“サラエボで闇に沈んだ真実を、全世界に配信できてよかった・・”
シャルルはそう言うと、首に提げた指輪を握り締めた。
彼は何処か寂しそうな表情を浮かべていた。
「お前は、わたしに一体何を望んでいるんだ?」
“望むだと? 馬鹿な事を!”
シャルルは瑞姫の髪を引っ張ると、自分の方へと引き寄せた。
“いや、やめて・・”
半裸に剥かれながら、瑞姫はそう言ってシャルルに許しを乞うた。
“皇太子妃様、わたしはずっとあなたをお慕い申し上げておりました。それと同時に、わたしはあなたに亡くなった妹の姿を重ねておりました。”
シャルルは瑞姫の下腹をそっと撫で、彼女に微笑んだ。
“もしあの戦争がなかったら、妹は普通に結婚して幸せな家庭を持っていただろうかと、時折思うのですよ。もしもあの時、わたしが彼女を助けてやれたらと、後悔ばかりしています。”
シャルルの胸元で時折光る指輪が、まるで若くして死んだ彼の妹の魂が彷徨っているようだった。
“シャルルさん、もう止めましょう。こんな事をしても、妹さんは喜ばない・・”
“煩い、黙れ!”
シャルルは拳を振り上げ、何度も瑞姫を殴った。
「やめろ、もうやめてくれ! もうミズキを傷つけないでくれ!」
ルドルフは画面に向かって何度もそう叫んだが、その声はシャルルには届かなかった。
「良い気味だねぇ、皇太子様。愛する者を目の前で凌辱されても何も出来ない苦しみを味わっているなんて。」
ルドルフに銃を突き付けているナジャリスタはそう言うと低い声で笑った。
「お前達はこれで妹が喜ぶとでも思っているのか? 無駄な事はもう・・」
「だったら、今すぐ妹を・・エレーナを返しておくれ!」
ナジャリスタはルドルフの胸倉を掴むと、そう叫んで彼を睨んだ。
「あの子は何人もの男に凌辱された末に殺されたんだ! あの子だけじゃない、父さんも母さんも、あんた達が勝手に始めた戦争の所為で死んだ! あんた達があたし達の国を・・家族を滅茶苦茶にしたんだ! けれどあんた達はその事を忘れて平和ボケして笑顔で暮らしてる! それが憎くて憎くて堪らないんだよ!」
ナジャリスタは涙を流しながら、ルドルフの額に銃口を押しつけた。
同じ頃、ウィーンのホーフブルクではフランツが閣議室のスクリーンで籠城事件の犯人グループが配信した映像を観ていた。
そこには半裸の瑞姫が男に何度も殴られ、啜り泣きながらも男に許しを乞う姿が映っていた。
「何てことだ・・」
「陛下、ブタペストに兵をお送り下さい! せめて皇太子様とリョータロウ様だけでも救出しなければ・・」
「黙れ!」
フランツはそう叫ぶと兵士を睨みつけた。
「わたしは3人とも助ける! ミズキも皇室の一員だということを・・ハプスブルク家の者だということを忘れるな!」
皇帝の剣幕に兵士は己の失言を恥じ、閣議室からそそくさと出て行った。
「ミズキ、必ず助けるから、待っていろ。」
ブタペストとサラエボで起こった事件の映像は瞬く間に全世界に配信され、人々はパソコンの前から釘づけになった。
それと同時に、バルカン内戦によるハプスブルク帝国軍の残虐行為がネット上で明らかとなった。
二つの異なる地で起きた事件は、世界中に大きな波紋を広げることとなった。
「ルドルフ兄様は、どうするつもりなんだろう?」
フランツ=サルヴァトールはそう言ってヴァレリーを見ると、彼女は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「どうして義姉上様やお兄様がこんな目に遭わなくてはいけないの? 義姉上様が可哀想・・」
「大丈夫だよ、ヴァレリー。3人はきっと無事に帰ってくるよ。」
フランツはそっと妻の震える肩を抱くと、彼女は自分の腕の中で激しくしゃくり上げた。
その頃瑞姫は、全身の痛みで呻きながら目を開けると、そこにはシャルルが自分の顔を心配そうに覗きこんでいた。
「傷の手当てを致します。」
彼はそう言うと、瑞姫の両手首を縛めていた手錠を外した。
その隙を狙った瑞姫は、彼の股間に見事な膝蹴りを食らわせ、彼が悲鳴を上げて痛みに悶えている隙に脱兎の如く部屋から飛び出した。
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