JEWEL

2012/06/30(土)16:58

宿命の皇子 暁の紋章◇第131話:真犯人は誰?(2)◇

完結済小説:宿命の皇子 暁の紋章(262)

白鳥宮の王宮庭園では、駐日大使・吉田輝信とローゼンシュルツ王室外務大臣が談笑していた。 「いやはや、我が国と貴国との国交が樹立されてもう120年ですか。」 「めでたいですなぁ。」 そう言いながら両国の官僚たちが談笑していると、振袖姿の聖良が庭園にやって来た。 「皆さん、本日はお忙しい中来ていただき、ありがとうございます。」 聖良がそう言って吉田達に頭を下げると、彼らは聖良の振袖姿に見惚れていた。 「ほう、本日お召しになられているお振袖が良くお似合いですね、セーラ様。」 「そうですか?余り着慣れていないものですから、粗相をしないかどうか心配で。」 聖良はすっかり会話の中心となり、外務省の職員は90人近いゲストを上手くあしらう彼の社交術に感心していた。 「セーラ様、宮廷生活はいかがですか?」 「そうですねぇ、派閥などもあって色々と慣れないことがありますが、上手くやっておりますよ。」 聖良がそう言った時、遠くで叫び声が聞こえた。 「何だ、今のは?」 「さぁ、お気にならさず。」 聖良はシャンパンを飲みながら客達と談笑していると、怒りで顔を赤くしたアドリアーノ=オージェが警備兵に拘束されていた。 「離せ、貴様ら!わたしはセーラ様に話があるのだ!」 「下がれ!」 「どうした?」 聖良の顔から笑顔が消え、彼は冷淡な口調で警備兵に尋ねた。 「申し訳ございませぬ、皇太子様。この者が勝手に庭園に入り込んでしまって・・」 「彼を離せ。アドリアーノ=オージェとやら、話を聞こうではないか。丁度お前に渡したいものがある。」 聖良は振袖の裾を器用に捌いて庭園から出て行った。 「それで、俺に話というのは?」 「皇太子様は、あの事件の犯人はわたしであると疑っていらっしゃるのですか?ならばとんでもない誤解です!わたしは、皇妃様を殺害しようとした男を知っております!」 「知っているだと?それは何処のどいつだ?」 「リヒトの中心部から外れたところに、貧民街がございます。そこにその男は潜んでおります!」 「貧民街、ねぇ・・俺はこの国の事は良く知らんが、庶民が苦しい生活を送っていることは把握している。それならば母上を殺害しようとしている犯人の目星がつくな。」 「では、今すぐ参りますか、貧民街へ?」 アドリアーノの瞳が、ぎらりと光った。 「いや、止めておこう。今日はめでたい日だ。俺は余り暇ではないのでな。」 聖良はソファから立ち上がると、部屋を出て行こうとした。 「ああ、忘れていた。これ、お前のものだろう?」 彼は去り際に時計をアドリアーノに渡すと、彼の顔が蒼褪めた。 「ど、何処でそれを・・」 「さぁな。」 聖良は口端を歪めて笑うと、客達が居る庭園へと戻っていった。 「くそ、あの野郎・・」 部屋に残されたアドリアーノは舌打ちしながら、苛立ち紛れにテーブルを拳で叩いた。 (世間知らずな外国人かと思っていたが、甘かった・・あいつに腕時計を拾われたなんて知られたら、父上からどんな目に遭うか・・) 聖良から腕時計を渡され、アドリアーノは少し焦り始めていた。 だがそれを彼に悟られてはいけない。 (あいつが気づく前に、証拠を消しておかなければ・・) アドリアーノは俯いていた顔を上げ、部屋から出ると廊下を歩き始めた。 王宮の裏口から出た彼が向かったのは、自分に繋がる証人―即ち皇妃襲撃の犯人である男が潜んでいる貧民街であった。 途中で服を着替え、貴族だと解らぬような服装をしたアドリアーノは、裏路地に充満する悪臭に吐き気を催しながらも、路地の奥へと進んでいった。 にほんブログ村

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