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詩誌AVENUE【アヴェニュー】~大通りを歩こう~

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2015年05月04日
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カテゴリ:象の椅子
                 詩:田中宏輔さん
                 ツイッター:田中宏輔 @atsusuketanaka

                 フォト・アート:羊谷知嘉さん
                 ツイッター:羊谷知嘉 Chika Hitujiya @hail2you_cameo
                 ツイッター:Engineerism @Engineerism








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UNCOUNTABLE/COUNTABLE PAINKILLER ――― 『テラの時代』より






偶然


 あさ、仕事に行くために駅に向かう途中、目の隅で、何か動くものがあった。歩く速さ

 
を落として目をやると、飲食店の店先で、電信柱の横に廃棄されたゴミ袋の、結ばれてい
 
たはずの結び目がゆっくりとほどけていくところだった。思わず、ぼくは足をとめた。
 
 手が現われ、頭が現われ、肩が現われ、偶然が姿をすっかり現わしたのだった。偶然も
 
齢をとったのだろう。ぼくが疲れた中年男になったように、偶然のほうでも疲れた偶然に
 
なったのだろう。若いころに出合った偶然は、ぼくのほうから気がつくやいなや、たちま
 
ち姿を消すことがあったのだから。いまでは、偶然のほうが、ぼくが気がつかないうちに、
 
ぼくに目をとめていて、ぼくのことをじっくりと眺めていることさえあるのだった。
 
 齢をとっていいことの一つに、ぼくが偶然をじっくりと見つめることができるように、
 
偶然のほうでも、ぼくの目にとまりやすいように、足をとめてしばらく動かずにいてくれ
 
るようになったことがあげられる。
 





仕事から帰る途中、坂道を歩いて下りていると、

 
後ろから男女の学生カップルの笑いをまじえた
 
楽しそうな話し声が聞こえてきた。
 
彼らの若い声が近づいてきた。
 
彼らの影が、ぼくの足もとにきた。
 
彼らの影は、はねるようにして、
 
いかにも楽しそうだった。
 
ぼくは、彼らの影が、
 
つねに自分の目の前にくるように
 
歩調を合わせて歩いた。
 
彼らは、その影までもが若かった。
 
ぼくの影は、いかにも疲れた中年男の影だった。
 
二人は、これから楽しい時間を持つのだろう。
 
しかし、ぼくは? ぼくは一人、部屋で
 
読書の時間を持つのだろう。
 
もはや、驚きも少し、喜びも少しになった読書の時間を。
 
それも悪くはない。けっして悪くはない。
 
けれど、一人というのは、なぜか堪えた。
 
そうだ、帰りに、いつもの居酒屋に行こう。
 
日知庵にいる、えいちゃんの顔と声が思い出された。
 
ただ、とりとめのない会話を交わすだけだけど。
 
ぼくは横にのいて、若い二人の影から離れた。
 



セッ クス


 ぼくの理想は、言葉と直接セッ クスすることである。言葉とのセッ クスで、いちば

 
ん頭を使うのは、体位のことである。
 



フェ ラチオ


 二人の青年を好きだなって思っていたのだけれど、その二人の青年が同一人物だと、き

 
ょうわかって、びっくりした。数か月に一度くらいしか会っていなかったからかもしれな
 
いけれど、髪形がぜんぜん違っていて、違う人物だと思っていたのだった。太めの童顔の
 
体育会系の青年だった。彼は立ち上がって、トランクスと作業ズボンをいっしょに引き上
 
げると、ファスナーを上げ、ベルトを締めて、ふたたび腰掛けた。「なかなか時間が合わ
 
なくて。」「えっ?」「たくさん出た。」「えっ?」「たくさん出た。」「えっ? ああ。
 
うん。」たしかに量が多かった。「また連絡ください。」「えっ?」思いっきりはげしい
 
オーラ ルセッ クスをしたあとで、びっくりするようなことを聞かされて、ダブルで、
 
頭がくらくらして、でも、二人の顔がようやく一つになって、「またメールしてもいい
 
の?」かろうじて、こう訊くことが、ぼくができる精いっぱいのことだった。「嫁がメー
 
ル見よるんで、すぐに消しますけど。」「えっ?」呆然としながら、しばらくのあいだ、
 
彼の顔を見つめていた。一つの顔が二人の顔に見えて、二つの顔が一人の顔に見えてって
 
いう、顔の輪郭と表情の往還というか、消失と出現の繰り返しに、ぼくは顔を上げて、目
 
を瞬かせていた。彼の膝を両手でつかまえて、彼の膝と膝とのあいだにはさまれる形で跪
 
きながら。





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最終更新日  2016年01月24日 18時29分14秒
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