皇女、その名はアレクサンドラ 第45話
2018年12月24日、アレクサンドラはルドルフとヘレーネに見守られながら、元気な女児を出産した。「よく頑張ったわね、アレクサンドラ。お疲れ様。」「有難うございます、お母様。」 出産を終えたアレクサンドラは疲労困憊(ひろうこんぱい)した表情を浮かべ、実母の手を握った。「ガブリエルは何処?」「あの子は、さっき貴方を待ちくたびれて眠ってしまったわ。」「そう・・」「皇太子様、そろそろ授乳の時間ですから、アレクサンドラと赤ちゃんを二人きりにさせてあげましょう。」「そうだな。」ルドルフとヘレーネが病室から出て行くと、タイミング良く看護師がアレクサンドラの娘を抱いて病室に入って来た。「おっぱいの時間ですよ。」「はい・・」 アレクサンドラは娘の口に乳首を含ませると、彼女は勢いよくそれを吸い始めた。「おかぁたま、ガブリエルもおっぱい飲む!」 病室のドアが勢いよく開き、ガブリエルが授乳中のアレクサンドラに抱きついて来た。「こらガブリエル、お部屋に入るときはドアをノックしろといつも言っているだろう?」「ガブリエルもおっぱい飲みたい~!」「静かにしなさい、ガブリエル。」ルドルフが愚図るガブリエルを必死にあやしたが、ガブリエルは甲高い声で泣き始めた。「仕方がないわね。ガブリエル、お母様の傍にいらっしゃい。」「うん!」泣くガブリエルに根負けしたアレクサンドラがそう言うと、ガブリエルは彼女の膝の上に飛び乗った。「全く、この様子じゃぁ先が思いやられるな。」「この子はまだ二歳ですから、赤ちゃんに焼きもちを焼くのは当然です。」自分の乳首に吸い付くガブリエルの頭を撫でながら、アレクサンドラはそう言って微笑んだ。「この子の名前はどうする?」「そうですね、クリスティーナというのはどうですか?」「可愛いこの子にぴったりの名前だ。」 エリザベートと同じ誕生日に産まれた女児は、クリスティーナと名付けられた。「アレクサンドラ、出産祝いにこれを。」「まぁ、素敵なペンダント。有難うございます、お父様。」 クリスティーナの誕生を祝うパーティーで、ルドルフはアレクサンドラに蝶を象ったサファイアのペンダントを贈った。「これは昔、わたしが皇太子様から贈られた物なのよ。」「まぁ、そうなのですか。」「蝶のモチーフは、“美”を意味するの。貴方がこれから美しく輝くように願っているわ。」「有難う、お母様。」アレクサンドラ達が和気藹々とした雰囲気で話していると、シュティファニーが恨めしそうな顔をして彼らを会場の隅から睨みつけていた。(気に入らないわ、あの女・・次期皇后であるわたくしを差し置いて、宮廷で大きな顔をして!) ヘレーネと話しているルドルフは、時折柔らかな笑みを口元に浮かべていた。自分と話している時は、終始不機嫌そうな表情を浮かべていることを思い出し、シュティファニーはますますヘレーネへの憎しみが募った。「ガブリエル、このお話の続きは明日ね。」「ねぇおかぁたま、おかぁたまもおねんねするの?」「ええ、ガブリエルが良い子にしてくれたらね。」パーティーが終わり、アレクサンドラがガブリエルを寝かしつけていると、突然廊下から悲鳴が聞こえて来た。「ガブリエル、静かにしていなさい。」「おかぁたま?」 ガブリエルの部屋から出たアレクサンドラが廊下を歩いていると、向こうから微かに血の臭いがした。「誰か居るの?」ランプで暗闇を照らしながらそう叫んだアレクサンドラは、自分の足元に女官の遺体が転がっていることに気づいて悲鳴を上げた。「アレクサンドラ、どうした?」「お父様・・人が、人が死んで・・」「落ち着け。」恐怖で震えるアレクサンドラを宥めたルドルフは、彼女の足元に転がっている女官の顔をランプで照らした。 彼女は一週間前、宮廷に上がったばかりの少女だった。「アレクサンドラ、ガブリエルとクリスティーナは何処に居る?」「二人は自分の部屋に・・」「大変です、皇太子様、アレクサンドラ様!クリスティーナ様が何者かに攫(さら)われました!」「何だと!?」 アレクサンドラとルドルフがクリスティーナの部屋に入ると、そこにはベビーベッドに寝かされている筈のクリスティーナの姿がなかった。「警察には通報したのか?」「はい。」 ルドルフは、空になったベビーベッドの中に一枚のメモが置かれている事に気づいた。にほんブログ村