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JEWEL

2012.02.28
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「何故、縁談を断るとおっしゃるのですか?やはりご両親がいらっしゃらないことで負い目が・・」
「いいえ、そうではないのです。わたしには、想っておられる方がいるのです。」

美津はそう言って愛五郎を見た。

「その方は我が家で父が下働きとして雇った方で、大変賢くて槍の遣い手で、何よりもわたしと分け隔てなく接してくれる方でした。わたしはその方を今もお慕いしておりますし、その方もわたしを大切にしてくださいます。ですから、申し訳ありませんが・・」
「わかりました。あなたにそういう方が既にいらっしゃるのであれば、母に無理を言ってあなたに縁談など持ち込むべきではありませんでした。では、これにて失礼いたします。」
川松はそう言って美津に頭を下げ、ゆっくりと部屋を出て行った。
(これでいいんだわ・・だってわたしは、四郎が好きなんですもの・・いいえ、彼を愛している・・)
部屋を出た川松は、別室で待っていた母にこの縁談は白紙に戻す旨を伝えた。
「それはまことですか、愛五郎?お前はそれでよいのですか?」
幾は眉間に皺を寄せながら息子を見た。
「ええ、わたくしはいささか妻を娶ることに急ぎ過ぎていたのかもしれません。国に戻り、磯村様の事は綺麗さっぱり忘れます。」
「なれど、磯村様はお前が妻にと決めた相手ではありませぬか。それをあっさりと断るなど・・母は納得がゆきませぬ!」
幾は足音も荒く料亭を出て行った。
(母上が何かしでかさなければよいが・・)
見合いを終えて屯所に戻った美津は、四郎に川松との事を全て話した。
「先方は分かっていただけましたか・・それはよかったですね、姫様。」
槍の手入れをしながら、四郎はそう言って安堵の溜息を吐いた。
「あんまり悪い方ではなかったわ。真面目で優しそうで・・でもあの方にはわたし以外の方と幸せになった方がいいわ・・だってわたしは・・」
「それ以上はおっしゃらないでください、姫様。いつか幸せになりましょう。」
「そうね・・いつか、お前と2人で幸せに・・」
美津の脳裏に、これまでの辛い記憶が浮かんできた。
行く先々で自分達の正体に気付いた者達は、一斉に背を向けて逃げ、一部の者は罵詈雑言を浴びせてきた。
何処に居ても、自分達は人とは相容れない存在だと気付いたのは、もう昔の事。
次第にその事に慣れきっている筈なのに、認めたくない自分が居る・・。
「姫様・・」
涙ぐむ美津を、四郎が慰めるかのように彼女の身体をギュっと優しく抱き締めた。
「四郎、ありがとう・・」
翌晩、美津達は巡察に出ていた。
「姫様、何か妙な気配がいたします。」
エーリッヒが暗闇に潜む何かを見つけ、眉間に皺を寄せた。
「もしかして、あいつらかも・・」
美津がそう言って背後を振り返った瞬間、前方で悲鳴がした。
「行くわよ!」
悲鳴がした方向へと向かうと、そこには全身血塗れとなって倒れている幾の姿があった。
「この人、昨日会った・・どうしてこんな・・」
幾の遺体に近寄った美津の耳に、獣の唸り声が聞こえてきた。
「姫様、あれをっ!」
エーリッヒの声で、美津は屋根の上を見た。
そこには、馬位の大きさをした一匹の狼が、黄金色の瞳をぎらつかせながら美津達を睨んでいた。
「あれはどう見ても、この世のものではなさそうね・・」
「ええ・・」

狼は涎を垂らし、暫く辺りを睥睨していたが、巨体を躍らせて屋根の上から跳躍し、美津達に飛びかかって来た。






Last updated  2012.04.01 22:32:23
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