ひとつの人生を思い描いてみる。たとえば海岸のなだらかな道。
季節の葉脈、それが葡萄酒のようにたれてゆき、足もとの黄色い野
花をイメージさせる。星が落ちた、と。ひと息に飲んですぐにまわ
ったアルコールのように、僕は不意に思い出す。
もう少し先を行ったところに、ひとりの老人がチェアーに腰かけ
ていたことを。暗闇にしんみりと眠っている猫とともに、優しそう
な品のいい紳士がしずかに時を過ごしていた。
その老人と何度か眼が合った。笑っていた。
うまく言えないが、よごれた胸をすすがれたような気がした。
会話をしたことはなかったがいい人生を過ごしたことは、あるい
は人生に満足していることは表情を見ればわかった。
陽だまりに鼻でかけていた眼鏡が、鳥よけのように光った。
太陽のある日曜日。あしのうらの夢を見ながら、ひときれのレモ
ンの清々しさに酔っていた。単純に、波を見つめながら、この町の
何処かに僕が書くべき詩がある、という思い込みに駆られていたか
らだと思う。フォークやナイフの音をさせながら、涙腺を弱くする。
あの時、せいいっぱいの無思想をたたえて、ただ、ありもしない
星を夢見ていた僕を思い出す。朝は待つ。現実的な朝は僕の帰りを
待つ。誰かの名前と聞き間違えたような、よろこびやかなしみを連
れて旅に出た。椅子をさかさまに、部屋の鍵もかけずに。
Cupcake×kamome Studio
原画サイズ/特大サイズ
詩とArt_Works:
塚元寛一さん &KAMOME_STUDIO
画像素材: Cupcake