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短編諸説 -小春日和の午後にー

--- 小春日和の午後に ---



男はそこに立っていた

かれこれ、もう2時間にもなる

何かを待っているようでもあり、ただ立っているいるようにも見える


窓から30分おきにみているが、向きさえ変えていないように思える

その男が向いている先には、この町でただ一軒のスーパーがある

スーパーと言っても60過ぎのおばさんが経営している、雑貨屋のような店である


男は煙草を咥えていたが、吸っている様子はなく、灰が力なく折れ下に落ちるままにしている

今日はそんなに寒くもなく、小春日和といってもいいほどの暖かさなのに

その男はグレーのコートを着て、手をそのコートのポケットに深く押し込んでいる。

まるで、ポケットの中の手で大事なものを握っているように。

大事なものって、もしかして拳銃

その時、私の頭の中にある思いが浮かんだ、もしかして強盗

あのスーパーの様子を伺っていて

客足が途絶えた時に強盗に入ろうとしているのかもしれない

私はもう、その男から目が離せなくなってしまった。

もし男がスーパーに向かって歩き出したら

直ぐに警察に電話しよう

でもそれでは遅すぎるかもしれない

警察が到着するころには、仕事を済ませ、逃げた後になる

スーパーのおばさんに危害を加えないだろうか

だったら、いますぐにでもも警察に電話をしたほうがいいかもしれない。


男の姿から目を離さないように、電話のとこまで後ろ向きで歩いていった

そして、一瞬だけダイヤルに目を落として素早く警察の番号を回した

そして直ぐに男の姿に視線を戻した。

受話器から真剣で緊張した声が聞こえた

「こちら警察ですけど、どうしました」

「あの~ 男が」

なんて言えばいいのだろう

これから強盗に入りそうな男を見てるとでも言えばいいのだろうか

「男が立ってるんです、たぶん強盗で、これから・・・・」

「これから? 強盗 ですか」

「はい たぶんですけど」

「・・・・・・・・」

「でも、とても怪しそうな男で拳銃をもってるような・・・」

「拳銃をもっているんですか」

電話の警官は、まるで私が犯人とでも思ってるような口ぶりになってきた。

「たぶん、拳銃だとおもうんですけど」

「・・・・・・・・」

「強盗に入ったらまた電話してください」

電話はきられてしまった。

警官の電話の向こうで笑っている顔が見えたような気がした。



じゃ私がなんとかしないと

そうだ、私しかおばさんを助けることができる人間はいないのだ

相手は拳銃をもっている、たぶんだが、

だから、私も何か武器を探さないと

武器と言っても、包丁じゃ意味ないでしょ、


あ!おじいさんのライフルがある

屋根裏部屋の奥にしまってあったはずだ。

よし取ってこよう、数分でまたこの窓まで帰ってこれるはずだ

男から視線を離さないように、後ろ向きで廊下へでるドアの所までゆっくり歩いた

そして息をととのえて、せーの、

ドアを開け、屋根裏部屋まで走った。

こんなに本気で走ったのは、小学生の徒競走以来だ。

屋根裏部屋につくと、一番奥の棚に向かい、その棚を上を手探りでさがした

薄暗くやっと背が届く棚だったので、目で確認することはできない

その時、なにかひんやりした長い棒のような感触

見つけた、おじいちゃんのライフルだ、

ライフルと一緒に玉が入った小箱もみつけた、

そして、又いきを整え、あの男が見える窓まで走った。

男はまだ立っていた。

これでなんとか武器はなんとかなった。

あとは・・・

あ!こんな服着てる、スカートにどうでもいいセーターだ。

もし、あの男が強盗に入って、スーパーのおばさんを私が助けたとなれば

新聞記者やら、テレビ局のアナウンサーに取り囲まれてインタビューされて

もしかしたら、新聞の一面にも写真がでてしまう


そんなことになったら、

着替えよう

動きやすくて、それていてちょっとおしゃれで

頭の中で自分が持っている服で、機能性があって、ちょっとおしゃれというテーマでコーディネイトした

よし着替えてこよう

また、息を整え、今度は寝室のクローゼットへと走った

そして、結婚式の後のパーティで何度も着替えた時よりも数倍早い時間で着替えた

あ!お化粧してないじゃない

お化粧道具をまとめてバッグにいれ、また窓の前まで走った

男はまだ立っている

男の様子をみながらお化粧する、

よしこれで完璧

後は男が歩き出すのを待つだけだ。



その時、男が歩き始めた、スーパーへ向かって

今しかチャンスはない、私は息を整え玄関の扉を開け、

男に向かって歩き出した。

男の前の方から一人の女性が走ってきて、その男に抱きついた

「ごめんね、待った」

「全然、はいこれ」

男はポケットから、大事そうに握っていた物を彼女に渡した

それは、黒光りした拳銃でも、ナイフでもなかった、

指輪。



私は、庭の前で、立ち止まったまま動けなくなっていた。

「おまえ、何してるんだ」

振り返ると、旦那が立っていた

「何してるって・・・・」

私が持っている服の中で一番派手な服を着て、中国の京劇のような化粧し、手にはライフルを持った

自分の姿が窓に映っているのを見た。


「別になにもないわよ、こんな小春日和のいい日に何もあるわけないじゃない」









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