「父ちゃん、何も心配すっこたねぇから。叔母さん達にはよくしてもらってっから。父ちゃん、余り無理しちゃ駄目だよ。」
週に一度、少女は福島に居る家族に電話を掛ける。
その時はこの地で滅多に話さない方言を話し、家族を想う。
「ん、じゃぁね。」
少女が携帯を閉じると、部屋の襖が開いて従姉が入って来た。
「電話?」
「うん。」
「ねぇあんた、いつまでここに居るの?早く出て行ってくれないと、部屋が狭くて仕方がないんだけど。」
突然やって来た厄介者を迷惑そうな顔をしながら、従姉はそう言い放つと少女を睨みつけた。
「そんな事言われても・・」
「こっちだって、ボランティアであんたをここに居させてる訳じゃないんだからね。ここで世話になる以上、家の仕事はやって貰うわよ。」
「はい・・」
学校では仲間外れにされ、親戚の家では年上の従姉に邪険にされる。
家族と離れただけでも苦しいのに、自分だけ邪険にされるという深い疎外感を味わい、少女はぐっと泣くのを堪えて唇を噛み締めた。
(我慢しないと・・)
そんなある日、彼女がいつものように放課後図書室に入ると、定期テスト前なのか、数人の生徒達がテーブルに座って勉強していた。
「あんたまだ福島に戻ってなかったの~?」
「ああ、福島に戻っても家が流されてないもんねぇ、可哀想~?」
目敏く少女の姿を見つけた同級生達が彼女の前に立ちふさがり、心ない言葉を彼女に容赦なく投げつける。
(あんたらに何がわかるっていうの。好きで家が流されたんじゃないのに!)
「うるさい・・あんたらに何がわかんのよ!」
少女がそう叫んだ瞬間、彼女の中で燻っていた怒りの炎が爆発した。
「愛媛の中学校で、爆発があったらしい。」
朝刊を読んでいた課長がそう言って直輝を手招きした。
「もしかして、騰蛇が?」
「死亡したのはテスト勉強をしていた数人の女子中学生。現場は図書室で、炎の勢いが激しくて、消防隊も手の施しようがなかったようだ。」
「愛媛に行ってきます。」
「すまないな、まだ本調子じゃないというのに・・」
「いえ、いいんです。騰蛇の暴走を、わたしが止めないと。」
退院してから数日も経たぬ内に、直輝は愛媛へと向かった。
空港から片道4時間半かけて、現場の中学校へと彼が到着すると、そこはマスコミが殺到していた。
「校長、何かひとことお願い致します!」
「死亡した少女がいじめを受けていたのは事実でしょうか?」
「校長!」
詰め寄るマスコミから逃げるようにして、胡麻塩頭の男性が車を発進させて学校から離れていった。
「課長、現場にはマスコミが殺到しています。これから死亡した少女の親戚宅へと向かいます。」
『解った、そうしてくれ。』
学校から離れ、直輝が死亡した少女・神崎千尋の親戚宅へと向かうと、そこにもマスコミが殺到しており、玄関は堅く閉ざされていた。
「あの、ご親戚の方でしょうか?」
「いいえ、違います。」
直輝はそう言って玄関のチャイムを鳴らすと、玄関から女性が出てきた。
「何でしょうか?」
「わたくし、こういう者です。」
直輝が警察手帳を見せると、女性は溜息を吐いて彼を中に招き入れた。
「千尋さんの部屋は?」
「廊下の突き当たりです。」
「ありがとうございました。」
直輝が千尋の部屋に入ると、そこには携帯を片手に1人の少女がジュースを飲んでいた。
「あんた、誰?」
「警察の方だよ。千尋の事を調べに来たんだってさ。」
女性がそう言うと、少女は鼻を鳴らして直輝を見た。
「あいつ、何かやったの?」
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