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詩誌AVENUE【アヴェニュー】~大通りを歩こう~

詩誌AVENUE【アヴェニュー】~大通りを歩こう~

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2016年01月14日
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カテゴリ:AVE予告篇
※ ネット発表のものは、出版された詩集とは異なる箇所があります。
※ 本篇の、詩誌AVENUEによるレイアウトは作者校閲を経ています。






夫人のスピーチが終わって気がつくと、ダルグリッシュとマシンガムは居間に通されていた。

(P・D・ジェイムズ『わが職業は死』第三部・1、青木久恵訳)

  ハトン氏は黙ってそのありさまを眺めていた。ジャネット・スペンスの様子は、彼の心に尽きせぬ興味をよび起こした。彼は、どんな顔でも内面に美や異様さを秘めているものだとか、女性のおしゃべりはすべて、神秘な深淵の上にかかったもや(、、)のようなものだとか、とそんなふうに想像するほどロマンティックではなかった。たとえば、彼の妻やドリスを考えてみればよい。彼女らは額面以上のなにものでもないのだった。だが、ジャネット・スペンスだけはどこか違っていた。彼女のばあいには、あのモナ・リザの微笑とローマ女ふうのまゆ毛の裏に、何か不思議な顔がのぞいていたのである。ただ一つの疑問があった──そこには正確のところ、何が隠されているのか、ということである。

(オールダス・ハックスレー『モナ・リザの微笑』龍口直太郎訳)

    メリーは一昨日から意識がなかった   

(ジェイムズ・メリル『ミラベルの数の書』0.4、志村正雄訳)

  ジョンは引き返した。通路の中央を埋める岩は、かなり大きいが、経験のない彼の目には、異常なものとは見えなかった。彼は、その一つを取って、黄麻布の携帯嚢に入れた。灰色な斑点の群れが銀色に閃いたと思うと、また灰色に戻って、安全な距離をとりながら整然とした列を組んで浮かび、彼を慎重に観察した。たがいに正確な間隔を保っていて、またもや彼が近づくと即座に散って、彼の視野の外れでふたたび隊列を組み直した。彼らの泳ぎの正確さには、驚嘆すべきものがあった。そういう通常の事柄においては、数学がきわめてなにげなくエレガントに見える、と彼は思った。どうやって自然は、引っ張る流れに対する魚の間隔を指定し、どういう尺度で彼が近づきすぎたことを魚に教えるのか? それが彼を数学に引きつけたものだった。それが深遠だからではなくて、目に見えない現実に探りを入れるからだった。人々は数学が世間離れしていると言い、アインシュタインが正しい銭勘定もできないと騒ぎたてる。とんでもないことだ。アインシュタインは、関心がなかっただけだ。アインシュタインに興味があったのは、深遠で美しいものだったのだ。

(グレゴリイ・ベンフォード『時の迷宮』上・第二部・6、山高 昭訳)

  そうした現実のうち、あるものは”高確率”で、あるものは”低確率”だとベク・グルーパーが呼んでいた。世界(ワールド)語には存在しないことばだ。なかには、存在していながら、それと同時に存在していない現実もある。デイヴィッド・ベク・アレンのようなひとが、純然たる意志の力で明らかにしないかぎりは見えなかったようなものが。

(ナンシー・クレス『プロバビリティ・ムーン』エピローグ、金子 司訳)

  ジェイクのすごいのは、何をやってもかならず楽しめてしまうところだ。

(ケリー・リンク『妖精のハンドバッグ』柴田元幸訳)

  見えすいた相手の思考がいちおう落ちつくまで、ガスはがまん強く待ちつづけたが、彼の心の奥底では、なにかがやりきれないため息をついていた。こうしたばつ(、、)の悪さは、これまでにもたびたびほかの人間を相手に経験して、すっかり慣れっこになってはいる。だが、慣れることと、気にもとめないこととは別物だ。

(アルジス・バドリス『隠れ家』浅倉久志訳)

  マイラは、昔なじみのコンプレックスが、他人には絶対知られたくないコンプレックスが、浮上してくるのが、わかった。世間を遠ざけているのはじぶんが失敗者だからなのではないか。強さというよりは弱さのあらわれなのではないか。

(アン・ビーティ『愛している』15、青山 南訳)

  マーサはすまして言った。「あなた、気がついてる、アルジー? 彼女はわたしより二十も年上なのよ。可哀そうなアニー。なんていう運命なんでしょう──史上最年長の娼婦とは!」

(ブライアン・オールディス『子供の消えた惑星』1、深町真理子訳)

 
  「希望をお捨てにならないで!」とベティはこちらがぎょっとするほどの大声でいった。この人、クリスチャンかしら、とわたしは思った。二番目の夫と暮らしていたアパートに、やたらにクリスチャンが来たことがあった。それも、エホヴァの証人が。   

(アン・ビーティ『一年でいちばん長い日』亀井よし子訳)

  トルブコは笑みを浮かべていた。彼は顔を赤らめた。

(アンディ・ダンカン『主任設計者』VII、中村 融訳)

  馬の肌に雨の匂いがした。黄色いスリッカーを着、黒いステットソンの帽子をかぶったスティーヴはガイと私に向かって手を振り、雨が灰色の壁のようになって降る中を馬に鞭をいれ、駆け足させた。

(ウィリアム・S・バロウズ『シティ・オブ・ザ・レッド・ナイト』第三部、飯田隆昭訳)

  庭には花をつけた木が一本あった。いま、こうして近づいてみると、ちっぽけな猫がマザー・トムの大きな足の下で丸くなっているのが見えた。マザー・トムの手が上がり、花びらが一枚、木から落ちてひらひら舞いはじめた。マザー・トムの手が高く上がって振られる。花びらが地面に落ちる。マザー・トムがほほえみ、足もとの猫がのんびりと目を閉じる。マザー・トムが手を下げる。笑みが消え、手が体のわきにもどる。それから庭全体が、一瞬ぴくっと揺れたように見えた。マザー・トムの顔がむっつりいかめしく気づかわしげな表情になる。猫の目が警戒するようにぱっと開いた。マザー・トムの手が前とおなじように上がり、顔が明るくなって笑みが浮かび、猫の目が閉じはじめる──そしてまた一枚、木から花びらが落ちてくる。ぴったりおなじタイミングで。(…)マザー・トムが手を振る。猫が眠る。花びらが落ちる。小さな閉ざされた場所に永遠に閉じ込められたような、窒息しそうな感覚とともに、ぼくはそのときさとった。落ちてくる花びらはすべて、一枚の花びらなんだ。マザー・トムが手を振るのは、一回きりのことなんだ。そして、冬はけっして来ない。

(ジョン・クロウリー『エンジン・サマー』大森 望訳)

 


     全行引用詩『ORDINARY WORLD°』 35/45 へ






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最終更新日  2016年01月18日 19時26分30秒
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