|
テーマ:私の図書(49)
カテゴリ:本
「吉田調書」を読み解く 門田隆将 2014年
朝日誤報事件と現場の真実 報道の使命、倫理を正しく理解し実践できる者しか報道に携われないはずであるが、自らの思惑によって風聞記事を書いて社内の功名、発行部数増を稼ぐ輩が報道の特権を持ってしまったようだ。 歪んだ精神に報道はできない。取材を重ねて真実を掴み、真実とその本質を誰にもおもねることなく報道する。この職業倫理が、国の方向を客観的、建設的に考える機会を社会に提供すると思う。それゆえ、それを実行できる組織や人に報道特権が認められなければならないはず。それをしない新聞社はむしろ人を惑わす社会の害毒になってしまう。 ひどい事件だ。この本に登場する新聞社、政治家は、自己の立場の顕示欲と保身、功名欲に支配された疎外状況にあるのではないか。 「現場の真実」を読むと、過酷な事故対応に果敢に挑んだ人々の尊とさに感動する。救われたことに感謝しきれない。著者の「死の淵を見た男」、町田徹の「電力と震災」を読むと現場の真摯な思考と努力と決死が窮地を救い、未来を確保してくれたことがよく分る。彼らは使命を大切にし、果たした。人それぞれ何を大切にしたかで、結果は大きく変わる。結果は、世代をまたいで問われ続ける。大切にすべきことを大切にしているのかどうか、新聞社は客観報道をしてほしい。 日本が破滅しかねぬ事態に陥ったことについて、二度とこうならないように冷静に合理的に建設的な報道をなぜ新聞社はしないのだろう。著者や町田徹の現場取材を重ねた著作を読むと、同じ津波をうけても難を逃れた東北電力女川原発がなぜ15mの高さにしたのかわかってくる。また、福島県沖には、震源をなしとし津浪の危険を少なく予測する土木学会、反対に福島、茨城沖にも大規模地震震源を想定する政府地震調査研究推進本部の両論がだされ、結局、政府は土木学会の立場によってしまった国家の判断の危うさがわかってくる。こんな中でも吉田昌郎さんは、津浪の影響を検討し、土木学会に再審議要請をしていたことなどの事情があかされている。 取材さえすれば実相がわかることがよく分る。取材さえしていれば、短絡な扇動報道はできないはずだ。なぜ、現場取材をせず、日々の表層的事象を追ったり、自己の思い込みの情宣記事を書いてしまうのか。不思議でならない。 自らの組織に精神隷属した記者は、筆をとるべきではないのではないか。 本書で調書を読み解いてもらい、現場の気高い真実とは裏腹に、危機に立ち向かえず国を率いる資質のない官邸、危機には役に立たなかった東電経営者がよくわかった。現場の指揮官と現業の人達が大切なものを守りぬいたことがよくわかった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Dec 19, 2014 10:54:06 AM
コメント(0) | コメントを書く
[本] カテゴリの最新記事
|