2012/06/12(火)16:04
愛の欠片を探して 16
「どうした、千尋?何か元気ないぞ。」
「うん・・」
夏休みに入った頃、歳三が福岡に遊びに来た。
「通ってたサッカー教室、閉鎖されちゃったんだ。」
「そうか。それは残念だな。」
歳三はそう言うと、千尋を見た。
「なぁ千尋、俺暫くこっちに来れないと思うんだ。」
「え、何で?」
千尋がそう言って歳三を見ると、彼は溜息を吐いてこういった。
「実は・・両親が離婚するかもしれないんだ。」
「あんなに仲が良かったのに?」
千尋が覚えている限りでは、歳三の両親は仲睦まじかった。
それなのに、何故彼らが離婚することになってしまったのか、わけが解らなかった。
「何でも、父さんが他の女と浮気してたんだって。父さん、モテるからなぁ。」
「それで、トシ兄ちゃんはどうするの?」
「さぁ・・解らねぇ。まだ頭が混乱していて・・」
歳三はそう言うと、ゲームボーイをリュックの中から取り出し、スイッチを入れてゲームを始めた。
「ちょっと出かけてくるね。」
千尋は今、彼を一人にした方がいいと思い、歳三にそう声をかけると、家から出て行った。
(トシ兄ちゃんと、もう会えなくなっちゃうのかな・・)
家を出て自転車で近所を散歩していると、千尋は近くのゲームセンターで悟の姿を見つけた。
彼にはいろいろと嫌がらせをされていたので、千尋は彼とかかわりあいたくなかったので、ゲームセンターの前を急いで通り過ぎた。
「おう、誰かと思うたら千尋やないか?」
背後で突然声がしたかと思うと、千尋は誰かに髪を掴まれた。
彼女が振り向くと、そこには悟と同じ中学に通っている不良少年・西田が立っていた。
「何か?」
「何ね、そん口の利き方は?目上の者に対しての礼儀がなっとらん。」
西田はそう言うと、千尋を殴ろうと腕を振り上げた。
「千尋から離れろよ。」
反射的に目をつぶった千尋が聞いたのは、今まで一度も聞いたことのない歳三の声だった。
「何ね、お前には関係なか、引っ込んどれ!」
「千尋を放せって言ってんだよ!」
歳三は自分よりも背が高い西田にそういうなり、彼の向こう脛を蹴った。
「生意気なガキ!」
西田は獣のような唸り声を上げると、歳三の胸倉を掴んだ。
「こら、何しとるか!」
「ゲッ」
向こうの通りから男性がやってきたのを見た西田は、歳三を突き飛ばして脱兎のごとく逃げていった。
「坊や、怪我はないか?」
「はい。」
「トシ兄ちゃん、帰ろう。」
千尋はそう言うと歳三を助け起こし、男性に頭を下げた。
「助けてくれて、ありがとうございました。」
「こんなところに来たらいかんよ。悪い奴がおるから。」
男性は歳三たちにそう微笑むと、彼らの前から去っていった。
「ねぇトシ兄ちゃん、さっきのおじさん、かっこよかったね。」
「ふん、あんな野郎一人、倒せるぜ。千尋、もしかして俺よりもあのオッサンのほうが・・」
歳三がそう言うと、千尋は噴き出した。
「そんな嫉妬せんでもよか。ただお父さんが居たらあんな感じかなぁって。」
「ふぅん・・ならいいけどよ。」
歳三はこのとき、父親ほどの年齢の男性に対して軽く嫉妬してしまったことに後悔してしまった。
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