英人はしばらく椿屋の焼け跡に佇んでいた。
その目はうつろで、手は何かを夢中に探していた。
「英人・・」
鈴は英人とともに焼け跡の中を探した。
やがて英人は薄紅色の櫛を見つけた。
それは地獄の炎の中でも、無傷であった。
「みつさん・・ごめん・・」
英人はそう言って櫛を握り締めた。
「帰ろう、英人。」
英人は涙を流して、鈴の肩に寄りかかった。
「英人・・」
鈴は優しく英人の髪を撫でた。
「これでお前の居場所はもうないな。」
声がして2人が振り向くと、そこには腕を組んで満足げな貴が立っていた。
「貴・・もしかして・・」
「そうさ。俺が土方さんにここを教えたんだ。こいつを殺すために。」
貴の指が、鈴の肩によりかかってうつむいている英人を指した。
「こいつは俺達を裏切った。俺達を騙した薄汚い狼だ!」
「貴、やめろ!一体どうしちまったんだよ、お前!?」
鈴は貴の両肩を掴んで揺さぶった。
「鈴、お前が悪いんだぞ・・そいつと仲良くなんてするから!敵と仲良くなんてするから!」
「・・くも・・よくも・・みんなを・・」
英人は貴に突進し、彼の頬をこぶしで殴った。
貴はよろめき、地面に倒れた。
英人は馬乗りになり、貴の顔を何度も殴った。
「英人、やめろ!」
鈴はそう言って必死に英人を止めたが、英人は自分の気が済むまで貴を殴った。
「どこ行くんだ、英人?」
貴をさんざんぶちのめした英人は立ち上がった。
「鈴、お前とはもうお別れだ。俺達は敵同士。俺と一緒にいたら不幸になるだけだ。」
英人はそう言って鳥の簪を懐から出し、鈴に渡して椿屋を去った。
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