月光花 第250話:予期せぬ再会
「家族・・」ユリウスの脳裏に、アフロディーテの先ほどの言葉がこびりついて離れない。“だって私達は家族なんだからv”確かに、アフロディーテとはある意味、「家族」だ。そしてルドルフとも。だがルドルフとアフロディーテは違う。ルドルフは人間を大切にする。たとえどんなに罵られても、裏切られても、ルドルフは人間を信じ、愛する。自分の空腹を満たすためだけの餌として人間を見ているアフロディーテとは違う。家族じゃない、アフロディーテとは。「君とは・・違うんだ!」リンの冷たくなった体を抱き締めながら、ユリウスはそう言って拳で地面を叩いた。「・・私と、一緒になるためだと・・?」その頃、ルドルフとヨハンは炎に包まれたジャングルの中で向かい合っていた。「ああ、そうだ。俺はお前のことが好きだった・・お前と出会った時からずっと・・」ヨハンはそう言って、ルドルフの手を握った。「お前となら、一緒に生きてゆけると信じていた。お前となら、オーストリアを救えると思っていた・・生涯の伴侶は、お前しかいないと思っていた。」「やめろ、大公。もうあの頃とは違う。ホーフブルクで過ごした幸せな日々は、全て過去。私はあの日から、全てを捨てた・・私は死んだ、マイヤーリンクで。」ルドルフはヨハンの手を振りほどき、サーベルを構えた。「・・お前はいつも、俺のものにはならないんだな・・」ヨハンはそう言ってフッと笑った。「私は、誰のものにもならない。」「・・そうか。」紅蓮の夜空に、激しい剣戟の音が響き渡った。(ルドルフ様!)剣戟の音を聞きつけたユリウスがジャングルへと向かうと、そこにはサーベルで戦うルドルフと・・「ヨハン・・大公様・・?」彼はずっと昔に死んだはずだ。なのに何故、ここにいる・・?「なかなかやるな。その様子じゃぁ、ホーフブルクやプラハにいた頃よりも毎日稽古を欠かしてないようだな?」「自分の身くらい、自分で守らないとな。」「よく言うぜっ!」ルドルフとヨハンは、刃を交えながら笑い合った。ルドルフの刃とヨハンの刃が、それぞれの首筋に当たった。「大公もあの頃とは随分、腕が上がったようだな?」ルドルフはそう言ってサーベルを下ろした。「俺はお前の盾となる男だぜ?」「よく言う・・」ルドルフがそう言って笑おうとすると、激しい眩暈が彼を襲った。「ルドルフ様!」ユリウスが慌ててルドルフを抱き留めた。「よう、久しぶりだな。」ヨハンはユリウスを見て笑った。「お久しぶりです、ヨハン様。何故あなたがここに・・あなたはもうお亡くなりになったはず・・」「その話は長くなるぜ。」その時、ジャングルに一機のヘリが飛んできて、ヨハンとユリウスの前に着陸した。「ここに長居すると危険だぜ。それにルドルフが怪我してるしな。」「ええ、そうですね・・」ユリウスとヨハンを乗せたヘリは、ゆっくりと離陸した。「う・・」腕の中でかすかに呻いて身じろぎしたルドルフを、ユリウスはしっかりと抱き締めた。「私はここにおりますよ。」ユリウスはルドルフの額にキスをした。-第9章・完-