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奔るジャッドンたのうえ、追っかけ帳

奔るジャッドンたのうえ、追っかけ帳

実践経営学会全国大会第48回発表論文

「MMAPの経営革新への展開事例」

   地 方 産 業 経 営 研 究 所       田上  康朗
District industrial management research institute YASUROH TANOUE

1  MMAP 創案の背景と理由
〈1〉判断材料としての情報とその課題
 元来、情報の本質は、断片的、単一的、相異性、非目的、非論理的であると考える。最初から一本化されていたら収集する必要はないし、同一であるとしたら情報として価値がない。また最初から論理性を帯びていたとしたら、それは断片的な一時情報をある目的をもって恣意的、意図的に編成したものであると考えるからである。
 だから収集した情報断片を1つ1つの違いを冷厳にただ並列し直視すればいい。またそうでないと情報や意見は集まらないし、採取の初期段階で恣意性が含まれたものが入り込むことになる。さらに日常性、普遍性の高いところを採取場の中心とするべきで、特殊性の高い場を選んではならない。こうしたことが収集のコツになろう。
判断材料としての情報を考えるなら、少なければ判断に偏りが出るし、採取に恣意性や意図が強すぎると判断に狂いが生じる。しかし現場では、たとえば上位者が自分の考えや思いと違う異見が他者、とりわけ下位者からでると、「それは違う」と個々断片に評価、判定を加え刎ねたり、逆に自分の意図にそうものを集約したりすることは珍しいことではない。 
 また最初に結論ありきで、その補強材料として他者の意見を傾聴することも稀有ではない。しかしあとで判断の誤りを検証したにしても、ここに理由を求めることはまず稀有である。

〈2〉判断材料としての順位・基準の課題
 判断自体にタイミングと時間的制約があるから、その材料としての情報にも期限がある。判断時に逆算し収集された断片情報は、個としての情報としてより集められたものを並べて、全体として吟味されることで、1つの判断、決断が下されることが一般的である。その決断が下される過程で個々情報は配列や並べ替えが行われるわけだが、それには基準が必要である。
 ところが現実はこの基準が曖昧で意識すらされていない。基準ありとするところは、曰く「重要な順から」、すなわち重要性の原則を挙げるのがほとんどである。では「何が重要なのか」となると喧々囂々で、結局、上位者のいう重要な順位に帰結しているのが実態なのである。

〈3〉MMAP創案の背景理由
以上、判断材料の課題を鑑み、故にどのようなツールが期待されているかを見てみた。
在来、現行手法としてポピュラーなものとしてKJ法、NM法 があり、その他多くの○○手法がある。筆者もそのいくつかを学び、使ってきたが、aその手法自体が定義とルールで拘束され、取得に手続きと時間がかかる、 b シートやラベルなどの必需アイテムが、気兼ねなくふんだんに使用するには高価で、また地方では容易に入手しにくい、c どちらかというと個人に始まり個人に終わる、個人向けのツールであり、情報の公開・共有性の弱点があり組織的活用になじみにくい。また個人使用の場合でもフィールドワークなど特別のプロジェクトとかセミナーといった特定の場では有効であるが、日常の生活や仕事の中でのひらめき、ヒント、アイデアの採取、企業や個人の日常における情報採取では使いづらい。
特にあくまで筆者個人の問題だが、一度添付したラベルが剥がせず固定される、ということに耐えられないのである。こうしたことで、それらに代わるものが欲しいという欲求が、MMAPを創案した動機である。

2 MMAPの概要と体系
〈1〉MMAPの概要
MMAPは、個人作業20-30分、グループ討議40-50分の繰り返しで構成されている。個人で考えたものをみんなに晒し、それをまた個人で吟味、それをまたみんなに晒し、最終意思決定を個人で行う。その実行も個人であり、第三者、社長、部長といった上司、同僚から指示、命令は一切ない。自分で決め他人の意見も取り入れ、自分で取捨選択し、自分で実行する順を決めて、自分で実行する。しかしそれらは組織の戦略に即した組織活動なのである。
 人からの命令、指示、干渉が一切排除される分、逆に人から指示・命令されなければ動かないように馴らされた人にとってはきついという声が多い。そのきつい反動なのか、グループ討議になるとみな急に明るくにぎやかになる。解放の喜びである。自由の喜びである。本来の職場がこうであるはずだと思う。だが現実は縛り付けておいて、叱咤激励や教育をするといったことをやって、それを押さえているのである。
 MMAPは、情報公開、管理から解放し、あくまで主体的自主管理を主軸に置いている。

〈2〉MMAPで使用するツールとルール
 ツールは市販のコピー用紙とポスト・イット、ボールペンだけである。ルールは最低限で、一度2時間ほど、1つのテーマを設けてMMAPを用いて研修することで容易に修得できる。
 1人から何人でも可能である。簡単な約束事を記したマニュアル があり、これだけでだれでもやれる。

