2016/05/08(日)20:57
麗しき皇太子妃 第30話:過保護な夫
「ミズキ、おはよう。」
瑞姫が目を開けると、朝食のトレイを載せたワゴンを押しながら、ルドルフが寝室へと入って
来た。
「ルドルフ様、そんな事なさらなくてもいいのに・・」
「わたしがしたいのだから、良いだろう? つわりはどうなの?」
「少しマシになりました。」
「そう・・」
ルドルフはそう言うと、寝台の端に腰掛けると、オムレツをフォークで一口大に切って瑞姫の口元に持ってきた。
「はい、あ~ん。」
「ルドルフ様、自分で食べますから・・」
「いいから、あ~ん。」
瑞姫は仕方無く、オムレツを食べた。
「今日講義はあるのか?」
「ええ、それに声楽のレッスンもあります。」
「そうか。余り無理しないようにな。」
「はい・・」
ルドルフは瑞姫が朝食を食べ終えると、嬉々としながらワゴンを押して部屋から出て行った。
(わたしの事を気に掛けてくれるのは嬉しいんだけれど、少し過保護かなぁ・・)
瑞姫は身支度を終えて部屋を出ると、ルドルフが部屋の外で待っていた。
「ルドルフ様、どうなさったんですか?」
「大学まで送ってやろう。」
「そんな、いいです。大学まで歩けばすぐですし・・」
「駄目だ、途中で事故にでも遭ったらどうする? いつも最悪の事態を想定しなくてはいけないよ、ミズキ。」
ルドルフに半ば押し切られるようなかたちで、彼が運転するポルシェで大学まで送って貰った瑞姫だったが、正門の前に着くとそこには既に人だかりが出来ていた。
「じゃぁ、行ってきます。」
「ミズキ、気をつけるんだよ。無理はしないこと。」
「解りました。」
ルドルフとキスを交わすと、瑞姫は正門の中へと入って行った。
「おはよう、ミズキ。ルドルフ様に送って貰ったの?」
「ええ。最近ルドルフ様、少し過保護かなぁと思う時があるのよ。ちょっとした距離を歩くだけなのにお姫様抱っこで移動したり、朝食をわざわざ食べさせてくれたり・・妊娠が判ってから毎日こうなの。」
「へぇ、そうなの。大変ね。」
「ええ。その事で今夜ルドルフ様と話してみようと思って・・」
瑞姫がそう言って講義が行われている教室へと入ると、そこには何故かルドルフの姿があった。
「ルドルフ様、どうしてこちらに?」
「どうしてって、君が心配だからに決まってるじゃないか、ミズキ。それに久しぶりに学生気分に浸りたくてね。」
「そうですか・・」
過保護な夫に、瑞姫は若干ひいていた。
昼休みになり、瑞姫はマリー達と行きつけのカフェへと向かおうとすると、ルドルフが嫌そうな顔をした。
「あの、ルドルフ様?」
「今日はミズキの為に弁当を作ったんだ。」
そう言いながらルドルフが瑞姫の前に置いたのは、風呂敷に包まれた重箱だった。
「ルドルフ様が、作られたんですか?」
「ああ。早起きするのは辛かったが、この弁当を君が食べてくれると思うと辛くはなかったよ。」
ルドルフはそう言うと、さっと椅子から立ち上がり、瑞姫の前に跪いた。
「あ、あのルドルフ様・・」
周りから注目を浴びた瑞姫は、羞恥で顔を赤くした。
「解りました、食べますから・・」
「良かった。」
重箱の蓋を開けると、そこには色とりどりのおかずが詰められていた。
「いただきます・・」
割り箸で卵焼きを挟んで口に運ぶと、余りの美味しさにほっぺたが落ちそうになった。