JEWEL

2011/07/23(土)16:37

Ti Amo 第20話:舞姫

連載小説:Ti Amo(115)

柚葉と遥が入内して半年が過ぎ、京に冬が訪れた。 灑実に拉致され、燃え盛る藤原邸から逃げだした柚葉は、あの後高熱を出して寝込んでいた。 藤原邸はあの火事で半焼し、彩加は大火傷を負った父親の看病のため、里帰りした。 同じく火事で火傷を負った灑実は、自宅で療養していた。 (おのれ・・よくもわたしを傷つけたな・・) 痛々しい火傷の痕が残る右腕を見ながら、灑実は柚葉へ復讐を誓った。 柚葉を罪人に仕立てた弘?殿女御だけが得をしていた。 (愚かな者どもじゃ。欲に目を眩ませ、私利私欲で動くから痛い目を見るのじゃ。) 總子はフッと口端死をを歪ませながら笑みを浮かべた。 (あの柚葉という姫、なんとかせねば・・帝の寵姫である妾の地位をいつ脅かすとも限らぬからな。) 總子が次の企みを巡らせている時、柚葉は自宅で療養していた。 半年前の藤原邸を脱出した際に背中に負った火傷は完全に癒えたが、灑実にかけられた呪は今も柚葉を苦しませており、時折体調を崩すことがあった。 「柚葉、入るぞ。」 頼篤はそう言って柚葉に微笑んだ。 「傷の具合はどうだ?体調を崩しているときくが・・」 「もう大丈夫です、兄上。ご心配をおかけして申し訳ありません。」 「謝らなくてよい。それよりも柚葉、お前はこれからどうするのだ?宮中に戻るのか?」 頼篤の言葉に、柚葉は静かに頷いた。 「何故だ、何故あんな女の元に仕えようと思うのだ?お前はあの女の所為で濡れ衣を着せられ、酷い目に遭わされたのだぞ!?それなのに宮中に再び上がるなど・・」 いつもは温厚な兄が激しい口調で捲し立てるを見て、柚葉は呆然と兄を見ていた。 「宮中になど行くな、柚葉!わたしはお前のことを愛している!」 頼篤はそう叫んで、柚葉を抱き締めた。 「兄上・・?」 一瞬何が起きたのかわからず、柚葉は動揺した。 「お離しください、兄上。私は・・」 「嫌だ、離すものか!お前をこのまま離したら、お前が遠くに行ってしまうような気がしてならぬ。」 頼篤は柚葉の顎を掴んで、柚葉の唇を塞ごうとした。 だが我に返った彼は、柚葉を突き飛ばした。 「すまぬ・・わたしというものが、何ということを・・」 「兄上・・一体どうなされたんですか?」 柚葉の問いに、頼篤は俯いて何も答えず、部屋から出て行った。 それから数日後、柚葉は再び宮中へと上がった。 「ほら御覧なさい、山野裏様のところの・・」 「鬼姫・・」 「どの面下げてまたここに来る気になったのかしら?」 「厚かましいにもほどがあるわ・・」 ヒソヒソと囁く女達の声を無視して、柚葉は弘?殿へと入った。 「柚葉、久しいのう。背中の傷はもう治ったのか?」 總子はそう言って柚葉を見た。 「はい。」 「早速だが、宮中で雪見の宴が近々あることはお前も知っておろう?」 總子は挑むような目で柚葉を見ながら言った。 「ええ・・それが何か?」 「宴では古き良き天平の舞姫としてお前に舞を舞ってもらいたいのじゃが、無理か?」 「天平の舞姫、でございますか?わたくしにそのような大変なお役目が務まりますかどうか不安ではございますが、承りました。」 柚葉はそう言って總子に頭を下げた。 「そうか・・では稽古に精進するがよい。」 總子は悔しそうに口端を歪めながら、柚葉を睨んだ。 「柚葉様、いいのですか?これは罠かもしれませぬのに。」 綏那はそう言って心配そうに柚葉を見た。 「人前で俺に恥をかかせようっていう魂胆だろ?だとしたら俺がその魂胆とやらを打ち砕いてやる。綏那、俺はこれから稽古に行くぞ。」 「ですが姫様・・」 「舞うと決めた以上、美しく完璧な舞をあの女に見せつけてやらないと。」 それから柚葉は、桐壷の庭で毎日夜遅くまで稽古に励んだ。 雪見の宴は、宮中で華々しく開かれた。 山野裏の“鬼姫”が舞を舞うということがあっという間に宮中に広まり、それ見たさに多くの公達が庭がよく見える欄干を埋め尽くし、女達は御簾の奥で柚葉への陰口を叩いていた。 「女御様、あの鬼姫が舞など舞えるのかしら?」 「鬼姫が大恥を掻くところをとことん見物いたしましょう、女御様。」 「ああ・・」 總子はそう言って庭を見た。 庭は数日前から降り続いた雪で美しく純白に彩られ、色鮮やかな天平衣裳を纏っている5人の舞姫達が際立って見えた。 その中でも一際目立っているのは、翡翠の襦裾(ころも)を纏い、結いあげた金色の髪に真珠の釵(かんざし)を挿した柚葉だった。 雅楽の音に合わせて、雪で彩られた庭で舞い踊る天平の舞姫達の色鮮やかな袖がひらひらと空を舞う。 柚葉が舞など舞えるはずがないと思い、たかをくくっていた總子とその女房達は悔しそうに柚葉の舞を見ていた。 公達は柚葉の美しさにほうっと溜息を吐いた。 その中の1人、藤原国葦は、庭で美しく艶やかに舞う柚葉を見ていた。 彼の脳裏に、去年の夏水浴びしていた柚葉の姿が浮かんだ。 今舞っている柚葉の姿は、天女そのものだった。 (運命の巡りあわせなのかもしれない・・彼女と出逢ったのは・・) 国葦は溜息を吐いた。 「柚葉・・」 頼篤は複雑な想いを抱えながら柚葉の舞を見ていた。 「柚葉・・」 頼篤はチラリと柚葉をじっと見つめている帝を見た。 帝は柚葉を自分のものにしようとするだろう。 その時、自分はどうしたらいいのだろう? にほんブログ村

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