「ねぇカサンドラ、あの方とアフロディーテ様は心中する気だって本当なの?」
ジュリアーナはそう言って姉を見た。
「ああ、本気さ。そんなことはお前にとっては何も関係ないだろう?」
カサンドラは煙草を吸いながら椅子に腰を下ろした。
「明日はアフロディーテ様のコンサートね・・」
ジュリアーナは憂いを帯びた表情を浮かべながら、フォークでケーキをつついていた。
「そうだね。ジュリアーナ、今までいろいろあったけど、アフロディーテ様が勝利すれば、この世はあたし達のものさ。もうお前が辛い思いをすることはないんだよ。」
「姉さん・・」
ジュリアーナの脳裏に、悲しい記憶が過った。
「姉さんはアフロディーテ様の味方なのね?」
「まぁね。でもあたしはどうでもいいのさ。ただ、あいつがこの世からいなくなればそれでいいんだ。」
「そう・・じゃあわたし、仕事に行かなきゃ。会えて嬉しかったわ、姉さん。」
「あたしもだよ。」
ジュリアーナは姉と抱き合い、カフェを去り、職場へと向かった。
「遅かったわね。」
「姉さんと会ってたのよ。」
自分のデスクに腰を下ろすと、同僚がジュリアーナの言葉を聞いて目を丸くした。
「姉さん!?あんたに姉さんいたの!?」
「ええ。前に話したわよね?」
「うん・・でも覚えてないわ。」
同僚はそう言って、仕事を再開した。
ジュリアーナはパソコンの電源を入れながら、明日のコンサートのことを考えていた。
もし明日、アフロディーテが“あの方”に勝利したのなら、この世界は変わるのだろうか。
憎しみと破壊に満ちたこの世界が、少しでも良くなるのだろうか?
変る筈はないだろう。
それよりもますますこの世界が酷くなるだけだ。
ひとつ気掛かりなのは、ルドルフとアフロディーテの子供達のことだ。
自分達の頃のように、迫害される日々を送るのだろうか。
(人間は自分達とは違うものは迫害する。分かり合えることなんて、ないのよね・・)
ジュリアーナは溜息を吐き、仕事を再開した。
「じゃあ、あとお願いね~」
そう言って同僚は飲み会へと向かった。
(今日も残業か・・文句言わずに黙ってやるしかないわね・・)
ジュリアーナは目の前に積まれた書類の山を見ながら溜息を吐き、仕事に取り掛かった。
仕事が終わったのは朝の3時だった。
強張った体をシャワーでほぐしながら、ジュリアーナはベッドに寝転んだ。
その頃、アフロディーテはアウグスティーナ教会で最終リハーサルを行っていた。
(兄様、明日が楽しみだわ。だって明日、兄様と一緒に死ねるんですもの。)
チケットは半年前からもう完売している。
明日、ここで自分は兄と死ねるのだ。
大勢の観客の前で。
(早く明日が来ないかしら・・)
「お疲れ様でした、アフロディーテ。」
カエサルがそう言ってミネラルウォーターを渡した。
「ありがとう。」
「いよいよ明日ですね。」
「ええ、楽しみだわ。」
アフロディーテは犬歯を覗かせながら笑った。
「兄様と明日、死ねるんだもの。こんなに嬉しいことはないわ。」
そう言いながら笑うアフロディーテを、カエサルは複雑な表情を浮かべながら見ていた。
(たとえアフロディーテ様が死んでも、この世界は何も変わらない・・)
彼も、ジュリアーナと同じことを思っていた。
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Last updated
2011.07.26 20:39:33
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