日はある!
   真夜中はいつも ベルがなった !
   (汝のうちによろこびがあり、汝のうちに神がいる・・。)
        耳が痒くなるのはそのためです―舐めてはいけません!
        鹿のように憐れみ深く霊は鳴きて全地を満たし・・・来たれ、精霊よ!
        来たれ、栄光よ・・・! [恋や青春のかけらがビスケットのように!]
         ぽろぽろとこぼれては、鳩が啄ばむ、しんと静かにする太陽が凝視む!
      長い夢のように 幸いあれ、デスパシオ(ゆっくりと)―
      おまえの名は小鳥[心のはしの形見にとまるもの]
      ーサイレント映画のように・・目覚めよ、ぼくは美しい絵姿の丘の上に
       座っている。そして忘れてしまった・・・すべては遠い、
       (裾は白塗りのひろい平原、闇は木彫りのような、
        のどかな線をめぐらし――忘れてしまった・・)
    はたせるかな、灰色の霧を破る、犬の鳴き声、子供の泣き声、
    と。・・空たかく流れるこの雲たちはぼくの余分な生臭さをとった姿。
    ああ、やさしい森よ、愚かな蜜蜂よ、ため息よ、
    ぼくの受けた苦しみのように窓辺に出てきてよ・・・!



【27】


                    もし朝が消えたって、
臆病者  ふれあっていたい

           世界が裂けるとしたって


闇の中で声がきこえたよ

ちゃんときこえたよ

やさしくてあたたかい声が



【28】



角のある獣は
三角形のことを考えているもの



【29】



街を歩いていると、階段がある
(その、)階段を昇り続けると、別の風景が見えてくる。
『合成』という、ある考えの中に、
最近の僕は西脇順三郎のことなぞを考えている。
抒情詩なのか? 自然詩なのか? 人生詩なのか?
メタ・メッセージなのか? 
もし、何かの拍子に、ある【考え】のようなものが、
降りてくるとして、
僕は山を登るということ、天に昇るということを、
何故一つの図式のように考えるのだろう。
・・・本当のところ、この僕にもわかっていやしないのだ。
わかっていやしないことを、アリュージョンだなんていう。
いやもしそれがテクストの次元から、
モダニズムへの階梯をいくとして、その純粋な知的操作へと、
結びつくとしたら、『もしかしたら』と僕は言うのだが、
もしかしたら、僕等の【認識】なんていうものは、
100年前から一歩たりとも進んでいないんじゃないか、
仮に進んでいるとして、今これが新しいという発想をする事自体、
磨滅した感性のように思う。遠い日の僕等はそれを、
“道”とは呼ばなかったかも知れないわけなのだが・・・。



【30】



金持ちになるという夜明けのため、
そよ風は塗料する


Q それにしても、一つだけ疑問があるんだよなあ、
分霊――ぶんれい、わけみたま、というのが、
本当なら、伊勢神宮の双子でも三つ子でも造りゃあいいじゃないか。

A 伊勢神宮は社格の対象外、神宮は、
すべての神社の上にあるんだよ。

X じゃあ、あえて聞くが、神様がいると思うか?
たとえば、神社は商売でやってる。おお! リーマン・ショック
てなもんで、無理矢理スピリチュアルやってるようなもんだ。

A そもそも神社、あるいは神宮でも、
スピリチュアルである必要はないんだよ。必要なのは、歴史。
またお詣りするという伝統。そこにおいて神社や、神宮は、
象徴的なもの、崇められるものとなる。つまり、神様にお詣りする、
という奴は糞だ。あれは過去の人々の汗と涙と信仰の結晶に、
まったくよくこんな無駄なものを造ったな、
と感心しに行く、神聖なふりした、ただの飾り物なんだ。

W おまえ、神社行くのに、神様信じていないのか?

