タンバレイン夫人が婦人会の会合に顔を出すため愛車を運転しながら町へと出ると、たちまち彼女の車をマスコミが取り囲んだ。
「退いてよ!」
まるでハエのようにまとわりつく彼らを、彼女はひき殺したい衝動にかられながらも、ハンドルを苛立だしげに叩くだけで終わった。
「遅くなってごめんなさいね。途中でパパラッチに会っちゃって。」
「まぁ、仕方ないわよ。今この町はあの事件で大騒ぎだったもの。」
婦人会のメンバーがいつものように紅茶を飲みながら刺繍をしていると、メンバーの一人がそう言って笑った。
どうやらタンバレイン家で起きた強盗事件は、彼女達の耳に既に入っていた。
狭い町で、善悪関係なく噂というものは瞬く間に野火のように町中に広がるものだ。
インターネットが普及した現代では、なおさらだ。
「あれは強盗が悪いのよ。」
「あら、あなた勘違いしていないこと?あの汚らわしい姦淫の館を経営していた悪魔が、殺されたのよ!」
「まぁ・・」
ラリーが殺されたことを聞き、タンバレイン夫人は思わず紅茶を刺繍布にぶちまけそうになった。
「それは、本当なの?」
「ええ。あの男の店の前に、パトカーが何台も停まっていたわ。ドラマとかで良く観る黄色い立ち入り禁止のテープなんかも張られてたわ。」
「どうして彼は殺されたのかしら?」
「そりゃぁ、あの男は色々と恨みを買っていたもの。それに男遊びも派手だったようだし。」
「へぇ・・」
会合からの帰り道、タンバレイン夫人はラリーの店の前を通ると、そこには黄色い立ち入り禁止テープが張られていた。
「ねぇ、いつまで観るの?」
「ここに関する下らないニュースが終わったらだ。」
「別に無理して観なくてもいいのに。」
ソファの前に座ってメロドラマの再放送に魅入るウォルフを見てアレックスが溜息を吐いていると、アーニーが部屋のドアをノックした。
「あのう・・警察の方がお見えです。」
「警察が?」
また事件のことを聞かれるのかとうんざりした表情を浮かべたウォルフは、漸くテレビを消し、一階のリビングへと降りていった。
「またお会いいたしましたね。」
そう言ったのは、ランシェード警察のパリス警部補はウォルフに微笑むと、太鼓腹を揺すり椅子から立ち上がった。
「またあんたか。強盗事件は正当防衛だと何度も・・」
「いいえ、今日は違う用件で来たんですよ。」
「違う用件だと?」
「ええ・・あなたのお友達・・『ジャーヘッド』の経営者・ラリーさんが昨夜何者かに殺害されました。」
「何だって!?」
ウォルフの眦がつりあがった。
「ラリーが殺されたって、本当なの?」
いつの間にかアレックスがルナを抱いてリビングに来ていた。
「ええ。昨夜21時過ぎに、何者かに後頭部を撃たれてテーブルに上半身をもたれかかるようにして倒れていました。今朝出勤してきた店の従業員が遺体を発見したそうです。」
「そんな・・」
ラリーが殺害されたことに、アレックスは俄かに信じられなかった。
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