詩誌AVENUE【アヴェニュー】~大通りを歩こう~

2017/10/04(水)08:18

あたらしい写真illus.詩 2015 AVE写真illus.詩N1383 詩文付#16 by 塚元寛一さん

写真詩・イラスト詩・書詩(1696)

   ひとつの人生を思い描いてみる。たとえば海岸のなだらかな道。 季節の葉脈、それが葡萄酒のようにたれてゆき、足もとの黄色い野 花をイメージさせる。星が落ちた、と。ひと息に飲んですぐにまわ ったアルコールのように、僕は不意に思い出す。  もう少し先を行ったところに、ひとりの老人がチェアーに腰かけ ていたことを。暗闇にしんみりと眠っている猫とともに、優しそう な品のいい紳士がしずかに時を過ごしていた。  その老人と何度か眼が合った。笑っていた。  うまく言えないが、よごれた胸をすすがれたような気がした。  会話をしたことはなかったがいい人生を過ごしたことは、あるい は人生に満足していることは表情を見ればわかった。  陽だまりに鼻でかけていた眼鏡が、鳥よけのように光った。  太陽のある日曜日。あしのうらの夢を見ながら、ひときれのレモ ンの清々しさに酔っていた。単純に、波を見つめながら、この町の 何処かに僕が書くべき詩がある、という思い込みに駆られていたか らだと思う。フォークやナイフの音をさせながら、涙腺を弱くする。  あの時、せいいっぱいの無思想をたたえて、ただ、ありもしない 星を夢見ていた僕を思い出す。朝は待つ。現実的な朝は僕の帰りを 待つ。誰かの名前と聞き間違えたような、よろこびやかなしみを連 れて旅に出た。椅子をさかさまに、部屋の鍵もかけずに。 Cupcake×kamome Studio 原画サイズ/特大サイズ 詩とArt_Works: 塚元寛一さん &KAMOME_STUDIO 画像素材: Cupcake

続きを読む

総合記事ランキング

もっと見る