A 誰が信じるんだ、・・・そもそも、儀式も平気で破る、
欲深国民どもの前で、誰が神様にあいさつなんかするんだ。
また神は、宇宙人でも、異次元人でもいいよ。また生神様でもいい。
とりあえず、見えない神が一番正しいのに、
姿形を求める国民たちに自分の神があらわれる確率はゼロだよ。
じっさい、神社に行って確認するのは、ああ神はいなかった、
やはり神は見えないものなんだな、と納得しに行ってるんだよ。



【31 古都】



君が笑がほの優しくて、
    かねても我れは思へるを。
  月冴へわたるみやびをが
      憂世のそとに眠りゆく

    梢にかゝる星かげの
    『烏羽玉の』
   奥にきらめく星かげの
    『黄金をちりばめ玉をしく』

更け行く夜半に唯ひとり
    小川の水のさらさらと
  流れ淀ます行く水は
      ながるゝ音のほそきよすかも。

          ながれ行くなり 花のしづ
        ながれ行くなり ゆびさしつ
          そゝぎ給へや 花のしづ
        そゝぎ給へや ゆびさしつ

    うち笑むさまは花に似て、
    『なみだを吸へる砂の玉』
   ものいふ聲はうぐひすの
    『ひばりの涕と想ひけり』

      ――似たる君こそ照すなれ。



【32 西瓜】



しゃくしゃく、
しゃくしゃく

西瓜を食べ進める音

・・・夏の風情だ

   りん
 りん



【33 酔い】


電気コードや録音テープのように
(あるいは、)テレビやパソコンを写真に撮った時のように
これが砂嵐の筒なのだと
それが蜃気楼を見せているのだと。・・

酒に酔いたいあなたが
強張った波の精霊を呼び覚ますなら、
けだるい海に(見えないかも知れないが、)
大きな蓋を閉めてほしい

七色の虹もいらない
帆柱もいらない、
ただ、流木、あの壜の中の手紙のように
その(「磁石というもの」)で。・・
わたしの無表情。を
わたしの水草、新聞の溶けた浅瀬(をも、)

呑み込んで欲しい
記録されない薄い板張りの日常に
真っ赤に発熱する、
いくつもの細い皺を額に刻んで欲しい。――



【34 俺達に明日はない】



 全体の操作と新聞は言う。エッセイストの俺は、ハンフォードの牛がハン
バーガーになることだとかを、無理矢理に経済に結びつけ、消費社会の堕落
とアクロバティックな結論を結び付ける。
 申し訳ないが、いつもそうなのだ。時間もないので、飛躍が論法。
 コーラブランドの話では、麻薬を使っていたと書いては体裁もあるし、ボ
ツになるので自主規制。それは企業努力だった、仕事への愛だった、と見て
もいないくせに平気でズケズケ書く。売文家というのは、かくしてそういう
ものだ。アイスクリームの密室世紀さ。
 エッセイストといいながら、ゴーストライターから、翻訳業まで・・。
 そういう俺から言わせリャ、情報操作は、砂糖漬け。べつに受験戦争も、醜
い争いを避けるような表現で、なおかつ締まりがよいウケ狙いなら、コピー的。
パリコンツェルン! ブロードウェイ教! ・・シメはやはりニューアークの神。
 ・・・奴等は知らないんだ、どんな気持ちで文章を書くかってことを。
 流れ作業に、やっつけ仕事。記事を送るたびに原稿料をもらう気持ちという
のが。別に俺でなければ成立する仕事じゃない。これはサラリーマンー重役ー
社長でも同じことだが、俺の場合はそれを切実に痛感するエブリバディ。
 仕事がなくなれば、また同じように空気のように自分のような奴が生まれる
だろう。都会も、社会をリードするはずの雑誌も、その程度のもんなのさ。そ
して俺はナオミ、エミリー、エリナ、と無針教みたいなホテルで涙のサイレン
ト映画をおくる。・・
 時には、怯えた関節痛電話を無視し、しわくちゃベッドで都会が麻痺して
いた。フラッシュバックで蓄音機ブルース。
 枯れた愛に、自分の想像力に如雨露を、最終的加速をつける、デイ燃焼花。
 そして各ピンポンの中に閉じ込め、コメントブラインドさ。・・