〈3〉自分カード、頂きカード、ひらめきカード
 情報、考え、意見など、大きくは3つに分けられる。すなわち自分の意見と他人の意見、それにヒラメキである。この3つは区分されるべきと考え、MMAPでは自分の意見を黄色、他人の意見を赤色、ヒラメキを緑といったようにポスト・イット(以下ラベルと略称)の色で区分している。(A―3コピー用紙に添付、意思決定後コピーするがモノクロでも見分けが付く) 
 
〈4〉個人作業について
 人の頭の中に様々なものが漂っている。形にならない状態で無分別に流れている。また多くは、かねがねから大なり小なりの問題意識をもち、それに関する材料、情報などを採取、頭の中に放り込んでいる。それにこれまで学んできた知識、体験もある。そうした中から戦略なりテーマに即したものを取り出し、ラベルに形(文字)として書き出す。これが自分カード作りである。ここでは力関係は存在しないし、何人からも内容は問われることはない。ひたすら数の多さを「良し」とする。
 このラベルを書く個人作業は、沈黙の時間である。これはセミナー固有のシーン、セクションである。だが職場や家でMMAPをやる場合は、かねがね問題意識をもって、その都度自分カードに書き留めておくことで、改めて研修で行っている個人作業を行う必要は無い。
この普段に問題意識を持って自分カードというラベルを採取する習慣作りこそ、MMAPの目的と狙う効用の1つである。
 研修でも事前に参加者がわかっている場合は、事前に自分カードを書きためておいてもらっているが、そうでない場合は個人作業の時間として30分ぐらいで20-30枚ラベルを書き出さ「ねばならない」のである。「ねばならない」のだから楽しく愉快なわけはなく、参加者は一応に疲労感を顔に出す。脳の中を漂うおびただしいイメージの中から目的に合致した事項を取捨選択し取り出すことの大変さ。加えて仲間がいるのに聞けない。この2点が理由であろう。だが、だからこそ次のステップ「グループ討議」では、こうしたことから解放され、仲間とデスカッションすることが楽しいとも言えるわけである。事実、終了後のアンケートを見ると多くの参加者が、「会議がこんな楽しいものとは知らなかった」といった声が多いのである。

〈5〉グループ討議について
 問題には見える問題と、見えない問題がある。さらに自分の問題と自分以外の、たとえば組織の問題といったものがある。また中にいると外が見えない。外からは中がわからない、立場・地位、部署の違いなど様々の違いがある。このことは必要情報を自分一人で採取すること自体、極めて大きな門題と限界があることを示している。
 出来るだけ多くの情報を集める、そして人に晒し、揉まれることでこそ情報は活用でき、問題の本質が掴めるのである。
ただ実務上の会議や、MMAP研修のグループ討議においては、性差、性格、年齢、地位、肩書き、声の大小、そういったものが他の人を仕切り、押さえるという弊害が多々起こり得る。 研修では班編制に最大限の配慮はするが、それだけでは解決しない。
そこで、a 他のメンバーに役立つアドバイスをする、b 自分の困ったことを他の人に教えてもらう、Cひとり一回、一枚のラベルでの発言・コメントで次に回す、の3点をMMAPのマニアルの数少ないルールに入れ、班長の議事進行の約束事としている。それでも希ではあるが、仕切る人が出てきたりする。その場合はインストラクターが、その人にではなく、全ての班の作業を留めさせ、全体に注意する形で、注意することにしている。
  自分の頭の在庫から取り出したものを自分カード(黄色のラベル)に加えて、グループ討議を通じて他人から頂いた情報は頂きカード(赤色のラベル)に書き込む。さらに途中ひらめいたことがあれば触発カード(緑のラベル)に書き込む。
ちなみにMMAPでは、仲間との会話などに触発されて突然飛び出す”ひらめき”こそ、自分が創造した付加価値だと重きを置いている。

〈7〉整理分類と配列
 個人採取と班別討議によって収集されたラベルは4ツ折りにし折り目を付けたA-3コピー用紙(以後シートと略称)に添付する。では添付はどういう順序で並べているのか。このことは1ですでに触れている。実は基準のあいまいさが、組織上の意思決定を一貫性に欠けるものにし、もめる元凶になっているのである。
また結局は上位者のいう重要な順で順位が決まることで、声の小さき者の提言、意見は殺されてしまうのである。この問題を解決しない限りいかなる改善手法も、単なるガス抜きに使われるだけである。では何を基準にしたらいいのか。
30年近くいろいろ試し、実践することに重きを置ならば、各人が思うところの「金がかからず、すぐやれる」順、この基準以外にないという結論に達したのである。

〈8〉螺旋型進歩発展と経営革新への展開 
以下、この流れを筆者の専門である経営革新で見てみたい。MMAPによる経営革新の体系は、図表1の如くである。またMMAPの研修作業の流れを簡単に示したのが図表2である。
1つのこと(ラベル一枚)を実行、達成し得たら次の1枚。また実行、完了、次の一枚、こうして書き込まれたラベルを実行することで次々消し込んでいく。消し込んだらシート上に次にやるべきラベルを順次シートの左上に移動、貼り直す。(剥がせて貼れるポスト・イット以外ではこれが不可能である)。さらに右下へ追加補充する。この繰り返しが続く(図表3)。
これはまさに螺旋型の進歩発展のサイクルである。

