カテゴリ:読書
短編集「パン屋再襲撃」にも収められている一編です。有名な短編なのでご存知の方も多いと思いますが、私の好きな短編「象の消滅」の紹介です。
ミステリアスな不思議な話といえばそうなのですが、話は地味に淡々と進みます。そして、村上春樹作品によくある、ミステリーの謎は解けないまま終わります。 何だ。山場もなければ結末もない!などと文句を言う人もいそうですが、読了後に何かほのぼのとした気持になるのは私だけではないと思います。
いつも通り、ネタバレのあらすじからです。 町の郊外にあった動物園が経営難で閉鎖された。引取手のない老象は、小学校の体育館を象舎と改築して、町有財産として飼うことになった。動物園で象の世話をしていた飼育係の老人も象舎の隣に住むことになった。 ある日、象と飼育係の老人が忽然と消えてしまう。脱走したという形跡はなく、まさに消滅したのである。象の足にはめられていた鉄輪は鍵をかけられたまま残されていた。鍵は町が管理し飼育係は鍵を持っていなかった。そして、一つしかない入口は、内側から鍵で閉ざされたままだった。さらに、象舎から出るための、柔らかい砂地の道には、象の足跡らしきものはひとつとして残されていなかった。 東京郊外の住宅地近辺の山だから直ぐに見つかると思われていたが、自衛隊、警察、消防が山狩りをして、ヘリコプターまで出動するが見つからない。一週間もすると新聞や週刊誌の記事も少なくなり、何か月かすると人々は彼らの町がかつて一頭の象を所有していたことなんてすっかり忘れ去ってしまったように見える。 実は、主人公(男性、31歳、独身、サラリーマン)は消滅した象を最後に目撃していた。主人公は事件の前から象が好きで、象をよく観察していた。消滅した夜も象舎の裏山に登り、中の見える通気口から象と飼育係を見ていた。その時、象が明らかに小さく縮んでいるように見えた。そして、老象はいつものように嬉しそうに体を洗ってもらい、その晩はいつもより早めに電気が消された。したがって、それ以降のことは分からない。 この話の中で、主人公は家電品の宣伝部に勤めていて、便宜的という言葉が頻繁に出てくる。便宜的な世界。便宜的な本質。。。僕が便宜的になろうとすればするほど、製品は飛ぶように売れ---などと出てくる。 便宜的を辞書で調べると「ものごとを間に合わせに一時しのぎにするさま」とあります。年老いた象を、年老いた飼育係が心を通じ合いながら面倒を見ることと、対極にある言葉ですね。 年老いた象も年老いた飼育係も、この町には便宜的には不要なわけですから、私は幸せな消滅だったと思うのでした^^) 上のボタンをクリックしていただけると嬉しい お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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