【35】



(ある街)というのが共同墓地のようにあった。そのメニューの中に、ウィンドウを
見つめていた、(ある人)というのが加わっても低価格建売住宅のようなものだ。そ
れがもちろん虚構であるということで(ある企て)を持つというのが今日的なシナリ
オと言えるかも知れない。モティーフとか、モデルだとか、あるいはレトリックだと
かいうのは廃屋的レストランである。誰がわざわざ明細書を見るか、だ。もちろん、
なかには細部の描写ーディティールによって現実的な再現力だとか、あたかも実在物
へのアプローチのように真摯なのか、病的なのかわからぬ輩がいるが、(それはハード
ボイルド的な人格)とか(万里の長城的世界)と言えるかも知れない。
 そして(あるデパート)に自分は入るのだ。
 そしてその(あるデパート)なるものが、不可解な悲鳴から始まる。
 噴霧のダウンタウンに潜入! ・・と言いたいが、実際はふつうの描写から始まる。
自分は旅行代理店だの、服屋だの、靴屋だの殆ど立ち入らないくせに、なにがしたい
のかわからないまま(ある人物)になりきって田舎芝居の大立ち回りを演じている。
 「おい、君! 東京まで行きたいのだが、バスなどあるかね!」
 「おい、そこの女! すけすけの服を探しているのだがあるかね!」
 「おい、ボーイ! なにかお薦めの靴はあるのかね!」
 ・・・そして見事に(ある人)はすっかり、バランスの悪い人間になってしまった。
しかし、安心だ。それをアリバイに使ったり、実は伏線で(ある理由から)という
都合のいい腕章、まさしくしろうと指揮者の気分で一流オーケストラ!
 あなたが本当に戦争に行く必要はありません。
 あなたが本当に一握りのチケットに満足する必要はありません。
 ・・・気がつくと(ある人)はすっかり正体不明なものから、ありきたりのパターン
で、(ある状況に追い込まれた人)になっている。そして盛り上がってきている。
 「ヘイ、そこのガードマン、俺の名を覚えとけよ!
 たとえ人が俺を憎んでも、人以外のものが俺を愛する。
 仮に人以外のものが憎んでも、人以外の人以外が俺を愛する。
 また人以外の人以外が憎んでも、人以外の人以外の人以外が愛するだろう。
 全宇宙を敵に回しても、反全宇宙がある。」
 そしてそんな風に(ある平凡な詩人)が階段を駆け下りていったのだ。・・



【36】



どんな風景を見ていても癒されるのは、僕にとって、
もしかしたら淋しい光景なのかも知れない。・・



【37】



にょきにょきとのびていくものは根の繊毛
あらわなアパートのベランダの布団や、下着類のように
あわれあわれに垂れ下がっている
そして刻は月蝕、街はガラスの水槽。・・
もしそこに砂埃があれば、
あるいは突然の突風が視界を覆ったなら、
ポンプのなかの錆びのように赤茶けた水で、
ひとりでに回転する水車で、
藻が魚のひれのように街路樹たちもくねるそぶりで、
そして、

  × × ×

ねえ、嗅がせて焔のにほひ
苦しげに咳こんでみせて
鳩のようにきょろきょろしてみて、
そして、

  × × ×

一匹の猿が木の枝に
なまけもののようにぶら下がっている。
サーカスの夜。・・
わずかに、全身の皮膚が弛んでゆく。



【38 ひずんだ世界】



なんてしずかなんだろう
せかいが、ゆがんでいるっていうことは
ああ、ちょうわって、こういうことなんだ
ほんとうは、うごかないものって、
きもちわるいんだ、
そしてせまってこないから、
にげられないんだ、
もしそれに、のびやかな、しし
ながい、にほんのあし、でもあったら
ぼくと、まちとの、かかわりかたも
かわっていたかもしれない
ああ、なんてやさしいんだろう
ほんとうは、おこっていないんだ、
そして、どんな、ひょうじょうもないんだ、
せかいは、いんしょうなんだ、
そして、そのさけめのなかに、
ぼくがいるんだ、
ほんとうにかわらない、ぼくが、
ひつようなんだ。



