4年振りにアメリカから帰国したかと思ったら、急にお腹の大きい白人女性を連れて来た息子の言葉に、歳三と千尋は余りにも驚いて言葉が出なかった。
「どういうことなの、ちゃんと説明して頂戴!」
「お前、留学中に女を孕ませて結婚しただと?それを報告する為に帰国したってのか!」
怒り狂う両親を前に、総司は妻・アビーの存在を彼らが快く思っていないことに気づいた。
「解ったよ、ちゃんと説明するよ。」
場所を玄関ホールからリビングに移し、総司は妻の隣に腰を下ろし、彼女との出逢いから結婚に至るまでの経緯を話した。
総司とアビーが知り合ったのは、総司が大学3年の時にアルバイトしていたカフェで、アビーがコーヒーのおかわりを頼むついでに彼に話しかけてきたことが始まりだった。
当時彼女は大学を卒業し、大手新聞社の花形記者として活躍していて、総司が父の会社を継ぐために大学で経済学を専攻していることを話すと、アビーは『是非あなたの家族の事を知りたい』と言われ、時々2人きりで会うようになった。
やがて彼女と意気投合し、恋人として付き合うようになった。
そろそろ結婚しようという時期に差し掛かり、アビーの妊娠が判った。
彼女の両親に挨拶を済ませ、総司はアビーと小さな教会で結婚式を挙げた。
そして自分の両親に彼女を紹介する為に帰国したという。
「そうなの。じゃぁこれからどうするの?」
「どうするって、向こうのご両親と暮らすよ。本当ならここで一緒に暮らしたいんだけれど、彼女が慣れない土地で暮らすのは嫌だって言うから・・」
「全く、久しぶりに帰ってきたと思えば、年上の女の尻に敷かれるだなんて・・わたくし、あなたの亡くなられたお母様にどう顔向けしたらいいのか解らないわ!」
千尋はそう叫ぶなり、溜息を吐いた。
『ソウジ、どうしたの?』
隣で総司と両親の会話を聞いていたアビーが、にこにこしながら夫を見た。
どうやらこの緊迫とした雰囲気に彼女は気づいていないらしい。
『アビーさんとおっしゃったわね?うちの総司は将来、この土方家を継ぐ長男なんですのよ。あなたの勝手な都合で大事な長男である総司をアメリカに連れて行くなんて、わたくしは認めませんからね。』
千尋がそう言ってアビーに英語で食ってかかると、彼女も切り口上で言い返してきた。
『家族とともにいることが、何が悪いんです?それにソウジは友人も家族も居ない日本でわたしが出産するのは心細いだろうからと、納得してくれたんですよ!』
『あら、それはどうかしら?あなた、上手く総司を丸めこんだのではなくて?』
『どうしてそのような言い方をなさるんです?わたしの何処が気に入らないんですか?』
『あなたの全てよ!年上だということ自体気に入らないのに、嫁の両親と同居だなんて!長男の嫁は夫の両親と同居する事が当たり前なのよ!』
『アメリカでは妻や夫の両親の家とは互いに行き来します。それが普通です!』
『あら、ここは日本です!“郷に入っては郷に従え”という言葉を知らないの?あなたはそれでも新聞記者なの?』
女同士が繰り広げる激しい言い争いに、総司と歳三は口を挟む余地がなかった。
『とにかく、総司をあちらへ連れて行くのなら、今後一切連絡してこないで頂戴ね!今日限り、あなた方とは縁を切ります!』
千尋はソファから立ち上がると、リビングから出て行った。
「これからどうなるのかしら?」
椿は斎藤に着替えを手伝って貰いながら、真新しいドレスを着て鏡の前で一周した。
「さぁ、それは旦那様と奥様がお決めになることです。それよりも今夜の舞踏会、楽しんで来てくださいね。」
「ええ。」
椿は斎藤にそう言って笑うと、意気揚々と部屋から出て行った。
「椿、舞踏会楽しんでいらっしゃい。」
「ええ、解ったわ。お兄様は?」
「さぁね。あの女とホテルに泊まってますよ。まぁ会うつもりもないけれど。」
「お母様・・」
「お兄様の事よりも、自分の事を心配なさい。」
千尋は椿に笑顔を浮かべたが、目が笑っていないことに彼女は気づいていた。
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Last updated
2016.05.26 14:47:28
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