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詩誌AVENUE【アヴェニュー】~大通りを歩こう~

2015年05月04日
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カテゴリ:象の椅子
開戦

 きょう、日本が宣戦布告したらしい。仕事帰りに、駅で配られていた号外で知ったのだ

 
った。それは、地下鉄から阪急に乗り換えるときに通る地下街にある、パン屋の志津屋の
 
まえで受け取ったものだった。まだ20歳くらいのやせた若い青年が配っていた。押し付
 
けられるようにして受け取ったそれをチラ見すると、バックパックにしまって、阪急の改
 
札に入った。階段を下りていくときに、ちょっとつまずきかけたのだけれど、戦争ってこ
 
とについて考えていたからではなくて、ただ単に疲れていて、その疲れが足元をもつれさ
 
せたのだと思った。烏丸から西院まで、電車のなかで戦争についてずっとしゃべりつづけ
 
ていた中年の二人連れの女たちがいた。こういうときには、なにも考えていなさそうな男
 
たちが大声で戦争についてしゃべるものだと思っていたので意外だった。むしろ中年の男
 
たちは何もしゃべらず、手渡された号外に目を落として、うんざりとした顔つきをしてい
 
た。若い男たちも同じだった。西院駅につくと、改札口で、いつも大きな声で反戦を訴え
 
ていた左翼政党の議員が、運動員たちとともに、警察官たちに殴られて連行されていくと
 
ころだった。人が警察官たちに殴られて血まみれになるような場面には、はじめて遭遇し
 
た。捜査員なのか、男が一人、その様子を見ている人たちの顔写真をカメラでバチバチと
 
撮っていった。ぼくはすかさず顔をそむけて駅から離れた。部屋に戻ってPCをつけると、
 
ヤフー・ニュースで戦争の概要を解説していた。ほんとうに日本は宣戦布告したらしい。
 
ふと食べ物や飲み物のことが気になったので、近所のスーパーのフレスコに行くと、みん
 
な、買い物かごに食べ物や飲み物を目いっぱい入れてレジに並んでいた。ぼくも、困った
 
ことにならないように、数少ない野菜や缶詰や冷凍食品などを買い物かごに入れてレジに
 
並んだ。酒もほとんど残っていなかったのだが、とりあえず缶チューハイは二本、確保し
 
た。値段が違っていた。清算するまで、いつもと違った値段が付けられていたことに気が
 
つかなかった。人間の特性の一つであると思った。こんなときにも儲けようというのだ。
 
どの時代の人間も同じなのだろう。どの時代の人間も同じように愚かなことを繰り返す。
 
ようやくレジで代金を支払い、買ったものを部屋に持ち帰ると、すぐにキッチンの棚や冷
 
蔵庫のなかにしまい込んだ。
 



蜜の流れる青年たち


 屋敷のなかを蜜の流れる青年たちが立っていて、ぼくが通ると笑いかけてくる。頭のう

 
えから蜜がしたたっていて、手に持ったガラスの器に蜜がたまっていて、ぼくがその蜜を
 
舐めるとよろこぶ。どうやら、弟はぼくを愛しているらしい。白い猫と黒い猫が追いかけ
 
っこ。屋敷には、ぼくの本も大量に運ばれていて、弟が運ばせていた。弟は、寝室で横た
 
わっているぼくの耳にキスをして部屋を出て行った。白い猫と黒い猫たちが後方に走り去
 
っていった。と思った瞬間、その姿は消えていて、気がつくと、また前方からこちらに向
 
かって、くんずほぐれつ白い猫と黒い猫たちが走り寄ってきて、目のまえで踊るようにし
 
て追いかけっこして後方に走り去り、またふたたび前方からこちらに向かって、くんずほ
 
ぐれつ走り寄ってきた。猫を飼っていたとは知らなかった。でも、よく見ると、それが母
 
親や叔母たちが扮している猫たちで、屋敷の廊下をふざけながら猛スピードで駆け巡って
 
いるのだった。ぼくのそばを通っては笑い声をあげて追いかけっこをしているのであった。
 
完全に目を覚ましたぼくは、廊下中に立っている蜜のしたたる青年たちの蜜を舐めていっ
 
た。
 



戦時下の田舎


 戦時下だというのに、弟の屋敷では、時間の流れがまったく別のもののように感じられ

 
る。中庭に出てベンチに坐って、ジョン・ダンの詩集を読んでいる。ページから目を上げ
 
ると、ふと噴水の流れ落ちる水の音に気がついたり、小鳥たちが地面の砂をくちばしのさ
 
きでつつき回している姿に気がついたり、背後の樹のなかに姿を隠した小鳥や虫たちの鳴
 
く声に気がついたりするのであった。ぼくが詩を読んでいるあいだも、それらは流れ落ち、
 
つつき回し、鳴きつづけていたのであろうけれども。足元の日差しのなかで、裸の足指を
 
動かしてみた。気持ちがよい。夏休みのあいだだけでも巷の喧騒から逃れて田舎の屋敷で
 
ゆっくりすればいいと、弟が言ってくれたのだった。西院に比べて桂がそんなに田舎だと
 
は思えないのだけれど。ぼくはふたたび、ジョン・ダンの詩集に目を落とした。ホラティ
 
ウスやシェイクスピアもずいぶんとえげつない詩を書いていたが、ジョン・ダンのものが
 
いちばんえげつないような気がする。






最終更新日  2016年01月24日 17時28分28秒
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