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JEWEL

ヒバナ〈2〉

「お~い、いつまで寝てんだ、起きろ!」
「なんだよ、まだ六時だぞ・・
「そんな呑気な事考えている余裕はないぞ!十五分後に校庭に集合!」

洒落た銀縁眼鏡を掛けた飯田悟、通称“委員長”はそう叫んだ後、隣の部屋のドアを叩きに行った。

「勘弁してくれよ・・」
「こんなのが半年間も続くかと思うと、うんざりするぜ・・」

登はそんな事を同室の太一と言い合いながらも手早く身支度を済ませ、足早に皇帝へと向かった。

「全員、整列!教官に敬礼!」

校庭に現れた緑川教官は、開口一番登達にこう言った。

 「君達には、これから基礎訓練に入って貰う。」

それから約一時間半後、登達は教官達から服装、立ち方、敬礼の仕方、方向転換の仕方などを徹底的に指導された。
一秒ごとに誰か一人でも遅れれば、連帯責任で腹筋百回のペナルティを課せられた。
「次は、逮捕術の授業かよ・・」
「死ぬな、俺・・」

登達は疲れた身体を引き摺りながら、制服から柔道着に着替えて道場へと向かった。

「時間通りだな。」

そう言って登達を待っていたのは、岩のように厳つい顔をした大田勝教官だった。

「この中で格闘技、または武道の経験がある者は?」

大田教官の言葉を聞いて真っ先に手を挙げたのは、“委員長”と“天使”だった。

「飯田、お前は何処で格闘技を学んだ?」
「学生時代、総合格闘技のサークルに入っていました。」
「橘、お前は?」
「中学・高校時代に演劇部に所属していたので、そこで殺陣や護身術などを学びました。」
「そうか。では二人共、早速実践訓練をしよう。」

大田教官はそう言うと、バタフライナイフを取り出した。

「これは、本物のバタフライナイフだ。犯人を逮捕する時、いつも相手が丸腰だとは限らない。この訓練は、刃物を持った強盗犯が宝石店から逃走して来た所に遭遇し、それをどう取り押さえられるのかという状況を設定したものだ。犯人役は飯田、敬監訳は橘にやって貰う!」
「はい!」
「では早速、訓練を始める!」

皆が固唾を呑む中、最初に動いたのは飯田だった。

「てめぇ、何見てんだゴラァ!」

普段冷静な飯田の口から凄味のあるヤンキー言葉が自然と出て来たので、登達はお驚きで目を丸くした。
バタフライナイフを握りながら“天使”を睨みつけているさまは、何処からどう見ても素人には見えない。

「ナイフを捨てなさい。」
「あぁ!?」

飯田が痺れを切らしてバタフライナイフで“天使”に襲い掛かろうとした時、“天使”は突然姿を消したかと思うと、強烈な回し蹴りを飯田に喰らわせ、彼の手からバタフライナイフを弾き飛ばした

「観念しろ!」
「畜生!」

利き手をねじり上げるまでの聖良の一連の動きには一切の無駄がなかった。

「凄ぇ・・」
「てか、“委員長”、もしかして元ヤン?」

早朝から続いた地獄の教練が終わり、昼食の為食堂へと向かった登が太一とそんな事を話していると、そこへ“天使”がやって来た。

「ここ、いいかな?」
「ど、どうぞ・・」
「ありがとう。」

そう太一に礼を言って空いた席に座った“天使”は、先程回し蹴りで飯田を倒したとは思えない程、清らかだった。

「なぁ、どこであんな技身につけたの?」
「演劇部って、結構練習きついし、上下関係厳しい上に実力至上主義だし・・主役とか演じるようになる為には、ひたすら自分の特技を手に入れるしかなかったんだよね・・それに、こんな見た目だから昔は結構いじめられてたんだ。施設育ちだったし。」
「へぇ、そうなんだ。何か悪い事聞いたかな・・」
「別にいいよ。それにしても、“委員長”のあれは凄かったな。」
「だよな。」
聖良達がそんな話をしていると、“聖女”こと村田亜理沙が彼らの近くを通りかかった。
「橘さん、だっけ?さっきの訓練、凄かったね。」
「ありがとう。」
「じゃぁ、また法医学の授業で。」
「いつみても可愛いなぁ・・」
「それに、なんだか神々しい・・」
「まさしく、“聖女様”・・」

登と太一がそんな事を話していると、向こうから殺気を漂わせている飯田がやって来た。

「なぁ、知ってるか?俺は売られた喧嘩は買うタイプなんだよ。」

そう言った飯田は、拳をポキポキと鳴らしながら聖良を睨んだ。


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