蒼の騎士 紫紺の姫君 第43話:新生活(7)
「ねぇ、本当に実家に戻らなくてもいいの?」「あぁ、暫くホテル暮らしになる。」「そう。食事はちゃんと摂ってよね。」「わかった・」 ガブリエルとホテルの前で別れたアンダルスは、そのまま馬車で帰宅した。「お帰りなさい、アンダルス。浮かない顔をしているわね?」「えぇ・・」 アンダルスは、ビュリュリー伯爵夫人に、ローゼンフェルト家の舞踏会で起こった事を話した。「まぁ、そんな事が・・」「何だか、俺がガブリエルとお母さんの仲を引き裂いたような気がするんだ。」「実の親子といえども、価値観が違うものよ。だから、親が良かれと思ってやっていた事が、子供に逆効果になっている事もある。色々と大変なのよ。」「俺は、どうすればいい?」「何もしなくていいわ。こういう問題は、赤の他人が入るとややこしくなるものよ。」「そう・・」「今夜は遅いし、もう部屋で休みなさい。」「わかりました、お休みなさい、伯母様。」アンダルスはそう言ってビュリュリー伯爵夫人に一礼した後、そのまま自分の部屋へと戻った。 鏡台の前に座り、結い上げていた髪をアンダルスが解いていると、レディースメイドのアデリアが部屋に入って来た。「お帰りなさいませ、お嬢様。舞踏会はどうでしたか?」「楽しかったよ。」「それはようございました。」 アデリアによってコルセットの紐を緩めて貰ったアンダルスは、ドレスを脱いで夜着姿となり、寝台の中に寝転がった。「まぁお嬢様、行儀が悪いですよ。」「いいじゃん、誰も見ていないし。」「今夜はお疲れになられた事でしょうから、大目に見て差し上げます。」 アデリアはそう言って溜息を吐くと、部屋から出て行った。アンダルスが奇妙な音に気づいて目を覚ましたのは、夜中の2時頃だった。(なんだ、あれ?) アンダルスが自室から出て奇妙な音が聞こえて来る中庭へと向かうと、自分の足元に柔らかな感触がして、彼を足元にランプを向けると、そこには白いハツカネズミの親子が居た。「何だ、ネズミか・・」 アンダルスがそう言って安堵の表情を浮かべた後、角笛の音が森の方から聞こえた。 角笛の音色に導かれるように、アンダルスは森の中にある、“ある場所”へと足を踏み入れた。 そこは、遠乗りの際に雨宿りした洞窟の中だった。「何だ、ここ?こんなに紫水晶(アメジスト)が沢山・・」「それは我が一族に伝わる宝です。」 突然背後から声をかけられ、アンダルスが振り向くと、そこには民族衣装を着た男が立っていた。「あなたは・・」「お迎えに上がりました、我らの姫様。」にほんブログ村