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人生は10段変速の自転車みたいなもの

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2016/10/06
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カテゴリ:読書
伊坂幸太郎の短編集です。短編集でありながら全体で一つの話という彼一流の構成。私の好きな死神シリーズ(短編集)と同じように、それぞれの話が同じ登場人物で有機的に繋がりながら、全体で一つのテーマやメッセージを伝えています。
もちろん、受取手(読者)によってもメッセージの捉え方は異なるでしょう。

ここでは私の感じたことを、例によってネタバレバレで自分勝手に紹介します。


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8年後に地球に小惑星が衝突し、世界が滅亡するという設定。本当にそんなことになったらどうなるかは分かりませんが、作品の中では報道直後に世界中がパニックとなり、自殺、略奪、殺人が横行して、警察もまともに機能しなくなった。
本作品は報道から5年が経ち、当初のパニックもどうにかおさまり、一時的にでも平穏を取り戻した世界が舞台です。場所は仙台北部の団地「ヒルズタウン」。登場人物は主にここの住民たちで、それぞれに何処にでもありそうな問題を抱えながらも、小惑星問題が起こるまでは平和に暮らしていた中流の人々です。

この話では、「アルマゲドン」のブルースウィルスのように小惑星の軌道を変える英雄も出てこないし、地球からの脱出といったSF的な計画もありません。三年後の衝突を様々な人々が様々な思いで受容れて生活してゆく姿が8編の短編に淡々と描かれています。

やはり、何といっても設定が面白いです。残された時間が限られているだけに、普段なら漫然と後送りにしてしまうことを決断するような、前向きな感じのする話ばかりです。

いくつか気に入った話を紹介します。伊坂幸太郎独特のセリフが楽しめます。
青字の部分は作品からの抜粋です。

【終末のフール】
これは表題になっている作品で、プロローグ的に状況説明の役割もしています。主人公はどこかにいそうな成績至上主義の父親。妻や子供たちに何かにつけて「馬鹿」というのが口癖。兄妹の長女は勉強ができるが長男は勉強が苦手で父親から「失敗作」と言われる。長女は「お父さんは兄貴のすごさがわからない馬鹿だ」と言って家を飛び出す。長男はそのあと自殺。。。

その長女が10年ぶりに帰ってきた。翌朝長女は帰り掛けに、「お父さん、お母さんに謝ったほうがいいよ」「今までずっと馬鹿にしてたんだから」「三年後、世界が終わっちゃう時、お父さんの隣にいてくれるのはほぼ間違いなく、お母さんだよ」「お父さん、せいぜい頑張って」「まだ三年もあるんだし」
父親には「三年間も」という言葉は、心強かった。


残り三年という状況が、家族の絆を修復したのですね。


【太陽のシール】
ずっと子供が出来なかったのに、今頃になって妻が妊娠した。あと三年で世界が滅亡するのに産むべきなのかと二人は悩む。
主人公である夫は自他ともに認める決断力のなさ。彼の母は「優柔不断の決定戦があったら、あんた、絶対一番だね。わが子ながら呆れるよ」とよく言っていた。
そんな主人公が決断した。
「小惑星は落ちてこないかもしれない。そうだろう?大丈夫だよ」「もし仮に、三年しか一緒にいられなくても、生まれてくる子は幸せだ」

この話には、主人公のサッカー仲間が出てくる。彼には先天性の病気を持つ息子がいる。そして彼の言った言葉も重いのです。
「生きている間は、どんなことがあっても、面倒を見る覚悟はできてるんだ。でもな、死んじまったら、難しいだろ」「たださ」「小惑星が降ってきて、あと三年で終わるんだ。みんな一緒だ。そうだろ?そりゃ、怖いぜ。でも、俺達の不安は消えた。俺たちはたぶん、リキと一緒に死ぬだろ。っつうかさ、みんな一緒だろ。そう思ったら、すげえ楽になったんだ」

生きているうちは精一杯生きる。死ぬときゃ一緒だ。どちらの話も、子を思う自然な親心ですね。


【鋼鉄のウール】
まじめでストイックなキックボクシングのチャンピオン苗場と、饒舌さが売りの派手な映画俳優との対談の場面。
「苗場君ってさ、明日死ぬって言われたらどうする?」と俳優が質問すると、
「変わりませんよ」と苗場はそっけなく答える。
さらに苗場は続けて「明日死ぬとしたら、生き方が変わるんですか?」「あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なんですか?」

なんともクールで格好いいですね。思わず自分の生き方を考えてしまいました!


【深海のボール】
この作品のエピローグです。主人公は殆どの話に絡んでいるビデオショップの店長。妻と小さな娘のほかに、小惑星事件がもとで同居することになった父親の4人暮らし。
この父親は団地の屋上に櫓を作って三年後の終末を見届けようと考えている。父親はお前たちの席も準備しようかと提案するが、いつも「遠慮しとくよ」と断る。
ある時、家族皆で屋上に出て櫓に登ってみる。主人公は父親の提案に同意して「そうしてもらおうかな」と答える。父親は嬉しそうに「腕が鳴る」という。

この話はエピローグにふさわしく、三年後にほぼ決定的に終末を迎えるにも関わらず、強く生きる。何が何でも生き続けるとのメッセージが様々な場面で出てきます。

「生きられる限り、みっともなくてもいいから生き続けるのが、我が家の方針だ」「死に物狂いで生きるのは、権利じゃなくて、義務だ」
 ---前出のサッカー仲間。

「出てくるな、こっちは大丈夫だ」「頑張って、とにかく、生きろ」
 ---暴漢に襲われて死亡した元警官の父親が、最後に息子(ビデオショップの客)に掛けた言葉。

「生き残るっていうのはさ、あんな風に理路整然とさ、『選ぶ』とか、『選ばれる条件』とか、そういうんじゃなくて、もっと必死なもののような気がするんだ」「じたばたして、足掻いて、もがいて。生き残るのってそういうのだよ、きっとさ」
 ---選ばれし者を乗せる「箱舟」集会に出た主人公の妻が、胡散臭い集会を否定していった言葉。

ただ単に作品を楽しめたというより、何となくの日常を送っている私は、はたと困ってしまいました。『生きるって何だろう』^^)?


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Last updated  2016/10/06 07:15:39 PM
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