尾張を出てから3ヶ月がたち、美津達は瀬戸内の宿で休みを取っていた。
人であれば天草まで1年くらいかかるであろう道のりを、鬼である3人は休みを取らずにここまでやってきた。
だが眠りの時期を迎えようとしている美津の体力の消耗が激しく、瀬戸内に入ったところで四郎とエーリッヒも疲れを感じてきたので、宿で休みを取ることにしたのだ。
「姫様は?」
「寝ておられる。ここまでの道のりを休みなしで歩いてきたゆえ、疲れたのでしょうな。」
そう言って四郎は美津の頭を優しく撫でた。
「お前は姫様一筋だな。」
「ああ、姫様と会えたことで私はここにいるのだから。」
四郎はそう言って胸を押さえる。
「どうした?」
「いや、なんでもない・・風呂に入ってくる。」
四郎はそう言って部屋を出た。
夜中過ぎだからか、大浴場には誰もいない。
四郎はゆっくりと湯船に浸かり、旅の疲れを癒した。
3ヶ月前、四郎と美津は全てを失った。
自分を無償の愛を与えてくれた家族。
幸せで平凡な毎日。
そして、ゆっくりと流れる時間。
だが戦が起き、美津は両親を、四郎は両親と兄弟達を亡くした。
明かされた衝撃の真実は、四郎に呪いをかけた。
四郎はそっと、胸に刻まれた十字の傷に触れた。
鬼神につけられた、のろい。
美津との間に子ができぬ呪い。
いつか美津と所帯を持ち、家族を作れると思っていた四郎は、鬼神にのろいをかけられ、絶望の淵に沈んだ。
美津のことをいつも想い、愛していたのに、美津との間に愛の結晶ができないとは、四郎にとってはなんとも辛いことであった。
子が成せぬのなら、美津の傍にいて、彼女を一生守ろう。
それがいま、自分にできることだから。
四郎はそう決意し、湯船から上がった。
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Last updated
2012.04.01 21:09:08
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