一輪花 現代編 「夢と葉桜」 (5)
「進撃の巨人」の二次創作小説です。
作者様・出版者様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
リヴァイが両性具有設定です。苦手な方は閲覧なさらないでください。
「梓、そろそろ起きないと、幼稚園に遅刻・・」
リヴァイがそう言いながら隣で寝ている筈の梓を起こそうとした時、彼女が今、ミカサの家に預けられている事を思い出した。
いつも朝は、幼稚園へと送り出す為に、梓の弁当を作り、朝食を済ませ、梓を着替えさせる慌しい時間帯だったが、梓が居ない今、ゆっくりと流れる時間の中でリヴァイは今まで溜まっていた洗濯物を片づけ、汚れたキッチンのガスコンロの掃除などをして一段落ついた後、時計を見たらもう昼の12時を過ぎている事に気づいた。
(こんなに家事に精を出したのは久しぶりだな。)
いつも、梓の事で精一杯で、家事は二の次だった。
誰も親戚・知人・友人が一人も居ない中での育児は、孤独とストレスの塊に押し潰されそうな、終わりのない日々だった。
ストレスの所為で、リヴァイは何度か梓を殺そうとした事があったが、その都度思い留まったのは、学生時代からの友人であったハンジが、黙ってリヴァイの育児の愚痴を聞いてくれたからだった。
愚痴を聞いてくれるだけでも、リヴァイの中に溜まっていた負の感情が減ってゆくのを感じた。
“あんたさ、少し肩の力を抜いた方がいいよ。”
“そうか?”
“完璧を目指していたら、苦しくなるよ。だから、話しだけでもしてよ、聞いてあげるから。”
リヴァイは紅茶を飲みながら、無意識にハンジの番号を呼び出していた。
「珍しいね、あんたがわたしにご飯を奢ってくれるなんてさ。」
「って言っても、牛丼屋だけどな。」
「別に良い、今研究論文書いていて、もう三日も食べてなかったから助かるよ~!」
「三種のチーズとアラビアータ牛丼大盛、お待ち~!」
「リヴァイ、ビール頼んでいい?一杯だけだから、いいよねぇ~?」
「好きにしろ。」
隣でハンジがこの牛丼屋の期間限定メニューを掻き込むのを半ば呆れ顔で見ながら、リヴァイはチーズカレーを食べた。
「かぁ~、三徹後に飲むビールは美味ぇ~!」
「良く昼間から飲めるな。」
「今日は久しぶりの休みだからね。ねぇリヴァイ、あんたがこうしてわたしにご飯を奢ってくれる時って、いつも深刻な話をする時だよね?」
「あぁ。」
牛丼屋から出たリヴァイは、自宅アパートの部屋にハンジを連れて行った。
「ここなら、人目につかねぇし、ゆっくりと話が出来る。」
「そうだね。それで、話って何?」
「ケニーが釈放された後、奴は俺にある“仕事”を紹介をしに来た。それが・・」
「あのビデオの仕事?」
「あぁ。一回の撮影でかなりの金が入る。契約は一か月間。撮影が終わったら、手術費用が・・」
「そんな仕事、辞めなって!あんたの身体が持たないよ!」
「まともな仕事に就いて稼いでいたら、手術する前に俺が死ぬ。」
「そんな・・」
気まずい沈黙が二人の間に流れた時、玄関のチャイムが鳴った。
「誰だろうね、こんな時間に?」
「さぁな。」
リヴァイがインターフォンの画面を覗き込むと、そこにはエルヴィンの姿が映っていた。
『リヴァイ、ここを開けてくれないか?』
「エルヴィン、何のつもりだ?」
『話がある。』
「・・わかった。」
リヴァイが渋々エルヴィンを部屋の中へと入れると、彼はいきなりリヴァイを抱き締めた。
「てめぇ、何を・・」
「リヴァイ、君の手術費用を全額君の口座に振り込んだ。だからあんなバイトはすぐにやめてくれ。」
「勝手な事をすんな!」
「リヴァイ、余り興奮したら、心臓に負担がかかるよ。」
「俺は、てめぇの助けなんて要らねぇ!」
そう叫んだリヴァイは、突然胸を押さえて苦しみ始めた。
「リヴァイ、しっかりして!」
「息が、出来ねぇ・・」
「今すぐ彼を病院へ連れて行こう!」
リヴァイを病院へと連れて行ったハンジは、彼の心臓が破裂寸前である事を知り、絶句した。
「ハンジさん、兄さんは・・」
「今すぐ手術しないとだめだ。」
「お願いします、兄さんを救ってください!」
手術によってリヴァイは一命を取り留めたが、彼の意識が戻らない状態が暫く続いた。
「ねぇ、クシェルさんはどうしているの?」
「母さんはこの旅館で仲居をしている。月に一回、手紙が来る。」
「そう。ねぇ、どうしてあなた達母子は離れて暮らすようになったの?」
「伯父さんが逮捕された後、わたし達は何処に行っても犯罪者の家族として迫害を受けた。その所為でわたし達は何度も引っ越しをした・・」
ミカサは、今まで話さなかった、“あの日”の事を静かに話し始めた。
それは、ミカサ達が何度目かの引っ越しを終え、漸く安定した生活を送れた頃の事だった。
その日、リヴァイ達がいつものようにトランプをしながらクシェルが仕事から帰って来るのを待っていると、玄関のドアが突然荒々しく誰かに開けられた。
「母さん・・」
「リヴァイ、ミカサ、あんた達は早く寝なさい!」
「でも・・」
「いいから、寝なさい!」
そう言ったクシェルのワンピースは、血と泥で汚れていた。
「お母さんに、一体何があったの?」
「それは、今でもわからない。今は兄さんに早く元気になって欲しい、それだけ・・」
ミカサがそう言ってハンジの方を向いた時、彼女は奈々が自分達の方へとやって来る事に気づいた。
「お久しぶりね。」
奈々はそう言うと、ミカサに向かって微笑んだ。
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