誠をぶってしまってから、総司は彼と会話を交わすこともなく、それぞれの部屋に引き籠っていた。
総司は溜息を吐きながら、ブログに育児の悩みを綴った。
思えば、父親としてまだまだ未熟なところがある。
誠が生まれる前までは、ただの普通の高校生で、部活や勉強に忙しい毎日を送っていた。
その頃から子ども好きだったが、家庭科の授業の一環として保育園や幼稚園で乳幼児と触れあうのと、父親として子育てに携わるのとは次元が全く違う。
(僕は、父親としての資格がないんじゃないか・・)
誠とどう接したらいいのかわからないまま、時間は刻々と過ぎていった。
「土方さん、入りますよ。」
「ああ・・」
鴾和総合病院産婦人科医・鴾和香は、個室に入院している歳三の元を訪れた。
「もう感染症の恐れもありませんので、あと数日後には退院できますね。」
「そうですか。先生、今後は妊娠できますかね?」
「大丈夫ですよ。それよりも土方さん、ご主人の事なのですが・・」
香はそう言って、備え付けのパイプ椅子に腰を下ろした。
「どうやら最近、息子さんとの接し方に悩まれているようなのです。」
「総司が?」
歳三がそう言って香を見ると、彼は静かに頷いた。
「ええ。彼のブログを偶然発見しましてね、父親として自信が持てないと、育児の悩みを綴ってましたよ。」
そういえば、総司は歳三にブログを始めたとか言ったことを彼女は急に思い出した。
『ブログねぇ・・最近は変な奴が居るからな、個人情報は出来るだけ晒すなよ。』
『大丈夫ですって。』
そう言って嬉しそうにブログを見せる総司が、今どんな事をブログに綴っているのか気になった。
「確か彼は、子ども好きだと聞きました。将来保育士になりたいと。」
「ええ。あいつはぁよく学校の帰りに近所のガキどもと遊んでるところを見ましたが・・どうして先生がそれを?」
「いえね、その子ども達の中にわたしの娘もいまして。色々と教えてくれたんですよ。」
「へぇ、そうですか。」
理事長の息子で腕利きの医師だと聞いていた香に、歳三は親近感を持った。
「・・総司が、こんなに悩んでいたなんて知らなかった。」
総司のブログを読み終わった歳三は、手の甲で涙を拭った。
「まだご主人は若いし、園児達と接するのと我が子と接するのとは次元が違う。それにあなたが不在ということで、誠君は精神的に不安定になっている。孤立したご主人は、今色々と思い悩んでいることなんでしょうね。」
「そうか・・先生、俺は一体どうすれば?」
「これを見てください。」
香が総司のブログを指すと、育児に関する記事のコメント欄には、同じ悩みを持つ親達からの励ましや助言のコメントが寄せられていた。
「はじめから完璧な親などいません。土方さん、あなたの事は色々と存じておりますが、あなたの御家族とご自身の健康を第一に考えてください。外からの雑音は、一切耳に入れないようにしてください。」
「はい、ありがとうございました先生。」
「いえいえ。ではわたしはこれで。」
香は端正な美貌に朗らかな笑みを浮かべて、病室から出ていった。
一方、瑠璃は二人の兄、良治と宣孝に会っていた。
「その女は確かに藤原家の娘なのか?」
「ええ。歳三さんは、紛れもなく藤原家の娘です。あなた方は藤原家を出た身。父に万が一の事があった場合、わたくしと歳三さんが対応致します。」
「瑠璃、お前がそう言うのなら父上の事はお前に任すが・・歳三とかいう女は信用ならん。」
「まぁ、証拠ならここにありますわ。」
瑠璃はそう言って、兄達に一臣と歳三のDNA鑑定の結果を見せた。
「全く、困ったことになったな。」
「本当だ、瑠璃、あの男は?」
「完全に縁を切りました。でも戦いはこれからですわ。」
瑠璃は深い溜息を吐くと、窓から月を眺めた。
明日から、激しい戦いが始まる。
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Last updated
2012.04.11 22:57:55
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