9月下旬、遼太郎達はいつも元気良く学校で遊んでいた。
しかし隼は相変わらずクラスで孤立しており、皆彼のことを気に留めることもしなかった。
そんなある日の事、遼太郎はルドルフから腕時計をプレゼントされた。
「これ、前から欲しかったやつなんだ、ありがとう父上!」
「失くさないようにするんだぞ。」
遼太郎は右腕に腕時計を巻くと、それを嬉しそうに何度も飽きずに眺めていた。
翌日、彼は学校にその腕時計をつけて登校した。
「ねぇ、それどうしたの?」
「父上がくれたんだ。前から欲しかったやつ。」
「へぇいいなぁ~、僕の父さんはケチだから買ってくれないんだ。」
ヤンネは羨ましそうに言うと、溜息を吐いた。
「ねぇヤンネ、お誕生日にゲーム機買って貰ったって言ってたじゃない? あれ、どうしたの?」
ヤンネが父親から買って貰った小型ゲーム機を自慢げに遼太郎達に見せたのは、先週月曜日の事だった。
「ああ、あれ、誰かに盗まれちゃったんだ。放課後ゲーム機を置いてトイレに行って戻ったらなくなってたんだ。」
「そう・・出てくるといいね。」
「うん・・一応先生達にも話したし、紛失届も出したんだ。早く見つかるといいなぁ。」
そんな2人の会話を、隼が密かに聞き耳を立てていた。
体育の授業の後、遼太郎が更衣室へと入ってロッカーを開けると、そこには置いておいた筈の腕時計がなかった。
もしかしてうっかり何処かに置き忘れたのかもしれないと思い、彼は体育館やトイレまで探したが、腕時計は見つからなかった。
「リョータロウ、どうしたの?」
「腕時計が・・ロッカーに入れてあった腕時計がないんだ!」
すぐさまロッカーに教師達がやって来て、遼太郎達から事情を聞いた。
「本当にここに置いたのね?」
「はい、間違いありません。でも授業が終わってロッカーを見たらなくて・・」
「そう。じゃぁお家の方に連絡しますから、あなたは教室で待っていなさい。」
「はい、シスター。」
放課後、遼太郎は心細い思いで教室で両親が迎えに来るのを待っていた。
(父上に腕時計失くしたことを何て言おう・・)
1日しか経っていないのに、腕時計を失くしたなんて知られたら、父は怒るに違いない。
遼太郎が溜息を吐いていると、廊下でシスターと父の話し声が聞こえた。
「リョータロウ、遅くなってごめんね。」
「父上、わたし・・」
遼太郎はルドルフに腕時計を紛失したことを謝ろうとした時、彼はぎゅっと遼太郎を抱きしめた。
「シスターから全部聞いたよ。リョータロウは何も悪くない、悪いのは腕時計を盗んだ犯人だ。」
「父上・・」
ルドルフに抱き締められ、遼太郎は堰を切ったように泣き始めた。
「そうですか・・そんな事が・・」
「ああ。窃盗事件の犯人はまだ目星がついていないそうだ。」
その夜、ルドルフは瑞姫に事件の事を話した。
「一体誰なんでしょうね?」
「さぁ・・せめて犯人が罪の意識を感じて、盗品を元の持ち主に返してくれるといいがね。」
ルドルフはそう言って溜息を吐いた。
隼はベッドの上に寝転がりながら、ヤンネのゲーム機で遊んでいた。
まだ学校の奴らは自分が犯人だと気づいていない。
遼太郎も今頃泣いているだろう。
人の物を盗んだのに、何故か隼は罪の意識を感じなかった。
誰も自分を疑わないのだと、彼はたかをくくっていた。
(みんな苦しめばいいんだ。)
窃盗事件が2件も立て続けに起きたので、緊急の役員会が開かれることとなり、瑞姫とルドルフを含む役員が出席した。
そこには、香帆子の姿があった。
「今回の事件は由々しきことです。一刻も早く犯人を捕まえなければなりません。」
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