2012/10/08(月)14:32
狼と少年 第43話
「どうしてこの人が、ラリー殺害に関わっているわけ?」
「それはな、これの所為だ。」
ウォルフはあるファイルをアレックスに見せた。
そこには麻薬の売買に関する極秘資料があり、取引にはジャックが関わっているものがあった。
「ラリーはひそかに、ジャックを脅迫してたんだろう。これを公にしたくなければ、お前とメグから手をひけと。」
「どうして、ラリーがそんなことを?」
「それは本人にしかわからないな。死人に口なしってやつだ。」
「そうか・・」
「とにかく、これは安全な場所に隠そう。タンバレイン家の者の目に見つからない内に。」
「そうだね。でも何処に?」
「銀行の貸金庫に入れておこう。」
二人はラリーのラップトップとUSBメモリを銀行の貸金庫へと預けた。
「大丈夫かなぁ?」
「大丈夫だ。貸金庫の鍵は俺とお前にしか開けられない。」
「そう、だったら安心だね。」
二人の会話は、ひそかに盗聴されていた。
「まさか、ラリーがあんなものを残すとはな。」
「ええ、失態でした。申し訳ありません・・」
「ふん、まぁいい。」
リムジンの中でジャックは、そう言って秘書をにらみつけた。
「いいか、あいつらを今晩中に始末しろ。失敗は許されんぞ!」
「御意。」
「よし、行け。俺の気が変わらぬうちに。」
慌ててリムジンから出て行く秘書の背中を睨みつけると、ジャックは忌々しそうに舌打ちした。
(まさか、あいつに脅迫されるだなんてな・・)
絶大な権力を持った大物政治家である自分が、あんな鄙(ひな)びた田舎町の男娼風情から脅迫されるとは、夢にも思わなかった。
『あんたに話があるんだよ。』
『なんだ、急に?』
『もうあの坊やからは手をひきな。そしたらあの忌々しいファイルを綺麗さっぱり消してやる。どう、悪くないだろう?』
『ふん、それはどうかな?』
ジョンはそう言うと、ラリーの後頭部を撃ち抜いた。
『愚かなやつめ。わたしにかなうとでも思ったのか?』
ジョンは強盗の仕業に見せかけて室内を荒らし、後はラリーのラップトップからあの忌々しいファイルを消去するだけだった。
だが、それは何処にもなかった。
(あれさえ見つかれば、わたしは政治生命を絶たれることはない!わたしの邪魔をするものは殺してやる!)
「なぁ、どこかで食べるか?」
「うん。」
「美味いステーキを出すダイナーがある。そこへ行こう。」
銀行を出たウォルフは車を走らせてダイナーへと向かうと、丁度ランチタイムの時間帯で店内は込み合っていた。
「どうする?」
「向こうが空いてる。」
ウォルフがそう言って躊躇いなく奥のテーブルへと座った途端、今まで騒がしかった店内が急に水を打ったかのように静まり返った。
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