「一体どうして、これが俺の車のボンネットに?」
「さぁ。多分犯人じゃないかな?それとも、他の誰かが。」
「そうか・・」
タンバレイン邸へと戻る車中で、アレックスとウォルフは一言も喋らなかった。
「さてと、起動してみるか。」
ウォルフは封筒からラップトップを取り出してそれを起動すると、そこにはアンディが言ったとおり、店の顧客情報が入っていた。
「犯人はこれを見て困る人物だったんだな。」
「そうかもね。この中に犯人が居るかも。」
アレックスはラップトップの前に座ると、マウスを動かしてファイルをひとつずつ開いた。
一つ目のファイルにはめぼしいものはなかった。
二つ目、三つ目のファイルも同様だった。
「う~ん、あんまりめぼしいものはないな。」
「そうか。」
アレックスはラップトップを閉じると、ベッドに入って眠った。
「お休み。」
ウォルフはそっとアレックスの耳元にそう囁くと、彼の頬にキスした。
再びタンバレイン邸を出たウォルフは、車で隣町のクラブへと向かった。
「よぉ、誰だと思ったらウォルフじゃねぇか?」
クラブの駐車場に車を停めていると、クラブのオーナー・アレンがウォルフに話しかけてきた。
「アレン、久しぶりだな。」
「ああ。それよりもこのあたりは最近物騒になってきたな。ラリーのことは聞いたぜ。」
「そのことで話があるんだ。」
「今客がひけたから、事務所で話そうぜ。」
「わかった。」
アレンとともに店の事務所へと入ったウォルフは、そこでラリーの紛失した黒いラップトップを見つけたことを彼に話した。
「多分誰かが置いていったんだろうよ。犯人はラリーを殺した後、そいつをどこかに捨てようとしたが処分に困って、あんたの車のボンネットにうっかり置き忘れちまった。」
「とんだ間抜けだな、その犯人は。一応中を調べたが、何もめぼしいものはなかった。」
「ラリーは用心深かったからなぁ。一番大事な情報はUSBメモリの中に入れてある。ご丁寧にパスワードでロックしてな。知っているのは俺と、本人だけさ。」
「それを俺に教えてはくれないのか?」
「あんたはラリーの友人だから、特別に教えておいてやるよ。」
アレンはそう言うと紙ナプキンにボールペンでUSBメモリのパスワードを教えた。
「ありがとう、アレン。じゃぁな。」
「気をつけろよ、ウォルフ。犯人は必ずお前を狙ってくる。」
「わかってるよ。」
(今は誰も信用できない・・そう、アレン、あんたもな。)
クラブの駐車場から車を出し、タンバレイン邸へと戻る車中でウォルフがラジオを付けると、丁度ラリーが殺されたことでDJがしゃべっていた。
「あいつは殺されて当然よ。この平和な田舎町に混沌と破壊をもたらした悪魔だもの・・」
“悪魔”という言葉を聞き、ウォルフは反射的に身を強張らせた。
信心深い住民が多いこの町では、自由奔放で同性とためらいなく肌を重ねるラリーの存在は疎ましかったに違いない。
彼を殺した犯人は、この町のどこかに住んでいる。
そして今、そいつは自分達を狙っているのだ。
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