【39 消火器】



ほんとう に

おいしいもの と

きれいな はな

みんな しょうか する

しょうかえき は

しろくて

あかいのだなあ



【40 青い炎】



ワイパーの音に、
接吻の痕が消えてしまった。
思い出せない。
-なかったことにして-

 × × ×

ボストンバック、スニーカー、
シャツや、ジーンズ。・・

 × × ×

炎が好きだ。
おそろしい記憶が甦りそうで、
でも甦らないことに安心して眺めているのが好きだ。

 × × ×

その切れ端かも知れない。
はじめから千切れていたのかも知れない。
だから切なくて仕方ないのか――
ただ怯えたように、床を見つめて・・。



【41】



たとえば、もう少しだけ、みずみずしさとリリカルが

傷付け合うことなく触れ合って、

ふかく匿している瞳をもやさしく結び付けられていたら


そして、もう少しだけ、風のなかで光をもとめるように

雨も、雷も、霧も、雪も、

もう少しだけ僕と君の心のようであれたら


壁に一枚の絵を掛けるように

さりげない配置で、こんなところで出会えるなんてと

あなたがもとめていたヴィジョンを提示できたらー


そしてそこであなたがキャッツ・アイのように

あどけなく、きらきらと眼を細めたなら。・・

あなたに持って行ってほしい、揺れる景色がありますー。



【42】



心が錆びつきそうな時はアクアリウムの中に居場所がある
目を開けていられないほど
悲しい音色が自分の体内の循環を鈍くさせている
深い眠りから遠ざける
ストレス。魔の手はいつも息をひそめているのだと
あなたはあなたを守る手段を講じないといけないと
その内省が、けして脚光を浴びない場所があなたに与えてくれる。
ーもう誰もいないー
だから開けたままでも閉じたままでもいい
ただその眼でうっとりと、うつくしいもの、愛と呼べそうなもの、
包容や、あなたをリラックスさせてくれるものに
もう一度だけ呼びかけてみてほしい
そんなにストレスに強くならなくていい
期待以上の成果どころか、日々のノルマさえこなせないのは
あなたが努力をしていないからではない
・・・ただ、あなたが珈琲を4リットル飲んで、
煙草を100本くらい吸っていないせいなんです
というのは悪いぼくの冗談だけれど、
乗り越えなくていい、不安に負けてもいい、
ただもう一度だけ。・・ぼくとは違う、すばらしいやり方で、
その水槽の世界をもう少しだけ広げていったらいいんじゃないかな
それが海くらいの大きさになったら
次はあの月一個分の大きさにしてみようよ



【43】



揺り籠に地球からの贈り物が入っている
ディスクだ
挿入する(「と」)
心地よいリラクゼーション音楽

    「これはあなたの故郷です。
   あなたの大好きだった、森です」

嬉しかったので、
電話をかけてみた。

やったな
ストーカーからひとつ昇格!

  ・・・でもそうかも知れないだろう、
  彼女は小動物みたいな瞳をしていた、
  たぶん、リスやウサギだ

    でもこの映像はつくられたものなんだ
    合成なんだ、
    ただ印象深いニセモノなんだ

  きっと電話だって、
  ほんとうの声なんかじゃないんだ
  
―あの森では、いまごろドングリがおちていて、
心を洗うんだ
雨音がキャベツみたいに甘かった

  ・・そして森の中で見る君は、
  空の飛沫のようにやさしくひろがっていたんだよ



【44】



じゃがいもが三日続いたので
それはやめてくれと
いいました

すると朝、食卓にいもが

しんけんに腹をたてています
えらいえらい、よく仕込みやがった
しかし、いもはふうふうといきむように
湯気をあげて・・・

だしぬけにどこかの柱時計が小気味よく点打して
やわらかなものの上を
用心深くずらしてゆく日常

もう夜です

婆さんが子供をあやしています
天井をふるわせるほど
笑い続けています

もう 答えてもくれぬのか
ー雨だ 
あんなに太陽が眩しかったのに



【45】



    このラックは建築にまつわる
              時間を
           語るのですね

        編み目をうごかしたら落ちて
             くるかもしれない

          いく粒かの不安
       その実は空種だろうか

              温愛で
       耕し、肥やせと命ずる
    ビルディングやショーウィンド

           焦げて芳ばしい
         うすぐらい秩序に

                  落ちて
       屈折したペイプメントのように



【46】



ー新しいインク臭に
思い出がタイプライタアした
それは幻の昼の月
鏡に映ったわたしじゃないか・・!

