大蔵と歳三が出逢ったのは、彼女がまだ10代で中学に上がったばかりの頃だった。
その頃彼女はやたらと世間を舐め、煙草や酒を憶え、街に繰り出しては派手な喧嘩をしていきがっていたクソガキだった。
そんなある日、歳三は対立する不良グループのリーダー格に捕えられ、陵辱されようとした時に、たまたま通りかかった大蔵が彼女を助けてくれて以来、彼とは腹を割って話し合えるような仲になっていた。
「大蔵さん、あん頃の恩も返さねぇで、ホントすいません。」
「いや、いいんだよ。それよりもトシ、あの頃のお前ぇがもう先公とはな。全く、人生ってのはわからねぇもんだな。」
大蔵はそう言って豪快に笑った。
「大蔵さん、話ってなんですか?」
「トシ、お前が産んだガキ、今何処にいるか知ってるか?」
大蔵の言葉に、過去の苦い記憶が歳三の脳裡に甦った。
歳三が中学を中退し、学校にも行かずに派手に喧嘩を繰り返し、歓楽街の一角を取り仕切っていた歳三は、ある暴走族のリーダーと出逢い、酔った勢いで彼と寝た。
だがその時に妊娠してしまい、姉に内緒で中絶しようと思っていた歳三だったが結局バレ、彼女は17で未婚の母となった。
しかし未成年だった彼女には子どもを育てる金も気力もなく、子どもは生まれてすぐに養子に出された。
「ええ、憶えてますよ。」
「あのガキ、金持ちの清隆ってところに引き取られて幸せに暮らしてるってよ。」
「そうっすか。大蔵さん、どうして俺にそんな話を?」
「いやぁ、風の噂にお前ぇが生徒とデキちまったってのを聞いてよ。あん時みたいに下手してないかどうか、確かめたかったんだよ。」
「心配要りませんよ、避妊はちゃんとしてます。」
総司を手酷く振って以来、彼が部屋に来る事はないし、学校で擦れ違ったとしても彼は歳三と目を合わせようとはしない。
もう彼の心は自分から離れていったのだと、歳三はそう思い安心した。
あのまま関係を続けていれば、互いに傷つけあうことになるだろう。
「そうか・・それを聞いて安心したぜ。わざわざ引き留めて済まなかったな。」
「いえ、久しぶりに会って嬉しかったです。それじゃあ俺はこれで。」
歳三はそう言って大蔵の事務所を出た。
翌朝彼女が出勤すると、明らかに周囲の空気がどこか違うように感じた。
「土方先生、ちょっと来て下さい。」
「は、はい・・」
歳三が校長室に入ると、校長は溜息を吐いて来客用のソファに腰を下ろした。
「今朝、こんなものが掲示板に貼られていましてね。」
そう言って彼が見せてくれたのは、歳三と総司の情事を撮影した写真だった。
顔や局部にモザイク処理などされておらず、これを見た瞬間自分達の関係が露見してしまったことに歳三は気づいた。
「君が生徒とみだらな関係を持っていたことは・・」
「認めます。わたしは責任をもって退職致します。」
歳三はそう言うと、バッグの中から予め用意していた退職願を校長に差しだした。
「これからどうするのかね?」
「さぁ、わかりません。資格は色々と取っているんで、雇ってくれるところならどこでも行きます。短い間でしたが、お世話になりました。」
校長に頭を下げ、歳三は校長室から出て自分の机の私物を片付ける為に職員室へと向かった。
「信じられない、あんな事するなんて。」
「吉岡先生を誑かして・・」
「やっぱり元ヤンキーだったことはあるわね・・」
同僚達からの非難の視線と中傷の言葉を受けながら、歳三は黙々と私物を段ボールに詰めていた。
「土方さん!」
歳三が校門から出ようとした時、総司が追いかけて来るのが解った。
「総司・・」
「学校辞めるって本当ですか?」
「あぁ。元気でな。」
歳三は決して振り返って総司の顔を見ようとはしなかった。
そうすると、彼への未練が残ってしまうから。
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