贖罪
吉村昭 逃亡 1971年 月下美人 1980年 旗艦セズ 1986年 水兵が規律違反に怯えた弱みにつけこまれ、饗応を受けるうちに懐柔され、断り切れずに窃盗、破壊行為を重ね、嫌疑の取り調べ監禁中に逃走し、他人になりすまし、北海道までの潜伏生活の果てに終戦を迎え、戦後、逃亡を隠し続けて四半世紀生きてきた者。四半世紀たっても重みから逃れられず、遂に口外することで精神が解放されるに至る。 普通の心根の人間が、逃れられない軍規への些細な不服従から恐怖に怯え、遂には抜き差しならなくなり、壮絶な人生に変転していく様が描かれる。戦争の及ぼす奇怪さが描き出されていた。 更に、三作を通じて、戦後、戦時中を贖罪するかのような人生の変転が明かされていた。 ・戦争に翻弄されて逃げ切って生き延びた者の数奇な人生 ・戦後、沈黙の安寧から呼び起こされ、過去を暴かれ狂騒を帯びた生活に変貌の末、隠し続ける苦痛からの解放 ・隠していた逃亡生活時代の暗部の告白と、自身と同じ境遇の逃亡者の事実調査に腐心する男の遺された日々 普通の弱い人間が、暗く強い人間に変貌し、葛藤の末に贖罪に至る人生を見せられ、戦争の奇怪な作用が冷え冷えと読む者に迫ってきた。