短編小説 - 再会 --------- 再会 -------- 初めて私が彼女を見たのは5歳の誕生日の日だった。 いつものように、近所の公園の砂場で山を作り、ビー球を転がして遊んでいた。 ふと視線を感じて振り向くと、滑り台の間から小さな女の子が立っているのが見えた。 彼女はじっと私の方を見ていた、そして私も彼女の視線から目が離せなくなってずっと見ていた。 彼女は微笑んだ。 その微笑はとてもやさしいものだった。 私は思わず彼女の方へ一歩、二歩と近づいていった、 その時、後ろから母の声がして、振り向いた、 「今ね~女の子がね~」 と、すべり台のほうを指差して、振り向くと、その女の子の姿は消えていた。 私の唯一鮮明に思い出すことのできる幼稚園時代の思い出だ。 それからというもの、毎年、決まって私の誕生日に彼女の姿を見ることになる、 でも、ひとつだけ不思議なことがある、 私はどんどん成長していくのに、その女の子は、5歳の時に見た少女のままなのだ。 そして、15歳の誕生日の日、中学生になっていた私は、学校の帰り ふと背中に視線を感じて、振り返った。 あの女の子だ。 いままでより、ずっと近い距離に立っていた、 いつもは、微笑みを交わすだけだったが、 このときは思い切って話しかけてみた 「お名前は、なんていうの」 答えを期待してたわけではないが、やっぱり声を聞くことはできなかった。 でも、ほんの少しだけ、唇が動いたようなきがした、 「あ・ゆ・み」 「あゆみちゃんっていうの?」 彼女はこっくり頷いた。 その時、車のクラクションが聞こえ、私は一瞬振り向き 彼女へ視線を戻した時には、もう消えていた。 私には、俗に言われている霊感なんてものはない、 ただ、年に一度その女の子と再会するだけ、 自分でも変だと思うのだが、恐怖心というものが全く無かった。 むしろいつも懐かしくって、ちょっと嬉しかったりもする。 25歳の時、私は結婚した。 彼女は、とても聡明な人で、明るい子というよりは物静かなタイプだった、 そしてその年の誕生日から、あの女の子は現れなくなった。 ちょっと寂しい気もしたが、私一人のちょっと変わった思い出になったような気がして、安心したところもあった。 結婚してから2年後彼女は妊娠、そして出産した。 とてもかわいい女の子だった。 「名前決めなくちゃね」 出産前から妻と2人で男の子、女の子それぞれいくつか候補は考えていた。 「あ・ゆ・み」 「え?」 「あゆみちゃんじゃ、だめかな」 私は、自分の言葉に唖然とした、 自分の脳で考えるより先に言葉になっていた でも、なぜかその名前を付けるべきだと確信していた。 「うん、いい名前ね そうしましょう」 「え! いいの?」 以前2人で名前を考えてる時は二人で何度も喧嘩になったのに 妻はあっさりあゆみと言う名前を受け入れた。 そして、あゆみの5歳の誕生日の日、 小さなバースディーケーキを買い、蝋燭を5本立て ささやかな、誕生日祝いをした、 そして、その夜遅く、あゆみは亡くなった。 実はあゆみには、生まれた時から心臓に大きな欠陥があり 医者から長くても3年の命と宣告されていた。 私たちは、このかけがいの無い5年間を精一杯あゆみのために生きた そして、あゆみも5年間もがんばって私たちの側にいてくれた。 葬式も終わり、妻と2人、何をするわけでもなく ただ、あゆみの写真の前に座っていた。 「あのね、私、貴方に内緒にしてたことがあるんだ」 「内緒?」 「実は、あゆみとはね、子供の時から何度も会っていたの」 「・・・・」 「私の誕生日に決まって、女の子がね・・・」 「僕も合っていたよ」 「そうなんだ」 「あゆみが会いにきてくれてたんだね」 「どうしてあゆみが誕生日に現れたのか分かったような気がしたよ、きっと僕たちの誕生日を祝いにきてくれてたんだ」 「きっと、そうね、だって最後の誕生日とても楽しそうだったものね」 私たちはあゆみの誕生日には必ずケーキを買い蝋燭を5本立ててお祝いをしている。 あゆみは、あれから一度も私たちの前に姿は現せてくれないけど、 たぶん、あゆみはもう姿を現す必要がないと思っているんだと思う なぜなら、あゆみの姿は私たちの心に焼き付いているから。 ジャンル別一覧
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