消えゆく虹よ
なだらかな丘をくだったら
  ソーダ水をのませてください
 くろい瞼毛のそりかえったリリー!と・・

   桃から青へ、涎と汗と唾のなかで
    嫉んで中傷する舌に釘をさしてください

  つかのま、靄があらわれます
  醜い毛虫、蛇、蜥蜴、その他
    ・・・空気にふれたばっかりに散った花と
    ベンチに腰かけた女!リリー!と・・

 消えゆく虹よ
 薔薇の季節はまだ来ないか
   ともづなを解いたような首飾りと
  シャンパンのような口当たりを目の当たり

   白い素足で、ランプを消せば月あかりで
    唇を紅くしたその場限りのGAMEPLAYで

  つかのま、顔がありません
  それもそのはず、息を吹き込んだ蝶だから
    ・・・すぐに匂いが、光が、メランコリアで
    あなたの嘴はかたくって!リリー!リリー!と・・

 消えゆく虹よ
 おびただしいことがわたしにはわかり
   空気に穴をあけると白い羊がでてきます
  なぐさめにくい肉があなたを憎まないように  

     ――ながめていよう、白い雲、ひとりぼっちの白い帆を


  
【47】



タンバリンが月に似ているね
なんだか愛憎のプロセスや
押しつぶされそうなコンプレックスみたいにぼくらは、昔

                  海だったところにいて
   犯した罪のことや、もう埒のあかない夢のことや

      ・・・きっと、これでよかったんだよね、これで
                  離れ離れになることで、
                    お互いを守ったって

  ふかい夜、今度こそ夜よりもふかい記憶(「で」)
  あなたの心を知っている!と・・
  あなたいまもモップのような、汚れを消すような

                         波音で
            しずかに打ち寄せるかなしみで
      きれいな花まで(すぐに、)朽ちてゆくような
            はかない、窒息(「の」)砂で・・。

 歌い継ぐのか、それとも終わります(「で」)
 空気のようにいまもあまくて、
 みどりの草のしとねにまで、

   ――あの気持ちが消えない、消えない、
                        消えない・・。



【48】



男にしようか? 女にしようか?
風模様
化学的な子宮のやわらかいうつろに続くまで
ひとりの娘がまなざしの中で踊っていた

  はじめに建物があった
  次いでいままさしく分離しようとする雲があった
  言葉のほこりびはわたし(に、)夜の暗号を与えた


・・・・・・・・・・・・・・・・その時・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その時・・・・・
・・・・・・・・・・この道は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・裸足だった・・・・・・・
・・・・・・・水音がした・・・・・・・・・・・・・・・・・しめり、だった・・・・・・・
・・・・・・・・・・・したと思うんだ・・・・・・・・・・・・・・原初の・・・・・・・・・・


  内科病理学の歯車で、詩の夢をかく思い描きながら
  内律精の音響は、閂をはずすとも、碇をおろすともいえる

                                   ファインダーから覗く
                             風が火のように吹きすぎるのを

   ・・・・・・・・・・・・・・・・溺死者の・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・神の胎児か・・
   ・・・・・・・・・・瞳・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・天使か・・・・・・・・・・・・・・
   ・・・・・・・窓・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・疣か・・・・・・・・・・・・・・・・・
   ・・・・・・・・・・・冷たい・・・・・・・・・・・・・・・・・縞か・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


  そして男にしようか? 女にしようか?
  (酒気をおびて、)
  
     終わりに建物があった
     次いでまさしく結合しようとする雲があった
     言葉に埃がかぶっており(て、)ミルクにも色がついていた
  
やっとの思いで抜ける
気の遠くなるような時間


おもうことは、いま見えにくかった眼でも入っていくということだ
おもうことは、古井戸のなかの大きな蜘蛛がいるかということだ

    ・・・雲ならいる、井戸にたたえられた水が、たとえば、僅かに
    半びらきのなかで。・・思うことは、思うことだ

 それが“下顎”かも知れない、静寂と下顎、静寂と舌と頤
 より、『領していく』ということだ、展げていく、ということだ

    ・・・死刑執行人が、死姦した(という罪に問われ、終われ、)
    
