家電惑星

突然師長に呼び出された。
先日のバレンタインに僕へ本命チョコを告白付きで渡した
解放病棟にいる女性患者のことでだ。

今、病院は看護基準取得のため患者やその家族からの差し入れや
金品を受け取らないと方針を厳しく決定したところだった。
もちろん僕だって一度は断ったけど今にも泣きそうな顔で差し出してくる。
単なる恋愛妄想を抱いた患者ならそのまま逃げるが相手は本気だ。
しかも大きな精神的負担によりかなり落ち込んでしまう子で
精神科ではヘタをしなくとも自殺にまで至ることもじゅうぶんに考えられる。
僕は彼女のチョコレートを受け取って
イエスともノーとも言わずに笑顔でその場を後にした。

ところが数日前からその患者が『失恋した』と言い、
夜中も不眠になってしまったと師長が言ってきたのだ。
それから師長が言うには『なぜチョコ受け取ったのか？』と。
「だったらどうしろと言うんです？」
『なぜ管理当直にでも相談しなかったのか？』と。

・・・もうね、これほど上司がアホだと実感したことはなかった。
この女性患者は精神科に入院している患者である前に
２０代という最も活動的な時期を入院という形で
長年世間から隔離されている女性なのだ。
その恋心は本物であり症状ではない。
なぜそのような本気の気持を管理当直への報告という形で
業務手順のように処理しなくてはならないのか？

患者の思いや気持をまず考えなくてはならない僕ら看護者が
なぜそのような心ない言葉で処理しようとするのか？
どうしてこの病院の上司たちはこんなにもデリカシーに
欠ける人たちばかりなんだろう？
おまけに自分は嫌われたくないのかわざとらしく
僕の機嫌をとりに来るところがさらに腹が立つ。

その患者さんとは今日も外来ロビーで偶然会ったけど
目も合わせようともしないし名前を呼んでも
腕をつかんでも逃げ去るように行ってしまった。
どういうきっかけで『失恋した』と思ったのかは知らないが
どのみちいつかは伝えねばならない事実。
そして乗り越えなければならない壁でもある。
できればこうなる前にちゃんと本人へ話をしておきたかった。

結果としてはこうなってしまうのだろうが
僕はその患者さんに嫌われて避けられ
師長からは小言を言われる。
なんとも後味が悪いものだ。

でも僕はこの師長を上司だと認識はできても
人間的に上の人とは認めたくない。
いや、認められない。