・・・lunatic tears・・・◇202◇【聖の授賞式】
アメリカ・ロサンゼルス。 今年も名だたるハリウッドスター達が、アカデミー賞授賞式へと出席する為、会場であるコダック・シアターへとレッドカーペットの上を歩きながらファン達にサインや握手をしながら入ってゆく。その中でまた1人、リムジンから降りて来た若手俳優の登場に、ファン達は一際歓声を上げた。黒い燕尾服に長身を包み、背中まである金髪をポニーテールにしながら、彼はエメラルドの瞳を煌めかせながらファン達に向かって手を振っていた。 彼の名は、聖。幼い頃母親に捨てられ、父方の祖母から虐待を受けた彼だったが、養父母であるオーストリア=ハプスブルク帝国皇帝夫妻から愛情を受けて育ち、単身渡米し、俳優としての人生をスタートさせた。 何の援助もコネも無く、ゴキブリの巣になっているボロアパートの一室で極貧生活を送りながらアルバイトに精を出し、オーディションを何度も受けた。なかなか機会が巡ってこなかった時期に、ひょんなことで応募したある映画のオーディションに合格し、スクリーンデビューを果たした。その映画は、虐待を受けた子ども達の心の傷と再生を描いたもので、聖の迫真の演技は観客を魅了し、彼はアカデミー賞助演男優賞にノミネートされた。 オスカーを取るまでオーストリアには帰らないと誓い、渡米してから1年が過ぎた。どんな結果が出たとしても、オスカーを獲るまでは家族の元へ帰らないつもりだった。夢にまで見た舞台に立てられただけでも、聖には嬉しかった。「ヒジリ。」背後から聞こえが声に聖がゆっくりと振り向くと、そこには養父母の姿があった。「父さん、母さん。」「聖、漸くこの日が来たわね。」瑞姫はそう言って、聖に微笑んだ。「ああ。」 養父母とともにコダック・シアターの中に入ると、授賞式が始まった。授賞式も終盤にさしかかり、今年のアカデミー賞助演男優賞にノミネートされた俳優の顔写真が画面に映り、発表の時を迎えた。『今年のアカデミー賞助演男優賞は、ヒジリ=フランツ!』自分の名を呼ばれたことを知った聖は、驚愕の表情を浮かべながらゆっくりと壇上へと上がった。「おめでとう。」「ありがとう・・これまでわたしを支えてくださった家族やマネージャー、素晴らしい映画を作ってくださったスタッフの皆様に感謝いたします!」聖は涙を流しながら、オスカー像を掲げた。客席には、義理の息子の勇姿を見て涙するルドルフと瑞姫の姿があった。「聖、おめでとう。」「おめでとう、ヒジリ。」「ありがとう、父さん、母さん。」授賞式の様子を、遼太郎と蓉はウィーンで観ていた。「聖、おめでとう。」「やっと夢が叶ったな。」2人の兄達は、画面に映っている聖に向かってワインを高く掲げた。「ヒジリ、これからもお前を応援してるからな。」「ありがとう、父さん。その言葉だけでも嬉しいよ。」授賞式後のパーティーで、聖は1年振りに再会したルドルフと瑞姫と楽しい時間を過ごした。「母さん、身体の方はどう?」「ええ。大丈夫よ。聖、これから忙しくなるでしょうけど、身体には気をつけるのよ。それと、初心を忘れずにね。」「わかったよ。父さん達も、身体に気を付けてね。」聖は養父母を交互に抱き締めた。「聖が立派に成長して良かったわ。亜鷹兄様にも見せたかった・・」「ああ。」ウィーンへと帰る専用機の中、ルドルフと瑞姫は共に手を繋いで眠った。にほんブログ村