 ひょうたん型の乗り物だった。もぐりこむことはできても、空から降ってくるもの、
大地から馳けてくるものを、かばう楯ではない。但し、乗り込むことはできる。
しかし、走ることはできない。浮かべれば、島。・・血の滴る仮面であり、赤い
戒め。ぞっとするような一瞬ミノタウロスが、身体を売らないか、顔を売らないか、
おまえの人生を売らないか、と呟く。ぞっとするような優しいトルソーへの誘いだ。
どうだろう、嬰児の頃なら、泣き声をあげて退散させたはずなのに、いまはどんな
美学も迷路のように、そのひょうたん型の領土をたどって、下半身が木にでも変
わっていきそうな夜にいる。



【49 眠り】



こうして、寝転がって、迥かな想いに
触れていると、残っているという身体が
ふしぎと青く光って、淡く、
それもやさしく枯れ木や、小川や、雑草や
生きとし生けるものすべてに注がれる。

誰もみな、この静かな宇宙で
ほんとうに、帰ってきてはならぬもののように
思い出を綴った、潮風に染まった眼をして
眠りという安逸な風に吹かれながら。

そうして
いくつランプが点ったろう?

二階の窓から、望遠鏡で眺めていた
竹藪のように、言葉の塔で、
突然に死について触れる

うち顫えるべきか、それとも眠るべきか
それは噴水に腰を下ろすべきか、
プールサイドで腰を下ろすべきか。・・
そういう問いに思えた

わたしが目指した星は、あるいは島は、
もしくは夢は、何処へゆくのだろう
かなしみはひょっくりと飛び出し
わけもなく唇は歯がゆい



【50 あの優しい夜の中へ】



気付いたらさ
魚の眼のように、
塩をなめて化石さ
琥珀さ
思い出を辿ると、
瑠璃色の翅が
何処かに飛んでいって
  ・・・さらわれてしまいたい



【51】



怒りの指先で鍵盤を敲く
もしにぎり拳が亀で
ひらいた瞬間に火花が散って蜂や蝶に
なるなら
ふっと迷い込んで歌った
 -だまって!
 -だまるよ
  ・・・水分が蒸発していくのがわかる、
  眼が乾燥していくのがわかる、
  稲妻のように鋭く。・・
それは赤い花が白くなること
それは白い花が赤くなること
それに水は流れた、湧き出たように
烟管みたいだった、湧き出たように

  ・・水? それとも煙?
 眼をつぶっているのだ、
 つぶっていたいのだ

   ――なめらかな虹。



【52】



僕等は見付けられるかな
                                    
                       溢れている( よろこび とか
 地平線で すでにかたちは はじらい まるでガラスの玄関をあけて靴脱ぎ場 
 ふくらんでゆく白い眩暈の果実よ あけびのように割れたか 悲しい出来事など
 甘酸っぱいにおいのなかで消えたか 色彩感溢れるオーケストレーション

              > 世界中の夜明けさ「展覧会の絵」さ
              > もっとシーンを! もっとボールペンを!

                       そのなかで見つけられる
                     間違えたステップで
                     踊りきれない、早い速度で

        午前零時よりも早い速度で 僕がぽっかりと抉られる あなたの
夢のなかでおびただしい反故の眠りに就く 豊かな感性は 孔雀 でも屋根のない
家みたいに 僕はまだ人間の形をしていない胎児(だから、)あたらしい関節へと
急いでいく 折り曲げてゆく創造のなかに新しい風

                       もう一度きっと見つけられる
                   頭の裏側で膨らみつづける白い腹
                   蛭みたいさ、黒い影の昇天さ
                           
                       死は移ってゆく 鳴らないものの
ように 土砂降りの雨の中 豪雪の中 模様 かすかに僕の心を濡らしながら はじ
めてのヴォリュームのWAVEを聴かせてほしい サーフィン・ボードに僕も乗るか
ら おおきな波をつかまえてみせるから もっと単細胞な練習 電車を バスを 天
気予報でひさしぶりに晴れだときいた 晴れだときいた

 
              > 心象風景の入り組んだ 地図
              > 正五角形! ここで・・渦巻く!

         ――管制塔! 管制塔! 
         ・・離陸するぜ夕暮れへの
         SLIDE ジェネレー
         ション。ー





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