朝日を浴びながら、歳三は会津若松市内を走っていた。
朝の澄んだ空気は気持ち良く、満開の桜が春の訪れを告げていた。
(東京と違って空気がいいな・・)
歳三がランニングを終えて家の中へと入ろうとすると、山久家のドアが開く音がした。
彼女が振り向くと、そこにはじっとこちらを見つめている亮子の姿があった。
「おはようございます。」
歳三が彼女に挨拶すると、彼女は返事もせずに家の中へと引っ込んでいった。
(何だ、あれ。感じ悪ぃな。)
昨夜の事を少し引き摺っていた歳三は、亮子の態度にカチンときた。
「土方さん、どうしたんですか?そんなに怖い顔して?」
「え?」
リビングに入ると、総司が朝食をダイニングテーブルの上に並べていた。
「いや、山久さんに挨拶したら、無視されちまってよ。昨夜の事が原因なのかなぁ。」
「考え過ぎですよ。」
総司と誠が学校に行った後、歳三は新聞の求人案内に目を通していたが、なかなか良い条件のものがなかった。
この際専業主婦になろうかと彼女が思っていた時、玄関のドアが激しく叩かれた。
(誰だ、こんな朝早くに?)
もしかしたら強盗かもしれない―歳三は愛用の木刀を握り締め、玄関のドアを開けた。
するとそこには、山下夫妻が立っていた。
「あ、おはようございます・・」
「おはよう。」
慌てて振り翳した木刀を下ろした歳三に、彼らはにこにこと微笑んでいた。
「あの、お茶でもいかがですか?バタバタしていて散らかっていますが・・」
「そう。じゃぁお言葉に甘えて。」
彼らをリビングに通し、キッチンで茶を淹れていると、美津子がテレビの近くに飾られている写真立てを取った。
「あなた、剣道していらしたの?」
「ええ、学生の頃に。憂さ晴らしには最適かと思って始めたんですが、面白くて嵌ってしまったんです。」
「まぁ、そうなの。あのね土方さん、突然の事で申し訳ないのだけれど、あなたに剣道教室のコーチをして貰いたいのよ。」
「俺が、剣道教室のコーチですか?」
「そう。毎週火曜と木曜の週2回に、春日野小学校の体育館であるんだけど・・今人手不足でね。有段者の方に来て貰えば助かると思ったのよ。」
美津子はそう言うと、剣道教室のパンフレットを見せた。
(ふぅん、面白そうじゃねぇか。)
「解りました、やらせていただきます。」
「そう、助かったわ。」
その後は山下夫妻とおしゃべりをして、夕飯の食材を買いにスーパーへと車を走らせた。
就業を知らせるチャイムが鳴り、総司は凝った肩を回しながら職員室の椅子から立ち上がった。
「沖田先生、ちょっといいですか?」
「なんでしょう?」
教頭の石田に手招きされ、総司が彼を見ると、石田は剣道教室のパンフレットを彼に手渡した。
「君、剣道の有段者だよね?」
「はい、そうですけど・・それが何か?」
「忙しいのに悪いんだけど、剣道教室のコーチをしてくれないかな?」
「コーチ、ですか?」
「人手が足りなくてね、頼むよ。」
顔の前で手を合わせる教頭の頼みに、総司は断れなかった。
剣道教室初日、春日野小学校の体育館は、小学1年から3年生の低学年の児童が集まり、賑わっていた。
「総司・・」
「土方さん、何でここに?」
「僕もコーチなんですけど。」
道着姿の総司と歳三は、互いに顔を見合わせて笑った。
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Last updated
2012.04.11 23:08:28
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