3 経営革新の展開
 MMAPの応用展開は経営革新、経営計画、人事考課、行動分析、日報、議事録、企画書、商談など幅広い応用事例がある。本稿では多くの実践事例をもつ経営革新への展開を述べる。
「図表 1経営革新への展開チャート」
 
経営革新は、現象的に採取された個々の問題から、総合的、多角的、鳥瞰的吟味がなされ、そこに潜む経営の本質的問題点をえぐり出すことが極めて重要である。だが往々にして個々問題の個別対応にとどまるケースが見受けられるのである。すなわち戦術レベルの改善に終わり、本質的な問題が逆に隠れてしまう。これでは誤診の誹りは免れず真の経営革新は期待できない。
それでMMAで経営革新を行う際、断片的問題点を、シートの4つの窓(最初に4ツ折りしている)に分類するやり方をとる。まず理念、戦略、戦術、その他に添付する(図表1参照)。
次に人、もの、金、情報、さらには部門毎、商品毎、市場毎といったように、多角度から執拗に繰り返すのである。その都度ラベルをシートに貼り、剥がし、また貼る、この作業を繰り返すだけで済む。区々4つの窓のどこにシールが多いかは一目瞭然で、問題の隠れ家を確実に探り当てることができる。この目の前のシートに示された事実に、経営者は一応に驚き感嘆する。なぜなら、誰でもない自分自身の作業の結果の犯人逮捕だからである。


4 MMAPで期待しうる成果と組織への展開
〈1〉自主・自発性への展開 
当初4-5時間要したMMAPによる研修は、現在2時間である。インストラクターの出番を極力減らすことで参加者が生き生きしてくることが明らかになったからである。これについては、a 管理されず自主的にやることが彼らの心を解き伸びやかにする、b 自分で決めたことを自分でやることには抵抗がないばかりか、やる気が涵養される、c 仲間との語らいによる成果は大きいが、こうした楽しい場と機会を企業は嫌う、の3つの仮説をもっている。
 実務では、各人の自主性、やる気に依存し、自分カードの書き込みは、日常の生活や仕事の場で行ってもらうことにしている。たとえば会議の場合20日前に会議のテーマを伝え、それについて自分カードに意見、考えを書き、それらを添付したシートをもとに会議で討議する。(研修のグループ討議に相当)するから会議時間を大幅に短縮できる。
 だが組織内ではインストラクターとは比較にならないぐらい従業員を仕切り、押さえ込んでいる。そのことによる組織の損失は大きい。MMAPが研修ツールとしての役割ではなく、各人の自主・自発性の涵養による経営革新、組織改革を図ることの本来機能に期待している。
〈2〉組織内における言葉のもつ側面
動態的なものを文章に転換することは難しい。かなりの文章力がないと静態的な既述でもどかしさとむなしさを覚える。対し言葉は文字と比べて動態的要素が強いし行動の一つのツールとして使える。だから最初の頃はMMAPの研修をやるのに、ずいぶんと言葉に依存していた。言葉を多用すると流れが出来、研修の運びがいいからである。だがMMAPを繰り返している中で組織、上位者の「言葉」のもう一つの側面の怖さに気づいた。それは、a 言葉は時としてルールになり相手の創造性を縛るということ、b 体験で気づく発見の喜びを先覚者が言葉によって奪い去ってしまう、いわゆる教えることの残酷さがある、c 行動で掴んだことが言葉に翻訳されたときに齟齬、乖離が出る、この3点である。 開放系と自負していたMMAPで、自ら言葉に依存し、結果として仕切っていたことに気づき唖然としたのである。今は MMAP自体、インストラクターの言葉は30分以下である。


5 最後に~MMAPの進化性について
 前に述べたがMMAPでは、「ねばならない」といったルールは極力排除。若干の約束事があるだけである。それは「これでなくては」という固まったやり方がない、というよりそうした固定的なあり方を否定したい積極的な意思にこそ、MMAPの狙いがあるからである。
 つまり時と場合、やる人(インストラクターも含む)によって、ありかた、やりかたが変化するのである。だが無節操に変わるのでなく実践行動を加えることによって、a MMAPの研修を実践しているときや、実際現場において触発カードにより収集されたヒラメキ、アイデアなどを自己吸収し、進歩発展していく、b そのティームの目的を成就する最適・最善のあり方へ変化していく、c MMAPの用途、テーマ、場の変化に応じて変化していくのである。
この考え方は、1に行動には行動自体の成果物として学習効果が存在する、これをMMAP自体が取り込んでいく。2に、人には個性、アイデンティティがある。また4-6人が一緒にティームを組めば、また一人一人の個性とは別のティームとしての個性が生じるのは当然である。これを参加メンバーは頂きカードやヒラメキカードに取り込んで学習していくのである。 
この2点、すなわち進歩発展する要素を自動アップ・デイトすることで、繰り返す毎に進化していく。これがMMAPの大きな特徴と考えている。
多くの人々に、多くの場と機会でもって、使用していただくことでMMAPが人様にささやかな貢献をするとともに、MMAP自体が進歩発展する。生んだ者としてこんな幸せはない。


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