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2015/12/01(火)14:24

つけいられる衆

本(173)

雪の墓標 小池喜孝 賀沢昇 1979年 タコ部屋に潜入した脱走兵の告白  1925年大正14年生まれの農家4男が、弱みにつけこまれて海軍刑法を犯し、脱走、潜伏、監禁、手先、逃亡、流浪の末、敗戦を迎え、米軍諜報となり、旧軍法の消滅により自由となり、土建現場回りの末、市役所職員として市民生活に入るも、戦時中、潜伏先のタコ部屋で手先となったことを告白し、自身の呪われた人生と苦悩し、贖罪を成し遂げる壮絶なノンフィクションであった。  スパイにつけいられて攻撃機の破壊工作に手を染め、逃亡していく話は、吉村昭に三度取り上げられているが、本書はその本人が述懐し、調査し、タコ部屋での犠牲者に贖罪する話で、戦争中の軍属・人夫の奴隷状況を克明にまとめたものだ。  菅原組による、人夫配給品物資の横領隠匿、給与ピンハネ、飲食・慰安所で借金漬け、捕虜収容施設を流用した宿泊所、監視、過酷な逃亡者追跡、みせしめ暴力、過労と栄養失調による衰弱死など、惨状には息が詰まる。  軍、役人に賄賂が撒かれ、軍事目的に隠れて菅原組に物資と富が隠匿されていく、このあさましさは日本の無残な真実のひとつだったようだ。  弱者はつけいられ、利権を貪る暴力の暗黒が戦争の底辺でも繰り広げられていたことがよくわかる。北海道の山中にも戦場があったかのようだ。

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